月の導き手
星がよく見えたその日の夜。
リディオがデッキにやってきた。
「ごきげんよう、リディオ」
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
相変わらずの洗練された所作だ。一体どれだけの訓練を積んだのだろうか。
「それで?お話って何かしら」
少し間を挟んで、リディオが口を開いた。
「闇の首飾りが爆発したとき、私を呼ばなかったのは、私の家に大祖様がいないからですか?」
その言葉を聞いた時、私は言葉に詰まった。
たしかに、その家の起源たる神が、アステリー家には存在しない。
アステリー家の大祖様は、星の神。
はるか昔に、魔神によって、殺害されている。
夏の季節が近いからだろうか、生ぬるい風が頬を撫でるように通り過ぎていく。
私は彼を傷つけてしまわないか少し心配になったが、これは話さなければならないことだ。
「そうね、それもあるわ」
少し悲しい顔をした彼は、私に
「それも、ということはまだ理由があるのですよね」
「そうね、これはあなたに関する、あなたを呼ばなかった一番の理由」
私は、手に光の魔力を生み出し、四芒星を作り出す。
「アステリー家のあなたなら、人には生まれた時から星を持っていて、それをつなげることで、人との絆ができていることを知っているわよね」
「もちろんでございます。アステリー家は元はそれを管理する役目でしたから」
人々がもつ星は様々だ。大きさも、何芒星であるかも、扱いやすさも。
「私が持つ星は、代々守護神が持つ『太古の四芒星』。そしてあなたは、最も扱いの難しい『移ろいの六芒星』」
クリスは『調和の十芒星』。
ランプルは『護りの七芒星』。
マティアは『愛しの九芒星』。
フォトスは『真実の十二芒星』。
「貴女の妹であるエナリアちゃんも、あなたと同じ六芒星」
リディオは何が言いたいのかわからない、という顔をしている。
「もし私が、あの時、あなたを呼んで結界を維持しきれなかったら?」
「そんなことがあるはずは..!」
「あり得るあり得ないの話じゃない。守護神だって限界がないわけじゃないの。現に私はあの時ものすごい勢いで魔力を持っていかれたわ」
そう私が言うと、リディオはうつむいてしまった。
「もし爆発をあなたが喰らって、空に還ってしまったら、エナリアちゃんの導き手が誰もいなくなってしまう」
彼は不可解な顔をしている。
「代わりなどいくらでも..!」
「あなたにとってそうでも、エナリアちゃんにとってはそうではない。かつて月神が星神を目印に廻っていたように、エナリアちゃんにとっては、あなたしか頼れる人がいないのよ」
リディオは、どうやら後先のことを考えられていなかったらしい。
...あの状況だったら考えが追い付かなくても仕方ない気もするけどね。
「私のようなものがエナリアの星になれるのでしょうか」
「私から見たエナリアちゃんは、貴方のこと海渡の星のように思っているように見えたわ。それに昔、お茶会をした時にエナリアちゃんはこう言っていたわ」
『いつかお兄様の隣に堂々と立てる、頼れる妹になりたいんです。圧力に挫けず、何度も立ち上がるお兄様は私の憧れです』
「!」
「エナリアちゃんがそう私に胸を張って教えてくれた、それは紛うことなき星への羨望だったわ」
「そうですか……エナリアが」
少しだけ嬉しそうに頬を緩ませ、「お話を聞いてくださりありがとうございました」とリディオは深々と頭を下げ、立ち去った。
その日は、一番星がよく見える夜になった。




