6.竜炎 / 砲火
本日5回目(今話ラスト)の更新です。
「ぃよっし!」
これでとりあえずの目的は達成したことになる。
「クッソ……。俺の剣、返しやがれ……!」
けどそれだけで全部が終わる、とはいかないよな。
「そう言われて返すわけないだろ。……一応言い訳しておくけど、これが窃盗罪ならお前がフレイや親父さんを攻撃したのは傷害罪ってことになるからな?」
「はぁ!? 人間じゃない相手に何したって犯罪じゃねぇだろ!?」
「お前ならそう言うと思ったよ。じゃあ人間じゃない相手に何されたって犯罪じゃないな?」
暴論なのは分かっているが、それはお互い様だろう。
そうこうしている内に、勇者は新しい長剣を手に取った。流石に武器の予備ぐらいは用意してるか。
目的を達成した以上はここでやり合う必要は無いけれど、大人しく逃がしてくれるとは思えない。さてもう一頑張り――――と思ったそのとき、横から飛んできた何かが勇者にぶつかった。
「シュウ、大丈夫か?」
「……ナイスタイミング!」
飛んできたのはグレイスと戦っていたはずのナイフ使い。当のグレイスは大剣状の武器を振りかぶったままの体勢になっているから、彼女が殴り飛ばしたと見て間違いないだろう。
「ん……。大体終わってしまったか。遅れて済まないね、マスター」
ウルスファウストを装備してアテナが戻ってきた。その手には魔術師の女が引きずられている。
「お……お疲れ。わざわざ持って来なくても良かったのに」
「いや、そう思ったんだけど。ちょっと気になることが」
そう言ってアテナは勇者の方を見る。よろよろと立ち上がる勇者から仄かに黒い靄が立ち登り――――
「E型の魔物と同じ!?」
「僅かだけど急に反応してね。仕留めるのも放置するのも厄介なことになりそうだ」
そのタイミングで勇者が斬り掛かってくる。受け止めるのは難しくなかったけど、さっきまでより圧が強まっていた。これじゃ押し切られ……っ!
「シュウ!」「マスター!」
グレイスは武器をシンプルな長剣に変え、アテナはルプスリッターに換装して鍔迫り合いに加勢してくれた。3人分の力で勇者を押し返す。
「……ったく、仮にも勇者ならもっと正当にパワーアップしてくれよ」
靄を纏ったその姿は勇者というには余りにも禍々しい。
「そんなこと気にしている場合か」
グレイスの注意を受けて勇者に向き直る。こちらに来ると思ったけど、彼の視線は別の方を向いていた。
「……っ! フレイ! そっち行ったぞ!」
勇者の狙いは彼女だった。
「オレの剣……!」
剣を振り下ろす勇者。対するフレイは、奪取したばかりの長剣で迎撃する。2人の斬撃がぶつかる寸前、フレイの持つ剣の刀身が炎を帯びた。そのまま勇者の持つ剣を溶断する。
「な、なんだそれ……! オレが使ったときはそんなことにならなかったぞ!」
「この剣、父さんの竜核が使われてるでしょ。けど、あなたじゃその力は引き出せないよね」
彼女の目には、炎に負けないほどの熱が込もっていた。
「父さんの代わりに……私がお前を倒す!」
「トカゲが偉そウに……!」
様子が変だ。『侵蝕スル者』の靄もさっきより濃くなっているような気がする。
勇者が武器を失ったのはさっきと同じだけど、新たな物を取り出すでもなく、かと言って撤退するわけでもなく、素手でフレイに向かっていった。
「何度来たって……え!?」
早い!? それに一撃が重くなってる! 型も何もないパンチに見えたけど、それを受けたフレイは大きく後退させられていた。
「マスター、あいつからのE型の反応が段々強くなってる。あれ、もう人間ってレベルじゃないよ……」
「手加減して押さえるのは無理か。……しょうがない」
フレイを追撃しようとする勇者。そこをマギアブレイガンで銃撃する。
動きを鈍らせられれば十分なつもりだったけど、勇者は一瞬だけ硬直し、そのままこっちに狙いを変えてきた。
「おいおい、ちょっと素直すぎないか!?」
それになんか、段々と理性が失われているみたいにも見える……ってか確実に失われてるな。
「ウルスファウスト、オンライン!」
勇者の拳をアテナが受け止める。拮抗する一瞬を突いてグレイスが背後に回り、勇者の腕にナイフを突き立てた。
「ここは任せてくれ。シュウはフレイを!」
「よし、頼む!」
◇◇◇
「フレイ、大丈夫か?」
「全然! だから……邪魔しないで!」
見るからに焦ってる……いや、躍起になってると言った方がいいか。まるで内心を表すかのように、彼女の口からはチロチロと火花が漏れていた。
「まずは落ち着けって。邪魔するつもりなんて無いよ」
「だったら……!」
「まあ聞け。原因はともかく、あれのパワーアップは尋常じゃないし、俺達の目的にも無関係じゃなくなった」
「……だから?」
「ここまで一緒にやったんだ。最後まで協力させてくれよ」
フレイはほんの少しだけ戸惑いを見せる。それでも、小さく、しかし確実に頷きを返してくれた。
「分かった。……ありがとう」
「よし。と言っても、残りの2人はしばらく復活しなさそうだし、4対1の内にサクッと終わらせるぞ」
アテナとグレイスが良い感じに牽制してくれているから、攻撃に集中するのはさっきより簡単になっているはず。問題は勇者の防御力が時間経過につれて高まっているように見えることだけど。
「因みに、何か大技とか持ってたりする? チマチマ削るだけじゃ埒が明かなそうでさ」
フレイはそこで長剣に目を落として答えた。
「多分、ある。この剣から父さんが教えてくれた? みたいな感じがする……」
スピリチュアルな話だけど、ファンタジーならそういうことも普通にあるだろう。ドラゴンから教わる技か。なんかワクワクするな。
「ただ、私じゃ撃つのに少し時間が掛かりそう。動きを止めないと当てられないかも」
「そこは任せろ。ともかく、まずは2人と合流するぞ」
フレイと並んで戦場へと戻る。
「マスター、彼女は大丈夫かい?」
「ああ! ともかく一旦代わる! グレイスと一緒に体勢整えてくれ!」
2人がその場から飛び退くのと同時に、フレイと合わせて勇者に斬りかかる。しかし、斬撃は両方とも靄に阻まれた。金属を叩いたような感触と硬質な音を残して剣が弾かれる。
「いや硬ったぁ!? これ、早く仕留めないとマジで手が付けられなくなるぞ……!」
「父さんの技なら絶対に大丈夫! シュウ、やるよ!」
「おう! ……アテナ、グレイス、あと少しだけ足止め頼めるか!?」
「もちろんだ!」「了解」
再び立ち位置を入れ替え、勇者が足止めされている間に準備する。フレイが集中力を高めている横で、事前に用意していたもう一つのGモバイルを起動させ、マギアブレイガンに装填した。
――――Military! Finisher Program Activate.
「いけるか!?」
「うん! 竜の炎……見せてやる! 『デミ・レッドブレス』!」
「これで吹っ飛べ!」 ――――Military! ErasingShoot!
銃口の前に魔法陣が展開。そこから緑色の閃光が撃ち出される。いわゆる照射系ビームに分類される攻撃だ。
それはフレイの吐いた火炎放射と一緒になって、勇者の身体を飲み込む。もちろんアテナとグレイスは着脱直前に効果範囲から離脱していた。
「……どうなった?」
光と熱の奔流が収まり、その中にあった物が見え始める。
勇者は文字通りの満身創痍でありながらも、辛うじてその場に立っていた。
「なんと頑丈な奴だ……」
思わずといった感じでグレイスがこぼした。それには同意しつつも消耗戦に向けて気を引き締める。しかし決めた覚悟はどうやら無駄になりそうだった。
「反応増大! マスター、退避!」
アテナの警告通り、勇者の身体から大量の靄が急激に噴出した。慌てて距離を取って様子を伺うが――――
「さーて、これどうしたもんかなぁ……」
吹き出した靄は勇者とその仲間達を包み、その姿を巻き添えにして跡形もなく消えてしまう。散々 と梃子摺らせてもらった相手の最期にしては、余りにも呆気なく、静寂に満ちたものとなるのだった。




