警察署1
警察署へ足を踏み入れた走達3人。踏み入れるや否や、3人の鼻を強い刺激が襲った。
「うぇー、何だよこの匂いは?」
「何って…血のようだな…」
正一の言う通り、それは血の匂いだ。
かつては、様々な理由で署を訪れた市民を受け付ける警察署の1階ロビー。受付、指名手配犯のポスター、自販機、観葉植物等で清潔感あった場所も今や見る影もなく、人々の血で汚れていた。壁や床の至る所に血しぶきが飛んで付着している。それも時間が経ち、黒く変色している。
「スゴイ血の量だな…」
剣持も顔をしかめた。
「ここでもかなりの人が犠牲になったようだな。しかし、妙だな…」
「どうしたんだよ、何が妙なんだ、よっちゃん?」
「死体だ!死体が全然ないぞ!」
正一の言うとおり、血まみれでありながらも、死体が一体もいないのだ。
「確かに、無いな…」
「しかしだ…蚊が片付けたとは考えられないし…まさか、食われたんじゃないか?」
「それは考えられない。蚊は生き物の血は吸うけど、食べたりはしないんだよ。」
そう蚊は基本的に、生き物の血を吸いこそすれど、肉は食べたりしない。蚊は血を吸って生きていると思っている人もいるかもしれないが、蚊は血だけで生きている訳ではない。そもそも血を吸う蚊は、メスだけである。それも繁殖期等に繁殖の為の栄養を補給する為、吸血行為を行うのだ。それ以外、蚊は、オスメスを問わず蝶等と同じく草花の蜜や汁・樹液を吸って生きている。蚊もまた、虫なのである。
「しかしだ、この血の量からして、死体があったのは間違い無いだろう…少し前まではな…」
「じゃあ何で…」
「考えられるとすれば…誰かが片付けたという事になるぞ!」
「誰かって、誰だよ?」
「それは俺にも分からないが…」
正一も言葉を詰まらせた。それと変わるように剣持が、
「少なくとも、ここに誰かいるのは間違いないみたいだ!」
「剣持さん!」
剣持が刀の柄を握って、構えている。
「誰かいるみたいだ、気配を感じる…」
「気配!」
「ああ、それも一人二人じゃない。」
柄を握る手に力が入る。何時でも抜刀可能だ。
すると奥から「ガタン」と物音が聞こえた。
「ここで待っててくれ、様子を見てくる。」
そう言うと、剣持は先には進んだ。それを走と正一は静かに見ていた。が、次の瞬間、何本かの腕が近くの部屋から飛び出てきた。
「うわっ!」
「!よっちゃん!」
腕は正一を捕まえると、部屋の中へと引きずり込んだ。
「吉元!しまった、こっちは囮か!」
剣持が慌てた引き返して来た。最中に刀を鞘から抜いた。走の所まで戻ると、正一が引きずり込まれた部屋に飛び込んだ。
「吉元!」
「よっちゃん!」
続いて走も入ってきた。が、直ぐに2人は動きを止めた。
そこでは、正一が複数の男に取り押さえられているのを目の当たりにした。しかも、1人の男が正一のこめかみにライフルの銃口を向けている。
男達はその辺にいる、普通の若者達といった感じだった。が、手にしている銃火器が不釣り合いに見えた。
「何もんだ、お前等は?」
1人が聞いてきた。それに対し、
「それはこっちのセリフだ。何なんだお前等は?」
剣持が聞き返した。
「俺等が誰なのかはどうでもいい。それよりも、その刀をしまって貰おうか!そうすりゃ、こっちも撃ったりはしないし、こいつは返すと約束するぞ。」
「…分かった。」
剣持は男の言葉に従い、刀を鞘に収めた。
それを確認し、彼等は約束通り、正一を開放した。
「大丈夫かよっちゃん!」
「あっ、あぁ…」
正一は蚊とは違った恐怖で震えていた。
「改めて聞くぞ。お前等は何者だ?」
再び男達が聞いてきた。
「どうする?」
「どうって…正直に言うしかなさそうだな…」
走達は、ここに来た経緯を説明した。それを信用したかは分からないが、男達は、一応納得した風な顔をした。
「なる程な…とりあえず信用するとしよう。お前等の目当ての物も確かにある。今、俺等が持っているブツがそれだ。」
男達が所持している銃火器を見せた。それ等は警官の備品だったらしく、警察のマークが入っている。まるで自慢するかの様に、見せつける男達。が、直ぐに顔を強張らせ、
「だが、生憎で悪いが、ここにあった銃火器は、全部俺等の物だ。弾丸1つ渡すつもりはねーよ!」
とキッパリと言い放った。
「そんな…同じ生き残りなんだ、何とか協力を…」
正一が何とか説得しようとするも、相手は聞く耳を持たない様子で、
「聞こえなかったのか⁉渡すつもりは無いと行ったろが!」
1人がニューナンブを走達に向けた。
走達3人はそれ以上何も言えなくなった。
「……」
「分かったら、とっととココから出て行きな。ここは今や俺らの根城みたいな物なんだよ!」
説得は無理のようだ。走達は諦めて退散しようとした。が、そこに
「ちょっと待なよアンタ等!」
と、今いる部屋の正面の階段の上から誰かの声が聞こえて来た。
「その声は!」
「姐さん!」
「「「姐さん!」」」
走達は声を揃えて叫んだ。すると階段の上からボーイッシュ風な若い女性が降りてきた。