26-1 奪われた笑顔①
王国中央区・三好仙熊の屋敷。この日、神太郎は長兄仙熊に会うためここに訪れていた。新しい恋人を紹介するためだ。
「初めまして、お義兄様。シャノン・ローディオットと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした」
「こちらこそ時間を作れずに申し訳ない。神太郎の兄でキダイ王国宰相を務めます三好仙熊です。キダイへようこそ、シャノン王女」
応接室にて仙熊はシャノンを歓迎した。
「ここでの暮らしには慣れましたか?」
「ええ、神太郎さんや千満さんが良くしてくれています」
「それは良かった。貴女の滞在はキダイ王国が関知しない非公式なものです。けれど、ここでの生活は我々三好家が責任をもってお世話させて頂きます。何かありましたら遠慮なく私に申し出て下さい。ご期待に応えられましょう」
「お気遣いありがとうございます」
尤も、相手がエイゼン王女となれば義兄としてより宰相としての面の方が大きかった。
「では、申し訳ありませんが予定が入っていますので、この辺で。……神太郎、ちょっと」
短い挨拶を終えると多忙の仙熊は席を立った。神太郎を連れて。
そして廊下に出ると弟に本音を明かす。
「王女を連れてくるとは大胆だな」
「いいでしょう? 可愛いし胸もデカイ」
「彼女を人質にするのはメリットもあるがデメリットも大きい。丁重に扱えよ。決して危険な目に遭わせるな。しかし、お前の性欲には呆れるぞ」
「仙兄だって同じムジナだろ?」
「うん?」
「ほら、以前パーティーの時に話してた、サラティナ王女をゲットするために宰相をしてるって」(EP2・『兄、宰相 姉、公爵夫人 ……俺、門番』より)
「あー、あれは建前だ」
「嘘?」
「あの場にはお前のもう一人の彼女がいたしな。俗っぽいことを言って野心を誤魔化しておいた。俺が宰相をしているのはこの国を俺たち三好一族の楽園にするため。こんなこと、公の場では口に出せないだろう」
「あぁ、反逆罪に捉えかねないからね」
「以前の世界……。日本ではどうなった? 良き世界にすべく必死に足掻いたが、結局居場所を失ってしまった。同じ轍を二度と踏まないためにも、今回はじっくり慎重に事を進めいたい。……が、父さん母さんの行動は敵を増やしかねないものだ。エイゼンを攻撃するなんてな……」
「仙兄も大変だねー。中間管理職感があるよ」
「だから、お前も振る舞いに気をつけろよ。シャノン王女を連れてきたせいでエイゼン国王が激怒しているとも聞くからな。悩みの種を増やさないでくれよ」
家族に振り回されながら家族のために頑張る長兄であった。
そして、応接室に戻った神太郎はシャノンにもう一人紹介することにする。
「さて、帰る前にもう一人挨拶しておくか」
「もう一人?」
宰相屋敷なだけあって広い敷地にはいくつもの別棟があり、二人が赴いたのはその内の一つ。本棟よりはこじんまりとしているものの綺麗な館で、館内も掃除が行き届いている。そこの主人が紹介したい人物だ。
「あ、神兄、来てたんだ」
三好家末子、三好冬那である。まだ十三歳の彼女は長兄の世話になっていたのである。とはいえ寝食は本棟、別棟で別々。互いに多忙なので顔を合わせない日も多い。冬那自身にも所得があるので、空いている館を使わせてもらっていると言った方が正しいだろう。
そんな彼女を神太郎は会うなり抱き締めた。
「おー、可愛い可愛い俺の冬那。最愛の妹よ~」
頭を撫でて溺愛、溺愛、溺愛。ポーカーフェイスの冬那は顔色一つ変えなかったが、片やそれを見せられたシャノンの方は少し顔を引きつらせてしまった。嫉妬心から。
恋愛と兄妹愛が違うものとは知っているが、それでも割り切れるほど歳は取っていない。
ただ、次の神太郎の言葉でそれは掻き消される。
「冬那は宮廷薬師をしているんだ」
「薬師? 医療に従事されているのですか? 苦しんでいる人々を助けるお仕事なんてとても素晴らしいです!」
人助けという仕事が彼女の慈愛心をくすぐった。
更に……、
「今日もこれから診察がある」
「見学させてもらってもいいですか?」
「別に構わない」
という感じで、二人は予定まで入れてしまう。
そして、この後デートでもと思っていた神太郎は「え?」と戸惑うも、大好きな妹の働きぶりを見るのも悪くないと思い直すのであった。




