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鼓舞

 食堂にほんの一瞬だが、緊張感が走った。

 食堂という本来、皆が食事をとり、人によっては本を読んだり、友人と談笑する様に、この様な雰囲気になることはない場所だが、今の大阪では決して珍しくはない。

 そして、高倉が口を開いた。


 「一先ず私達地下にいたメンバーは、今いる警察署に来る事が出来た。最も、全員ではないが…」


 空気が重くなった。

 ここに来る途中、1人ではあるが、犠牲者が出てしまった。それを元々地下にいたメンバーが思い出した。その瞬間を間近で見ていた者もいる。

特に剣持は、親友が命を落とす場面をフラッシュバックさせていたので、人一倍脳裏に焼き付いている。

 

「しかしだ、悲しんでいる暇はない。死んでいった者達の犠牲を無駄にしないためにも、この作戦はなんとしてでも、成功させなければならないのだ。気を引き締めてくれ!」


 高倉が力を込めて発した。

 彼の言うことは最もだが、だからといって簡単に前を向けることは難しい。

 そんな中、桜島が口を開いた。


 「俺の方から少し話させてくれ。」


 少しためてから、続けた。


 「この大阪に例のデカい蚊が発生した日、俺等はたまたまこの辺に遊びに来ていた。そんな時にこの事件に巻き込まれた。最初は突然の自体に何が何なのか分からず、半分パニックになった。しかし、目の前で人が死んでいく光景を自身の目で見て、正気に戻った。それから、仲間と共に一目散に逃げ出した。そしてこの警察署に逃げ込んで、今に至るわけだ。」


 そこまで話してから、桜島は一同を見渡した。


 「しかし今この警察署にいる者が、あの日一緒に行動していた者全てではない。途中、何人も犠牲になった…」


 話を聞き走達は、回しを見渡した。警察署にいるメンバーの多くが、顔を曇らせていた。当時の事を思い出したのだろう。


 「その中には、俺の親友も何人かいた。一緒にツーリングやキャンプに行ったりした仲だ。そんな親友が目の前で得体の知れない蚊に襲われ、血を吸われ干からびていく、その姿は今でも鮮明に覚えている。助けようと思った!でも、出来なかった…」


 話によると、助けようと歩み寄ったが他の蚊が次々にと集まって来て、素手の彼にはどうすることも出来なかった。近くには、妹の巳兎もいる。やむを得ず逃げることを優先した。

 死にゆく親友を尻目に逃げた。幾度となく、


 「すまん…すまない…」


 と数え切れないほど、涙を浮かべながら思ったのだという。


 「悔しかった。俺に力が、何か武器の一つでもあれば救えたのかもしれないのに…しかし、今は違う!武器もある、同じ志を持つ者たちも大勢いる!これ以上、蚊共に好き勝手にやられてばかりじゃない!もうあんな思いしたくはない!」


 その後も桜島は、決意のこもった目で皆を見ながら力説を続けた。その言葉に、その場の全員の闘志が湧き上がってきた。


 「殺された皆の仇を打つつもりで蚊に挑め。今ここにいる皆の力を合わせるんだ!そして、生きて大阪(ここ)から脱出するんだ!皆いいな!!」


 桜島の演説は終わった。それと共に、


 「「「オーー!!」」」

 

 と、食堂中に歓声が響き渡った。


 「スゲ~な桜島さん…」

 「ああ、これだけの人々の気持ちを掴んでしまうとは…」


 走と正一が感心している。

 そこに、嵐子が入ってきた。


 「アイツならこのくらい、わけないよ!」

 「鬼童町さん!」

 「アイツは幼い頃から周りの人間を引き付け、纏めことに長(た)けてたんだ。アタイ達も元々はバラバラだったんだが、アイツが1つに纏めて、この辺でもそれなりに名の知れたグループにしたんだよ!」

 「へぇー!」


 感心してから再び桜島を見る走。皆を鼓舞した桜島の姿に走は、男気を感じた。

 地下にいたメンバー達が、桜島辰馬という男の、リーダーとしての器の大きさを認識した瞬間でもあった。


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