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ブラッディ・モスキート  作者: Mr.ゴエモン
作戦開始
74/205

朝2

誤字脱字報告、ありがとうございます!遅くなりましたが、この場を持ってお礼申し上げます。

 大石達と別れた走達は再び歩みを進めた。


 「何とも異様な光景だったな…」

 「えぇ、あそこだけスポーツジムみたい。」

 「でも、あの人達が戦力である事は事実だ。本番でも頑張ってもらわないとな。」

 「まあな…」


 等と話していると今度は、双子の新堂姉妹と出くわした。洗面をしていたようで、タオル等を持っている。

 髪と服装こそ違うが、並んで歩くその姿は、見事にシンクロしているのだった。

 走達は改めて、彼女達が双子なのを再認識したのだった。


 「あっ皆さん、おはようございます!」

 「おはー!」

 「登紀子!適当な挨拶しないの!」

 「ハイハイ!」

 「ハイは1回!」


 と、双子の姉妹はこんな感じで、しっかり者の姉有希子が、妹登紀子をたしなめている。その様子は、姉妹というより親子の様だ。

 双子ながら性格は真逆な2人。しかし、不思議と仲は良い。喧嘩も殆したことがないくらいに。

 そんな姉妹の姿を見て、走達は微笑ましい気分になった。先程のむさ苦しい光景とは雲泥の差だ。


 「ふふ、あなた達って、本当に仲いいわね。」

 「そうですかね…」

 「そうだよ。俺が住んでたアパートの3件隣の部屋に住んでる、兄妹なんてしょっちゅう喧嘩してんだぜ。それもオヤツが〇〇の方がでかいとか、テレビのチャンネル争いとか、しょうもないばっかだ!」

 「そう言えば、前にそんな事、話していたわね。」

 「俺も走のアパートに遊びに行った際、聞いたよ。随分と騒がしかったよな…」

 「あぁ、でも今となっちゃ懐かしい光景だ。」


 そう言うと走はふと気がついた様な顔をした。


 「そういや、その兄妹…」

 「??」

 「無事だと良いんだが…」

 「!!」


 一同がハッとした。

 ここに居る皆が皆、これまでに幾度となく人の死を目撃している。

 例の化け物蚊によって、数え切れない程の命が、この大阪で消えていった。

 消えていった命は、老若男女問わない。お年寄りから子供までが化け物蚊の餌食となってきた。今ここで、走達は生きてはいるがそれは言わば、運が良かったに過ぎない。死を覚悟した事は、両手の指で数えられないくらいある。

 今話した兄妹。生死を知るすべを走は愚か、誰も持っていない。


 「あの頃は五月蝿いなとしか思ってなかったが、だからといって、消えて良し何て言うつもりは無い。無事だと良いんだが…」

 「………」


 皆が皆、黙り込んだ。そこへ、


 「あらどうしたんだい、暗い顔して?」

 「御子柴さん!」


 看護師の御子柴チエミがやって来た。側に杖をついた老人がおり、付き添いをしているようだ。


 「村雲さん!」

 「おはよう新堂さん!」

 「知ってる人?」

 「ええ、村雲むらくも しげるさん。ここに身を寄せている人です。何度か貴重なお話を聞かせて貰ったことかあるんです。」

 

 有希子が簡単に説明した。


 「貴重な話って?」

 

 有希子が少しためてから


 「戦時中の事を!」

 「戦時中の…」


 村雲の年齢からして、戦争を体験した事は明らかだった。


 「あぁ、当時の事を色々とな。空襲警報が鳴って防空壕に逃げた時の事や、B29やゼロ戦を見た事とかの…」

 「実体験ですか…」

 「勿論!時に君らの話を聞いてしまったんだが…」

 「聞いてらしたんですか?」

 「あぁ、年の割に耳は良くてな!それはさておき…」


 空気が変わるのを感じ、皆が軽く息を呑んだ。そして村雲は切り出した。


 「知った者の安否が気になるのは分かるが、今大事なのは、自分達が生き残る事だ!」

 「生き残る⁉」

 「そうだ。昔話「お国の為に」と命をかけるのが当然の様になっていた。人間爆弾として米軍に多くの若者が突っ込んで行った。所詮、大国に敵う訳もないのにな…」

 「……」

 「しかし今は違う。命を諦めずにいる者、誰かを守るために戦おうと意気込む者、様々だ。君達はな、死んでいった者達の死を無駄にしない為にも、生きなければならないのだ。生きていれば、親しかった者の安否を知る機会は訪れる。最後まで諦めちゃいかんぞ!」

 「村雲さん…」


 村雲の言葉は走達の心に大きく響いた。


 「そうだ、暗くなってる暇なんてないよな!」

 「ああ、それにだ、その子達もきっと何処かで生きてるさ。日本の将来を担う子供達だ。蚊なんかに負ける訳ない!」

 「おうよ!蚊なんかに蹴散らして、必ず生き延びるぞ!」

 「その為にも、今日から始まる脱出作戦、何が何でも成功させないとね!」

 「ああ!」


 走達は決意を新たに、大阪脱出作戦に挑むのだった。

 

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