始動
そは光と共に私は杖をテラスに打ち付け、祝詞を唱える。
「我は誇り高き光の眷属」
杖がふわりと光を放つ。
「我の祈りを聞き届け、聖なる御加護を与えたまへ」
杖の魔石が光り、城より一回り大きい魔法陣が構築される。
「己が居場所を守る為、最上の祝福を賜らん」
私の手から大量の魔力が流出し、魔法陣が魔力で満ち始める。
…魔力が消えていくぅっ!ひぃぃっ!
魔力が引き出されていく不快感に耐えながら、祝詞を続ける。
「御身に捧ぐは我が力、光の秩序を正す為」
魔法陣が完成し、一層強い光を放つ。
「あらゆる物を守り抜く、光の盾を我が手に!」
コォォン…
鐘の様な音があたりに鳴り響き、城を包む光の盾が広がっていくのが見えた。
…なんとか完成した…。
ランプルもマティアもヘトヘトだ。
私は杖から手を離し、ドサリと音を立てて座り込む。
「はぁ…」
「流石に母様でも疲れるのですね」
くたびれた顔のマティアがそう言った。
「流石に、ね」
マティアとランプルの補助があってもここまで疲れるのだ。一体1人でやっていたらどうなっていたのだろうか。
…絶対しばらく動けなかったよね…。
回復薬とか飲まなきゃいけないかな、なんて考えていると、魔力が回復し切ったのがわかった。
…クリスタルローブのおかげで自動回復が早い!楽ちん楽ちん!
私は杖をランスの形に戻し、立ち上がる。
「もう回復したの!?」
ランプルが驚いた顔で聞いてきた。
「ふふ、すごいでしょ」
「いーーなー」
ランプルが羨ましそうに言った。
「じゃ、私は戦場に行ってくるから。ちゃんと結界維持してね」
「頑張るよー」
「善処します」
マティアとランプルに魔力供給先を変更し、私はポケットから二つの魔石を取り出した。
「万が一の時には、これを杖に押し当ててね」
この魔石は、私が魔石爆発寸前まで魔力を込めた物だ。
「多少の時間稼ぎにはなるはずよ」
2人はそれを受け取り、ランプルはテラスの床に、マティアはポーチに入れた。
2人は私に向き直り、少し心配の浮かぶ顔で、
「いってらっしゃい」
と言ってくれた。
「いってきます」
私も笑顔で答えられたことを、嬉しく思う。
結界を通り抜け、私は大地に足をつける。
…ここからはだれがどこで死んでもおかしくない戦場だ。
そう思いながら、私は力を込めて大地を蹴った。
開戦前日。
闇の軍勢本拠地にて。
左半身に闇の鱗がびっしりと生えた仮面の少女、部下からは「黒鱗の姫君」と呼ばれるその少女は、戦争を起こすことを受け入れていなかった。
彼女は玉座に座る者、即ち「暗黒王」におずおずと聞いた。
「本当にこれでよろしかったのですね?」
「暗黒王」は少女に強い魔力圧をかけた。
「何度言わせるつもりだ。もうすぐ、もうすぐなのだぞ」
姫君は少し悲しい目をした後、
「申し訳ありません」
そう小さく呟いた。
少し間を開けた後、「暗黒王」が口を開いた。
「お前の事情も分かっている。この戦いでは、我々が悪役だということも」
少女は瞳を曇らせた。
「だが、これが正しい選択なのだ。あいつらには「真実」を教えなくてはならない」
少女の表情は暗くなっていく。
「たとえその道で、あいつを殺すことになっても」
その言葉に、少女は怒りを露わにした。
「それはっ…!!」
兵士に止められ、「暗黒王」を睨みつける少女の瞳は、強い怒りと妬みを孕んでいた。
「正しいのはこの私だ」
「暗黒王」は月のない空に向かって、そう呟いた。
兜の隙間から、見覚えのある瞳が見えた。




