価値
実際の難波周辺の地理とは、異なりますので、ご了承ください。
金物屋での調達の後、走達は近くのドラッグストアに向った。全国にあるチェーン店の支店の1つだ。
怪我人が出たときの為、薬や包帯等を揃えておきたいと、御子柴が言っていたので、それ等を得る目的もあったが、走と正一には、別に目的の品があった。
一緒に来たメンバーの男女数名が、手当たり次第、袋に薬等を投げ入れている横で、走は別の棚を物色している。
「あった、これだこれ!」
「持てるだけ持っていこう。」
それは、各種スプレーだった。そう、走達が亀山や町で登紀子を襲う蚊を退治する時に、即席の火炎放射器として使ったやつだ。
「俺の背中のリュックにも入れておいてくれ。まだ少し位、余裕はある。」
と、一緒に来ている剣持が2人に背を向けて言った。いざという時に備え、剣持は何時でも抜刀出来る姿勢でいる。そのお陰で皆が物色に集中できているのだ。
剣持もまた、大阪脱出作戦に賛同した。他でもない、友人の袴崎が犠牲となり、彼の死を無駄にしたくないと言う気持ちが、彼を動かしたのだ。
ドラッグストアでの調達を終え、引き上げる途中、何かに気付き、走が足を止めた。
「どうした走?」
正一の言葉が聞こえてないかのように、走は列から離れた。そして、近くの時計店に向った。
「どうしたんだよ一体?」
「見ろよ、よっちゃん。」
そこの店先には、干からびた男の死体が倒れていた。宝石類をつかめるだけ掴んでいたのだろう。辺りに宝石が散らばっている。着ている服の全てのポケットにも、高級な腕時計等と一緒に模造差に詰め込まれている。
「これは…」
「どうやら、事件のどさくさに紛れて、盗みを働こうとしたんだろ。で、逃げようとした所を蚊に殺られたってとこだな。火事場泥棒ってやつだな。まあ、俺達も人の事は言えた義理じゃないがな…」
と、剣持が言う。彼も自分達のしている事に罪悪感を抱いているようだ。
その側で、走が死体の横に落ちている宝石の1つを手に取った。
「おい、まさか盗む気じゃないだろうな…」
「違げーよ。見ろよ、よっちゃん。」
走が摘んでいる小さな赤い宝石。値段が書かれたタグが付いており、「300000円」の値が書かれている。他の商品も、何十万、中には百万円代のダイヤモンドまである。
「こんな小さい石っころが30万円だぜ、30万!俺が1ヶ月働いて、この石1つ買えるかどうかだぜ…」
「それは何とも、世知辛い話だな…」
「でも…今の俺等には、こんな石よりも、数百円〜数千円の鍋や包丁にスプレーとかの方が価値があるんだ。何とも皮肉な話だな。」
「確かに。それにこの男も、欲に目がくらまなければ、死なずに済んだかもしれないのにな…」
「全くだな。死んじまったら元も子もない。金なんていくら持ってたって、死んだら何の役にも立たないぜ!!」
そう言うと、走は宝石を元の場所に戻した。その時、とある建物が走の視界に入った。
「あれは…」
「どうしたんだよ、走?」
「今度は何だ、山口?」
「あの建物は…なぁ2人共。あそこに行けば、強力な武器が手に入るかもしれないぜ!?」
「あそこって…!まさかあれか⁉」
「そのまさかだよ。」
走がとある建物を指差した。そこには「○○警察署」と書かれた建物が建っていた。
時計店で宝石を扱っている店があるのは、時計が宝石と同じ位、高級品だった頃の名残だそうです。また、ダイヤモンドは硬いというイメージがあるけど、正確には傷が付きにくいと言う意味で、実際は金づちで簡単に砕けてしまうそうです。(本編とは関係ありません)