神祖継承
「本当にいつもきなの中にいるんだね」
「えぇ、主ですから」
なんて会話を軽い口調交わす二人。その間にも向こう側から大蛇の視線を受けているというのに。
すると出てきたヒノカは飛翔して冬夜の肩に乗る。後ろ向きになっているのを回って向きなおしたヒノカを見た後冬夜は口を開く。
「それじゃあ、行くよ」
「あ、その前に」
きなの力を使うために集中しようとしていた冬夜は、間の抜けたヒノカの言葉に集中を乱され拍子抜けした。
「な、なに?」
「主の様子を見ていたんですが、私たちも神祖開放みたいに詠唱をやりましょう」
楽しそうに張り切って放たれたヒノカの意味不明な言葉に冬夜は言葉を失う。出来ればそんなことをするのにも時間は惜しいというのに。
だが真剣なヒノカはお構いなしに、冬夜にだけ聞こえるようにひっそり小声で彼の耳元で語り続ける。
「呆れているところ悪いのですが、別に私だけの意見だけではなく、主を元気づけようとしているのですよ?」
「……というと?」
「主は最近日曜日の朝にテレビでやる変身モノにご執心なんです。ですから今も不安になっている主は元気になるかと」
ヒノカの言葉に信憑性があるかないかについて深く問い詰めたい冬夜であったが、後ろで悲しそうな顔をしているきなをどうにかしたいという気持ちは冬夜の中にも無いわけではない。
嫌々了承した冬夜はため息を漏らした冬夜は口を開く。
「わ、分かったよ。でも流石に用意――」
「――できてますよ?」
できてないよね。と尋ねるはずの冬夜を押しのけてヒノカは自信満々に言い切った。
ヒノカに抵抗する気力も時間もない冬夜はため息交じりに同意の声を放つ。
「分かった、佐野が危ないからすぐにやるよ!」
「了解しました」
半ばやけくそな返事と同時に冬夜の頭の中に言葉が浮かんでくる。
その感覚に最初は驚く冬夜。だがすぐいつもと同じ表情に戻り、浮かび上がってくる言葉を冬夜はすらすらと言葉に出していく。まるでそれは一度読んだことがある本を音読するかのように。
「祖は春、」
冬夜の肩に乗っていたヒノカは、冬夜が詠唱を開始したのと同時に周りを円を描くように落ちていく。落下していたヒノカはいつの間にか白い炎に変わり円形に揺らぎ立つ。
優しくも熱い炎に身を包みながら冬夜は目をつぶって詠唱を続ける。
「萌ゆる恋情に身を焦がし――――ここに契りの白炎を燃やそう」
冬夜を覆っていた白炎は冬夜の黒髪をもみあげ以外白髪に染め上げた後、右手に移った白炎は黒の小太刀に、左手に移った白炎は白の長刀に姿を変わっていく。
「神祖継承――――九尾!」
詠唱と共に両刀を勢いよく交差させるように振るった冬夜の耳には立派な狐耳が生えていた。
「とうやすごいっ! けど尻尾は?」
冬夜の変身にいつも見ている番組を思い出しながら驚くきな。しかし前回の神祖継承とは違う箇所がある冬夜におずおずと指を指す。
「これでも頑張った方なんだけどなぁ。尻尾減らすの」
少しばかり悔しそうに嘆く冬夜の尻尾は前回と違い九本から三本に減っている。
これは朝に強化の鍛錬を積むことによって行うことが出来るようになった冬夜の新しい芸当。威力が高いが燃費の悪い九尾の状態を少しでも長く保つために冬夜は力を抑える事を考えたのだ。
「白炎九刀の内、残り七本の短刀は出してないけど、これでも十分戦えるはずだから問題ない!」
それってもう白炎二刀じゃ。というきなの目線を無視し、彼女に向かってちょっと決めポーズしながら語る冬夜。
言葉の通りいつも彼を守るために浮遊している七本の短刀は今回は腰に全て差してある。
「とうや、うしろ!」
突然のきなの叫びに冬夜は後ろを振り向く。
その方向から痺れを切らしたかのように、三匹の巨大な蛇が口を開き鋭い牙を向き出しにしながら突撃してきていた。
戦闘のための準備が終わっている冬夜はすぐさま白炎揺らめく二刀を、蛇を迎え撃つために構える。
「冬夜は……佐野の治療に専念してて」
そんな言葉に驚く冬夜を他所に横を通り過ぎていった月菜は、三方向から来る蛇を避け、蛇の目玉などに細剣を突き刺しながら蛇達をその高速移動で翻弄していく。
月菜は心配ない。そう判断した冬夜は彼女の稼いでくれている時間を無駄にしないためにも佐野の方へ向かう。
「とうや、お願い!」
「大丈夫だよきな、友達の佐野は僕が助けるから――!」
必死な顔できなは冬夜に懇願する。しかしきなに言われるまでもない。友達を助けることに理由なんていらないのだから。
決心と共に冬夜の持つ二刀からさらに激しく白炎が揺らぎ立つ。そして刀を佐野の方に交差させて冬夜は放つ白炎の名を強く叫ぶ。
「『白火昇炎』!」
勢いよく振るった刀から白炎が飛び散り佐野の体をゆっくりと、隅々までを浄化するように覆っていく。
その白炎は燃え続ける。全てを零に戻すために。
白炎により佐野の傷口は全て塞がれ、神祖開放した後の佐野の姿に戻る。倒れている佐野から苦しい表情は消え、今は安らかな顔で眠っている。
「佐野、大丈夫?」
「大丈夫だよきな。気絶してるだけだから」
「うん」
流れる風に白い髪を揺らしながら不安そうなきなに笑顔を向ける冬夜。嬉しそうに小さく微笑んだきなは冬夜の言葉に、こくん、と頷く。
「きな、佐野をお願い」
「とうやは」
「月菜を助けるよ」
そう言って白雪と黒夜から白炎を地面に噴出し推進力とした冬夜は、佐野の治療のために蛇と戦いぼろぼろになっている月菜の元へ飛んでいく。
「はぁ!」
時は十秒にも満たず。三匹の内の一匹に白炎の推進力を乗せた白雪の素早い斬撃を加える冬夜。
しかし冬夜の予想よりも遥かに固い鱗は、全てを燃やし尽くす白炎をまとった白雪の斬撃をも跳ね返す。
反撃のために向かってくる蛇を黒夜で叩き、その反動で月菜の方へと飛んだ。
蛇に構えるぼろぼろの月菜の後ろに降り立ち、背中を合わせて冬夜は振り向き彼女を見る。一対三という無理な状況で戦っていた彼女の制服は、所々がほつれほこりに塗れている。
「……冬夜」
「大丈夫、月菜?」
「……少しだけ、遅い」
心配する冬夜の言葉に口では非難する月菜であったが、それに反して声と表情は優しいものであった。
会話をしている二人を囲むように蛇達はその大きな瞳でぎょろりと見つめている。
「さて、神祖帰りの月菜には何かこの状況を打破する提案は」
「……ない」
「だよ、ね」
作戦会議のような会話をしている間にも蛇はじりじりと迫ってきている。二人は空間を設けるためにさらに背中を合わせていく。逃げるための隙間はほとんどない。
額から首に流れる緊張の汗をくすぐったく思いながら、冬夜はいつも通りの口調で解決策の一手を月菜に話す。
「じゃあまずはここから逃げようか」
「どうするの。……囲まれてる」
「こうする!」
冬夜は二つの刀を地面に差して神力を使用するために再び集中する。イメージするは、己が心を複製していくカタチ。
すると地面に刺さった刀から水のように漏れ出し広がった炎が三つの白い炎の塊となって空中に揺らぐ。
するとその炎は揺らぎながら段々と人の形へと姿を変えていく。
「これ、は……!?」
「化けるも化かすも我が領分也――――『白火陽炎』」
月菜は冬夜の形を成した三つの白炎に驚きを隠せない。
見た目はまったく冬夜と同じ。しいて違うところをあげるとするならばそれぞれの尻尾が二本だということだけだろう。
分身を作り終えた冬夜は地面から二刀を抜き差し再び構える。
「じゃ、行くよ」
冬夜の言葉を合図に陽炎達もそれぞれ行動を開始する。
冬夜は黒夜を鞘に仕舞う。そして月菜の手を引き白炎で飛翔するのと同時に、それぞれの陽炎は一対一で蛇達に応戦していく。
「月菜、今のうちに」
「本体を……叩く」
上空へと飛んでいた冬夜は白炎の出力を調整し、飛んでいく方向を変えて、蛇に閉じこもっている大蛇に突撃する。
それに対応するように大蛇は青白い神力でもう二匹の蛇を生成。それらを空中から向かってくる冬夜達に対決させる。
蛇達は降下してくる二人を丸飲みする勢いで口を開いて待ち構えている。
(さっき斬れなかったのは刀のせいじゃない。僕の練度の甘さだ)
冬夜は弾かれた白雪の斬撃を思い出していた。
確かに鱗は堅かったがそれは自分の神力の扱いにむらがあったから。と冬夜は推測する。
そのために行うこと、それは。
(――――白炎の密度を上げる)
できるだけ薄く、それでいて高密度の白炎で蛇の鱗ごと切り裂く。
それが出来れば苦労しないが、それが今出来なければこの状況を打破できないことを冬夜は苦しいほどに理解していた。
向かい来る蛇の一匹から気を逸らさず、集中して白雪に薄くも鋭い白炎の鋭刃を辛うじて付与する。
失敗はしないだろうか、もし仮に失敗してしまったら。そんな不安が冬夜の脳裏をよぎる。
けれどやるしかないんだ。
決意を決めた冬夜は、上空に首を伸ばし向かってくる蛇に力いっぱい白雪を突き刺す。
「――――!」
「がぁああ!!」
獣のような甲高い高い叫び声。同時に痛みを訴える大蛇の悲痛な叫びが、不安に囚われていた冬夜の意識を突き動かす。
そのまま地面に着地。後ろから不意打ちのように襲い来るもう一匹の蛇を、先程の蛇から素早く抜いた白雪で横に斬る。
「……冬夜」
「月菜、まだ終わってない」
月菜の呼びかけに冬夜が静かに答えた後、ずしん、という重い音と共に斬られた蛇が地面に横たわる。
今のうちに。とアイキャッチした二人は大蛇の方へ全速力で向かう。
今もなお防御用の蛇に巻かれている大蛇。しかし鱗を破る技を習得した冬夜にとって、その防御はもはや紙も同然だった。
走る途中で黒夜を抜いた冬夜は、白雪と同じように習得した白炎の鋭刃を纏わせる。
あと十歩で冬夜の攻撃の範囲内に入る、そんな時。
二人を覆うように三匹の蛇が襲いかかる。よく見ると冬夜が生成した陽炎はすでに倒されていた。
「あと少しなのに……!」
苦い顔で構えながら呟く冬夜。
二人に対して向かってくる蛇は三匹。一人が一匹処理をしたところでもう一匹分のお釣りがくる。
その一匹が冬夜の方に来た場合は痛みを伴うが白火で回復できる。しかし月菜の方へ向かった場合、多量出血により彼女の命が危ない。
どちらの選択も気に入らない冬夜はとっさに月菜を後ろに押し出す。
そんな彼の行動に月菜は驚き、冬夜を引っ張るために手を伸ばすが届かず。
首を横に振りながら悲痛な表情で月菜は震える唇を開く。
「だめ……冬夜」
「傷つくなら、僕だけでいい」
三匹に噛まれる痛みなど、きなと離れることになるのと比べれば。
覚悟を決めた冬夜に三匹の蛇が襲い掛かる。
そのまま無慈悲に食い散らかされ、激痛の海を漂う冬夜。
「――――『光輪の矢』」
――――しかしそうはならなかった。
静かに、それでいて透き通る声で紡がれた詠唱の後、蛇の背中に無限と錯覚するほどの大量の光の矢が刺さっていく。
冬夜と月菜はその技に見覚えがあった。
なぜならそれは、
「はぁ。二人とも大丈夫~?」
深いため息の後に放たれた、いつも聞いている穏やかな口調。
光の矢の輝きで今ならはっきり分かる。片目を押さえながらいつもの温かく柔らかい笑顔の照は弓を構えながらその一本に束ねた黒髪を揺らす。
先程の疲労が堪えるか彼女の呼吸は荒い。
「照、……あなた」
「足手まといには、なりたくないからね~」
心配そうな月菜の声に少しだけ申し訳なさそうに照は答えた。そんな照に月菜は黙って首をふるふると横に振る。
「大丈夫、残りの三人はウチが守るから」
「うん……頼んだよ、照」
冬夜と月菜は大蛇を打倒するために駆け出す。
そんな二人を笑顔で送り迎える照は、注意がこちらに向き突進してくる蛇達を迎撃するために再び弓を構える。
「うぅ、目が」
見えない状態から回復したとは言ったものの、未だにぼやける視界を歯痒く思いながらも神力で矢を生成する。
見えてしまえば弓矢など外しはしない。
(矢を当てるのなんて、ウチからすれば日輪が人に照るのと同じくらい当たり前だし)
それほどまでに彼女には自信があるからこそ、広範囲に確実に攻撃を与えられる『光輪の矢』を弓矢一本を確実に当てられる相手に使うのは少しばかり悔しかった。
「嘘っ――――!」
なんて考えをしている自分に罰でも当たったのか。照の目の前にはすでに三匹の蛇が目前に迫っていた。
視力低下により距離感をつかみ損ねた照に向かって、牙を向いた蛇達が押し寄せる。
口を開き向かってくる蛇に負け惜しみのように弓を構える照。今の彼女に三匹を倒せるほどの余力は残っていない。
しくったな~、と。照が両方から回ってきた蛇に噛まれることを覚悟したとき、
「お願いします。――――草木達よ」
照の後ろできなと一緒に佐野の様子を見守っていた大和は、立ちながら手を合わせて心の底から何かに懇願するように言葉を紡いだ。
次の瞬間、畑の中から生えてきた無数の草のツタが蛇達に絡みつく。
「大和、君もそうなんだ~」
「話は後でしますから。お願いします!」
事情を察している照を急かす様に大和は苦しそうに大きな声で叫ぶ。
大和の言葉を聞き入れた照は弓を構える。
驚くことに照は指の間を活用し同時に三本の矢を握っていた。そしてそのまま矢と弓を地面と垂直、ではなく水平に構える。横に並ぶ蛇三匹を同時に狙うように。
「『穿通日射・三叉』」
蛇の鱗を貫くために鋭くした光の矢を、詠唱と共に三本とも一気に放つ。
肉を抉る豪快で生々しい音と共に、三本の光の矢は蛇の肉体を同時に貫通し消えた。
疲労から膝をつく照。同時に体の急所を貫かれた蛇三匹も同時にどさり、と音を立てて倒れ伏せて消滅する。
「あとは頼んだよ、冬夜君」
更にぼんやりしてきた目を押さえながら照は、冬夜がこの状況を打破してくれることを祈っていた。
照の援護を受けた後、冬夜達は大蛇の方向へ全速力で進む。距離はもう十歩にも満たない。
「ここで終わらせる――――!」
照が開いてくれた突破口を走りぬく冬夜と月菜。
今まで出現させてきた蛇は一匹を除き回復状態へと移っている。攻撃と防御が手薄な今、蛇による防御を続ける大蛇の目前まで二人は迫っていた。
すると蒼い神力を使用し大蛇は七匹目の蛇を出現させる。
しかし今更一匹増えたところで苦になる二人ではない。
意識を集中させて白雪に鋭い白炎を纏わせ、襲い来る蛇の首を走っている勢いを乗せて切り落とす。
「ガ、あああ」
蛇と痛覚を連動させている大蛇の小さなうめき声が響く。
「そこだ!」
大蛇がうめき声をあげている間に距離を縮めた冬夜は白雪と黒夜を振り上げて叫ぶ。
一閃の煌めきを描いた後に振り下ろされた両刀により大蛇の最後の蛇が崩れ落ちる。
「ぐっ! ……らぁ!」
冬夜の姿を捉えた大蛇本体が覚悟を決めたように声を漏らしながら己の拳を突き出す。
先程の佐野の行為から、何かしら術を受けたのかもしれない、と考慮していた冬夜は大蛇を見ないようにしながら大蛇の拳を神受性で感じ取り、最小限の動作でそれを避ける。
その後体を回転させ、その勢いを乗せた白雪の一振りを大蛇に向かって振り上げる。
「終わりだ……大蛇」
斬撃を受けた大蛇は空を舞いそのまま地面を転がって停止した。すぐに起き上がってくるような気配は感じられない。
と同時に、大蛇の蛇全てが空間から消えるのを冬夜は確認した。
「……冬夜、あなた」
「終わらせたよ。月菜」
心配そうな言葉と瞳を月菜に向けられた冬夜は振り向いて笑顔を返す。
そんな彼の様子に月菜は少しだけ恐怖を覚えた。なぜ彼は刀で人を斬った後だというのに笑顔でいるのだろうかと。
敵だけれども、冬夜だったら――――! そんな葛藤が彼女を支配する。
「どうしたの、月菜」
「……いや、なんでもない。……それより大蛇を」
そんな冬夜の心配する言葉を反射的に避けて月菜は大蛇の方へと向かう。そんな彼女の行動に不信を抱きながらも冬夜は後ろをついて行く。
倒れ伏していた大蛇の前に立ち止まった二人は驚愕する。
「え……佐野」
白炎で照らしながら倒れている大蛇の姿を見た冬夜は、そのあまりにも似すぎている人物の名を呟く。
佐野より数センチ小さいだろと思われるが筋肉質の体躯。肩まである長い髪は、稀にしか見ることのできない蒼色。
細かな違いはあれども、目の前で倒した大蛇の姿は佐野の姿と瓜二つであった。
そして冬夜とは違う点で月菜は驚いていた。
それは先程冬夜に斬られたはずの刀傷が大蛇の腹に無いこと。
「……冬夜、大蛇の刀傷」
「え、傷? ……刀は寸前で峰に持ち替えたからないはずだけど」
冬夜の言葉に驚愕する月菜は同時に思い出した。
敵でしかなかった自分を優しい笑顔と共に助けてくれた冬夜が、人であろうと容赦なく斬りつける人間ではなかったことを。
そしてそれと同時にそう思ってしまったことを恥じた。
「……ごめんなさい」
「月菜、何を謝っているんだい?」
「……私はあなたを疑った。誰よりも優しいあなたが大蛇を斬り殺したんじゃないかと」
悲しそうに歪めた表情で話す月菜の顔を見て冬夜は頬をかいた後、佐野とそっくりな大蛇の方に向かいながら口を開く。
「分からなくて当然じゃないかな」
「え?」
「人は敵と認識したらその相手を再起不能にするのが普通だよ。次に襲われるのが怖いから」
大蛇の様子を見ながら続ける冬夜の表情は、まるで何かを思い出すかのようにうっすらと笑みを浮かべている。
「僕だって怒ってるよ。佐野や照、きな達みんなが危険にさらされたこと」
「……冬夜」
大蛇の様子をある程度観察した冬夜は再び月菜の方向へと戻る。
月菜はそんな冬夜の顔をただ見つめるのみ。
「でもそれで殺すのはなんか違うと思ったんだ。だから斬りつける手前で峰に持ち変えたんだ」
優しすぎる。
月菜は冬夜がその一言に尽きると思った。
誰もが自分の身を一番に大事にしているのに、目の前にいる少年は他のほとんどの命を尊重しているのだと。
そんなことではいつか手の中にある幸福さえも落としてしまうこともあるだろうに。
「長くなっちゃったけど要するに、人として当然のことだから謝らなくていいんだよって言いたいんだ。僕は」
「……甘い、ね」
「ひどくない!?」
「……でも、おかげで私は冬夜のことをもっと好きになった」
唐突な告白に顔を真っ赤にする冬夜。
そんな冬夜とは打って変わって笑顔を浮かべる月菜。とても楽しそうである。
「とうや! 横!!」
突然聞こえてきたきなの叫び声に横を振り向いた冬夜は月菜を後ろに跳ね除けさせて白雪と黒夜を構える。
重い金属音。
腕にかかる重圧に顔を歪ませながら冬夜はそれを受け止める。
「どうしてだ――――――佐野!」
向かってきたのは――――鬼のような形相の佐野であった。
その場の一同は佐野の行動に驚き何もできない。
「オロチ……コロす!!」
いつもの口調でない佐野に違和感を覚えた冬夜は、両足に力を込めて佐野を弾き飛ばす。
地面に着地した佐野はすぐに天叢雲剣を構えて冬夜に襲い掛かる。
佐野の重くも速い連撃を二刀で受け流しながら冬夜は口を開く。
「月菜、大蛇と一緒に逃げろ!」
「……逃げるって、どこへ」
「ぐっ……! きな達の方に!」
「……分かった」
弾き飛ばされ尻餅をついていた月菜は立ち上がり、大蛇の方へと飛ぶ。
そして大蛇を担いだ後、テレポートしているかのような速度できな達の方向へと向かう。
「オロチィッ!」
その様子をみた佐野はすぐに月菜の後を追うように走る。
「はぁ!」
勢いを乗せるための叫びと共に、白雪の峰で佐野の腹を冬夜が強く叩く。
地面に踏ん張り衝撃を受け止めた佐野は強く冬夜を睨み付ける。
「君が目を覚ますまで、ここを通すわけにはいかない。――――僕が君の相手だ、佐野!」
佐野に向かって構える冬夜の二刀が、彼の心に呼応するように白炎を激しく噴出した。




