私のお城 その2
私のお城は、ベランダの監獄。だった。
外村家に来て半年ぐらいは、ここにいるのが一番安心だと思っていたんだ。ここでおしっこやうんちすれば、お母さんもめちゃ褒めてくれるしね。そう、私の肉球が床の針金に食い込むのさえ無視すれば、ここは安心安全、そんな私のお城だった。
でも私はやっぱり気づいてしまった。何に?
青空トイレの清々しさに。
青空の下でするおしっこは、サイコー。青空の下でするうんちも、これまたサイコー。
お母さんは、初めは複雑な顔してたよ。だって、朝起きてまず一発、「ピーピー」の呪文のもと、監獄のトイレシートにおしっこするのがだんだん身についてきていたからね。
でもね、この青空トイレの楽しさを知ってしまってから、自分のお城でおしっこするのがまったく嫌になっちゃったんだ。ほら、もともと私清潔なたちだし。トイレとベッドは別々?な物件を希望していたわけだし。だからそれ以来、お城でおしっこするのは断固拒否!運動始めちゃった。
それからはね、お母さんは雨の日も風の日も、灼熱の太陽の日も、私の青空トイレに付き合う羽目になっちゃった。
「はあー、今日も暑そう」
ため息つくお母さんを、私は散歩を兼ねたトイレタイムに連れ出すのだ。おお、この芝がふかふかの木陰、ベストスポットじゃありません?早速始めようかしら。ぐるぐる。お母さんはそこで待機!私、用をすませますんで。お母さんは、水と新聞紙と袋を持って、大人しく待機してるよ。ふふ。
私もだんだん大人になって、粗相もしなくなってきて、監獄が最早トイレ兼ベッドじゃなくて、完全にベッドだけになってしまった頃、その事件は起こったんだ。
今まで青空と星空が広がっていた私のベランダ。ある日突然、真っ黒黒のガスが立ち込める悪魔の空間になっちゃったんだ。何?このもくもくした変な空気?
目が痛いよー。
のどが痛いよー。お尻の穴もついでに痛いよー。
「ヘイズや!パンちゃん、入って」
お母さんが私を中に入れると、ぴっちりと窓を閉めた。今日は洗濯物も干さないんだね。いっつも
「アチい〜」
って言いながら私のそばでブツブツ言って干すくせに。お母さんが言った。
「パンちゃん、ヘイズが来たよー。インドネシアの畑を焼いた煙がここまで流れてきたんだって。人間の健康に悪いんなら、パンちゃんにも悪いに決まってるよー」
ええ?この煙、危ないんですね?私のお尻、大丈夫?
「お尻は大丈夫や。危ないのはのど!パンちゃん余計にワンワン言ったらダメだよー」
それは保証できませんが、でも努力します。
「だから、パンも当分中にいな」
丸美がやってきた。
「じゃあ、パンちゃんは今日から私と寝ようね。いいよね、お母さん?」
「いいよ」
そこは私に承認をとってほしかった。なんでお母さんが答えるの。
丸美と寝るのははっきり言ってやだけど、あのフカフカの丸美のベッドで寝るのは、はっきり言って嬉しい!あの監獄から一転、人間のベッドで寝られるなんて、私の人生上がってきたよ。
これもヘイズとやらのおかげだね。
そしてヘイズの日から今日まで、私のお城は、丸美のベッドになったのだ。あのベランダの監獄のお城は、その時以来完全にお払い箱。
丸美のベッドは、快適だよ。丸美がいなければもっと快適。丸美は時々寝ぼけて私を蹴るんだ。ぐっすり寝てる時に限ってやるんだ、丸美は。
「はあ」
そんな時はベッドを降りて、床に行く。フカフカをとるか、安眠をとるか。これは眠たい頭には難しすぎる選択だよね。
「…」
寝るか。
そしてお母さんはいつの間にか
「ハウス!」
って言わなくなってしまったんだ。そう、今日のあの瞬間まで。




