朝2
誤字脱字報告、ありがとうございます!遅くなりましたが、この場を持ってお礼申し上げます。
大石達と別れた走達は再び歩みを進めた。
「何とも異様な光景だったな…」
「えぇ、あそこだけスポーツジムみたい。」
「でも、あの人達が戦力である事は事実だ。本番でも頑張ってもらわないとな。」
「まあな…」
等と話していると今度は、双子の新堂姉妹と出くわした。洗面をしていたようで、タオル等を持っている。
髪と服装こそ違うが、並んで歩くその姿は、見事にシンクロしているのだった。
走達は改めて、彼女達が双子なのを再認識したのだった。
「あっ皆さん、おはようございます!」
「おはー!」
「登紀子!適当な挨拶しないの!」
「ハイハイ!」
「ハイは1回!」
と、双子の姉妹はこんな感じで、しっかり者の姉有希子が、妹登紀子をたしなめている。その様子は、姉妹というより親子の様だ。
双子ながら性格は真逆な2人。しかし、不思議と仲は良い。喧嘩も殆したことがないくらいに。
そんな姉妹の姿を見て、走達は微笑ましい気分になった。先程のむさ苦しい光景とは雲泥の差だ。
「ふふ、あなた達って、本当に仲いいわね。」
「そうですかね…」
「そうだよ。俺が住んでたアパートの3件隣の部屋に住んでる、兄妹なんてしょっちゅう喧嘩してんだぜ。それもオヤツが〇〇の方がでかいとか、テレビのチャンネル争いとか、しょうもないばっかだ!」
「そう言えば、前にそんな事、話していたわね。」
「俺も走のアパートに遊びに行った際、聞いたよ。随分と騒がしかったよな…」
「あぁ、でも今となっちゃ懐かしい光景だ。」
そう言うと走はふと気がついた様な顔をした。
「そういや、その兄妹…」
「??」
「無事だと良いんだが…」
「!!」
一同がハッとした。
ここに居る皆が皆、これまでに幾度となく人の死を目撃している。
例の化け物蚊によって、数え切れない程の命が、この大阪で消えていった。
消えていった命は、老若男女問わない。お年寄りから子供までが化け物蚊の餌食となってきた。今ここで、走達は生きてはいるがそれは言わば、運が良かったに過ぎない。死を覚悟した事は、両手の指で数えられないくらいある。
今話した兄妹。生死を知る術を走は愚か、誰も持っていない。
「あの頃は五月蝿いなとしか思ってなかったが、だからといって、消えて良し何て言うつもりは無い。無事だと良いんだが…」
「………」
皆が皆、黙り込んだ。そこへ、
「あらどうしたんだい、暗い顔して?」
「御子柴さん!」
看護師の御子柴チエミがやって来た。側に杖をついた老人がおり、付き添いをしているようだ。
「村雲さん!」
「おはよう新堂さん!」
「知ってる人?」
「ええ、村雲 重さん。ここに身を寄せている人です。何度か貴重なお話を聞かせて貰ったことかあるんです。」
有希子が簡単に説明した。
「貴重な話って?」
有希子が少しためてから
「戦時中の事を!」
「戦時中の…」
村雲の年齢からして、戦争を体験した事は明らかだった。
「あぁ、当時の事を色々とな。空襲警報が鳴って防空壕に逃げた時の事や、B29やゼロ戦を見た事とかの…」
「実体験ですか…」
「勿論!時に君らの話を聞いてしまったんだが…」
「聞いてらしたんですか?」
「あぁ、年の割に耳は良くてな!それはさておき…」
空気が変わるのを感じ、皆が軽く息を呑んだ。そして村雲は切り出した。
「知った者の安否が気になるのは分かるが、今大事なのは、自分達が生き残る事だ!」
「生き残る⁉」
「そうだ。昔話「お国の為に」と命をかけるのが当然の様になっていた。人間爆弾として米軍に多くの若者が突っ込んで行った。所詮、大国に敵う訳もないのにな…」
「……」
「しかし今は違う。命を諦めずにいる者、誰かを守るために戦おうと意気込む者、様々だ。君達はな、死んでいった者達の死を無駄にしない為にも、生きなければならないのだ。生きていれば、親しかった者の安否を知る機会は訪れる。最後まで諦めちゃいかんぞ!」
「村雲さん…」
村雲の言葉は走達の心に大きく響いた。
「そうだ、暗くなってる暇なんてないよな!」
「ああ、それにだ、その子達もきっと何処かで生きてるさ。日本の将来を担う子供達だ。蚊なんかに負ける訳ない!」
「おうよ!蚊なんかに蹴散らして、必ず生き延びるぞ!」
「その為にも、今日から始まる脱出作戦、何が何でも成功させないとね!」
「ああ!」
走達は決意を新たに、大阪脱出作戦に挑むのだった。