護送車
護送車それは、警察などが利用する特殊車両の一つ。警察が逮捕した被疑者の身柄を警察署・裁判所・拘置所等へと移送するための車両である。
大きさは、
ワンボックスカーやミニバンベースの小型のもの。
マイクロバスベースの中型のもの。
全長約9メートル程ある中型バスがベースの大型のものがある。
屋根に警光灯があり、窓に覗き見防止のスモークフィルムやカーテンに、逃走防止の鉄格子がついているのが特徴的。
なお、外からではわかりにくいが、ドアにカンヌキが付いるものもあるとか。
運転席は、被疑者が暴れて運転手に手を出さないように、壁等で遮断されている。
護送車はまさに、その名の通り被疑者を安全に護送する事を目的として、特化した車なのだ。
そんなに護送車を、桜島達は大阪からの脱出に使用しようとしているのだ。
「桜島さん、本当にこれを使う気ですか?」
「ああ本気だ!」
「マジか…」
桜島の顔は、嘘偽りを一切感じさせないものだった。
「大丈夫だ。ガソリンは満タンにしてあるし、自分等なりに手入れもしておいた。」
「イヤでも護送車ってのが…」
「あぁまあ確かに、余り乗りたくはないだろうな…しかしだ、背に腹は代えられないって言うだろ⁉贅沢は言ってられないぞ!」
「そりゃそうですが…」
頭では理解しているが、いざ乗るとなると気が引けてしまうのだ。実際、辰馬の仲間にもこれを使うことに気乗りしない者もいる。が、辰馬が言うように、背に腹は代えられないと割り切っているのだった。
等と話していると、工具箱を持った男がやってきた。
「おっ、誰かと思えば響じゃないか!」
「おう辰馬!」
辰馬と男が軽く挨拶を交わした。
「おいよっちゃん、あの男…」
「あぁ、あの時の…」
そう、その男は最初に走・正一・剣持が武器を求めてこの警察署を訪れた際、正一に銃口を向けていた男だ。
「紹介するぜ、コイツは宇島 響、自動車整備士をやってる俺の友人だ!」
「宇島だ、よろしく…ってお前等は…」
向こうも気付いたようだ。
事情を知らない者達に簡単に説明し、
「いやー、あん時はホント悪かったな…怖い思いさせちまって…」
「もう済んたことです、気にしてませんよ。」
「そう言ってくれると助かるぜ…」
「ところで響、工具持ってどうしてんだ?」
「いや何、明日に備えてな、コイツ等の最終点検をしとこうと思ってな!何か見落としがあったら、洒落になんないからな!」
「そうか、そりゃ助かるぜ。それじゃあ、邪魔になると悪いから、現物はここまでだ!」
辰馬の指示で、見物はお開きとなった。
「じゃあな響、頼んたぞ!」
「おうよ!」
桜島達が引き上げていき、宇島1人となった地下駐車場は、一気に静かになった。
1人っきりになった宇島は、軍手に安全メガネを装着した。
「そんじゃ始めっかな!」
と、独り言を言いながら、作業を始めた。
作業は進み、車内を見ようと護送車の中に入った。その時、
ブーン!!
と、羽音が聞こえてきた。
「!!」
バッと、羽音のする方に顔を向ける宇島。
そこには普通の蚊と比べると、そこそこ大きい蚊が飛んでいた。
「なんだ…少しデカいけど普通の蚊か、こんな時期に…」
ホッとため息をつく宇島。彼に限らず、今大阪にいる人間全てが、蚊の羽音に敏感になっていた。
蚊は護送車の窓ガラスに止まった。
それを見た宇島は、そっと蚊に近づき、手で蚊を叩き潰した。
蚊が潰れると同時に、
ブシュ!
と、蚊を叩き潰すのとは別の音が聞こえた。
「なんだ⁉今、変な音がしたような…」
周りを見渡すが、特に気になるものはない。
「気のせいか…」
宇島は潰れた蚊をズボンのポケットから取り出したポケットティッシュで拭いて丸め、後で捨てようと工具箱のフタの上に置いた。
宇島は何事もなかったかのように作業を続け、やがて作業に集中し、丸めたティッシュの事など完全に忘れてしまった。
ティッシュは工具を取り出した時のはずみで、フタの上から落ち、車内の床の端っこへ行ってしまった。
ティッシュはそのまま放置された。
護送車内の床に転がる丸まったティッシュに、気を向ける者は、誰一人としていなかった。