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3.災禍の森 / 平穏

 グレイス達の村に留まって2週間程が経った。装備類は当初の予定を遥かに越えるスピードで準備できている。アテナの身体も修理が完了した。

 ここは名目上は研究室でも、その実態は工作室の様でもあった。備え付けてあった工具はかなりの高性能で、現代日本の工作機械とも良い勝負。しかもこちらのオーダー通りに自動で加工を進めていくことも可能だった。


「マスター、そろそろお時間です」


「おっと、もうそんな頃合いか。ちょっと急がないとな」


 荷物をまとめて研究室を出る。今日の予定は、武装のテストを兼ねた戦闘訓練と、村の人から頼まれていた色々な雑用だったな。


「悪い、待たせたかな」


「いや問題ない。私も今来たところだ」


 まずは装備のテストからだ。プロの意見も聞きたいからグレイスにも協力してもらっている。


「それじゃ始めるか。アテナ、最初はルプスリッターからだ」


「分かりました。換装します」


 アテナが左手首のブレスレットを操作すると、全てのパーツが一度に呼び出され、その後わずか1秒弱で換装が終了する。


「ルプスリッター装着完了。システムオールグリーン。どうかなっ、マスター?」


 ここ数日の調整の結果、ルプスリッターにも色々と改造を施した。外見的には、ファンタジーな鎧の雰囲気は残したまま、SFチックなパーツを追加した感じ。後はソフト面をより最適化したり、追加パーツを扱うためのモーションパターンを俺の記憶から学習させたりと色々やってみた。それだけしても性格の変化は相変わらずってことで、そこら辺はユニット全体のもっと基幹的な部分が影響してると考えている。


「まず基本モーションのチェックからだ。テスト項目の1から10までをやっていくぞ」


「了解! 行くよっ!」


 元気良く返事してそのままテストを開始する。決められた動きをなるべく速く正確に行っていくこのテスト、アテナは次々とクリアしていった。


「……バランサー補正チェック、クリア。……連続モーションテスト、クリア。……よしOKだ」


「やはり素晴らしい動きだな。魔導人形マギアドールか……興味深い」


 グレイスには魔導人形のことを始め、大分だいぶ込み入ったところまで話しておいた。今後のことを考えると、隠しておかない方が良いような気がしたからだ。


「次はスラスターの最終チェックだ。残りの項目を最後まで終わらせてくれ」


「了解!」


 ルプスリッターを改修するに当たって2つ程の新機能を搭載してある。

 1つは全身各部のスラスターだ。原理としては、物体に速度を与える魔法陣で魔素マナを吹き出すだけの簡単な仕組みになっていて、バックパックの大型スラスターを中心に肩アーマーや大腿部などへ増設した。

 2つ目の改修部分も、このスラスター周りに関係している。機動性を高めた結果、カメラ映像――――人間でいう視力だけでは追従しきれなくなってしまったので、補うために高感度複合センサーを導入した。元々は只の飾りだった狼耳に実用性を持たせたものとなる。大気の流れや魔素の濃度と動き方、その他様々な情報から、自身の状況を認識することを目的とした装備だ。

 今、俺の目の前では、それらを駆使した立体的な動きが披露されている。前と思ったら後ろ、右に走ってるはずが何時の間にか上に居る。尻尾もバランサーとして機能するようになり、何も無い空間を縦横無尽に駆け巡る。アテナの動きはまるで芸術的な舞踏のようだった。


「全工程チェック完了。もういいぞ」


 いつまでも見ていたかったけど流石に時間が押している。他にもやることがある以上、1つのことばかりはやっていられない。


「マスター、私の動きどうだった?」


「いい感じだったぞ。速いし正確だし、スラスターも上手く使いこなせてたみたいだな」


 感じたままに答えてやる。アテナにもルプスリッターにも特に問題点は思い付かなかった。戦闘慣れしているグレイスからも高評価を貰った。実戦でも十分に使えるだろう。


「じゃあ次は俺の番か」


 これはテストというよりも純粋な訓練に近い。この前の反省を生かして剣に刻まれていた戦闘補助の魔法陣を新しく作ったブレスレットに移植してあるが、今更テストが必要なものでもない。

 と言うわけで、これからやるのは補助無しでの基礎練習と補助を受けた上での実戦訓練だ。何らかの理由で補助が無くなったとき、一気に無力化されるのは危険だし、補助があるときも基礎体力や基本的な剣術なんかは身に付けておく方が良いはずだ。幸い、研究室の資料にこの世界の剣術の流派やそれぞれの型についてのものもあったから、それを参考に練習している。


「……今日はこのくらいにしておくか?」


「ん? ああ、確かにそんな時間か」


 休憩を挟みつつ、基礎体力のトレーニングや剣の型をなぞっての稽古をしたり、補助を付けてグレイスと打ち合ったりもした。それなりに集中してたからか、気付いたら日が高くなるぐらいにはなっていた。


「お茶をお持ちしました。グレイス様もどうぞ」


 アテナが淹れてくれたハーブティーでのどを潤す。火照った体に爽やかな風味が染み渡る。


「えっと、今日は何からすればいいんだっけ?」


「本日はホレス様宅の扉とイアン様の農具の修理、それと複数名から依頼のあった刃物類の研ぎ直しが予定されております。ここからだとホレス様の家が一番近いのですが、まずは汗を流して着替えなさるべきかと」


 確かにアテナの言う通りだ。汗まみれの格好じゃ人前には出られないよな。


◇◇◇


「ほい、研ぎ終わり。ついでに柄が少しグラついてたから直しといたよ」


「助かったぜ。ありがとよ」


 今のが最後の1人だったか。ここに来て3日目から、泊めてもらうお礼として研究室の設備を使う練習を兼ねた何でも屋みたいなことを始めてみた。最初は警戒されていたけど、今はそれも薄れ、そこそこ頼りにされてるかなー、なんて思ったりして。


「大盛況だな。私の短剣ダガーも研いでもらえるか?」


 1名追加。もちろんグレイスだ。


「はいはい。少々お待ちください、っと」


 受け取った短剣にスマホの画面をかざす。これくらいの加工なら、わざわざ研究室まで戻らなくても十分に出来る。充電器も作ってあるからスマホのバッテリー残量は気にしなくてもいい。

 刃の全体に光が当たるようにスマホを動かしていく。はたからは“研いでいる”ようには見えないだろう。これは、金属を操作する魔法で剣の形状を直接整える作業だ。正確なイメージが必要になるが、特別な技術を使わずに金属加工が行える。


「……ま、こんなところかな」


 研ぎ上がった短剣をグレイスに返し、対となるもう1本を受け取る。


「シュウ達は明日の予定はあるか?」


 2本目の加工を始めたとき、グレイスからそんな質問をされた。


「特に決めてなかったかな」


「なら少し手伝ってもらえないか? ここ最近、森の様子がおかしいような気がしてな。確認しに行きたいんだ」


 そういうことか。特に急ぎの用事はないし、森というなら()()を試すにも丁度よさそうだ。


「分かった。何か準備する必要はあるか?」


「そこまで深く入らないつもりだからな。いざというときは村にも戻れるし、あまり過剰な準備は要らないはずだ」


「了解。集合は何時いつにする?」


「昼前がいいな。深く潜らないとしても、それなりに時間を掛けて探索しておきたい。集合場所は……私の家でいいか?」


 それから雑談交じりに色々と話し合い、探索の予定を詰めていった。時期的に丁度いいらしく、山菜やキノコ、木の実なんかも狙い目になるそうだ。集められれば何かと役に立つだろう。

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