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僕と尻尾の冬休み  作者: 柴健
僕と尻尾の恋戦編
25/30

狐に遊ばれる

 きなの風邪が治ってから一週間以上経ち、丁度五月に入ったある日の朝。少年、柴咲冬夜は自分の家の庭で今にも折れそうなくらいに細い木の棒片手にただ立っていた。だが別に何もせずに立っているというわけではない。

 神力の修行。

 先日、佐野は言っていた。


『おそらく、きな姉ちゃんの力を冬夜君が使いすぎたのがいけなかったんじゃないかって踏んでるっす』


 自分が力の制御が出来ないせいで、学校を楽しみにしているきなの体調を崩させるわけにはいかない。そう思った冬夜は、あれから照や佐野、果てには月菜にだって相談し、正しい神力の制御方法について尋ねていた。今回行う強化練習もその途中で教わったものである。……前回の約束通り弁当のおかずを対価に支払ったが、正直安いものだ。と冬夜は思った。

 分析の結果、三者から別々の回答が返ってきた。

 まず佐野。


「俺は……参考になんないっすけど、ほとんど体の勘でやってるっす。放てるから放つ。そのままの流れでいつも制御してるっす」


 次に照。


「ウチはイメージでやってるよ~。矢を放つときは狙うことと神力の集中を同時にやらなきゃいけないんだけど、別々に考えずにまとまったイメージでウチはいつも打ってるよ~」


 最後に月菜。


「……練習あるのみ。……私は今まで母さんを助けるために神力を使ってきた。……けど、誰にも教えてもらえなかったから自分で覚えた」


 結局のところ、冬夜らしい答えとしては月菜が言っていた努力と照が言っていたイメージが現在の最有力候補である。佐野が言っていた勘というモノに頼るのは基礎ができたもう少し後になりそうだった。

 そして、冬夜は瞳を静かに閉じて意識を集中させる。

 一時的に繋がっていたきなとの神力のパイプ。それが現在ではいつでも体を巡っていることに最近気付いた。これにより九尾の力を得る――――ことはできなかった。

 どうやらきなが近くにいないとこの前のような変身はできないことが発覚した。いざ家で修行しようと思っても何の反応もないのだ。

 けれど、今流れてくる位の神力の量なら制御の練習ぐらいはできる。微弱な神力しか使わないのでおそらくきなにも負担は少ないはず。そう言い聞かせ冬夜は意識を再度集中させる。

 今日の修行は、拾ってきた木の棒に神力を薄く纏わせる修行。耐久および威力強化に当たるものである。

 初めて天野と修行した時は高級素材である霊樹の木刀に出力していたので苦労はなかったが、いざ行ってみるとこれが難しい。例えるならば、ゴムに無理やり電気を通させるぐらいには困難である。

 だが、足りない箇所はイメージと、開花した神授性で補えばいい――――針の穴に糸を通すように正確に神力の通路を探しては流し、通路が破裂しない様に一寸狂いもない細さで神力を通わせる。

 それはまるで月菜の母親の呪いを解いた時の感覚に似ていた。その時の感覚を思い出しながら冬夜は作業を続ける。一秒たりとも時間は無駄にできない。

 そして、冬夜の右手には、揺らがない白炎を帯びた木の棒が握らている。

 試しに木の棒を地面に叩きつける。

 棒が折れるような音は響かず、地面の方がえぐれていた。


「や……やった」


 喜びに打ちひしがれ思わず歓喜の声を漏らす冬夜。

 叫びたい気持ちはあるが現在は誰もが寝ている時間である。仕方なく冬夜はその場に座って休憩することにした。


 (これできなを苦しませずに済む)


 木の棒を上空にかざしながら冬夜は微笑を浮かべる。今日の朝のことを彼女に報告したら、どんな笑顔を浮かべて喜んでくれるだろうか。それが冬夜の微笑の理由であった。


 時が経ち、場所は学校。

 冬夜ときなは学校に着くといつものように荷物を整理する。その途中で冬夜は口を開く。


「きな、僕今日の朝、神力をうまくコントロールできたんだ」

「え!? で、でも照と佐野には難しいって言われてたんだよね?」


 冬夜の言葉にきなは驚きの言葉を隠せない。けれども驚きと同時に嬉しそうな笑みも浮かべている。冬夜にとって嬉しいことは、きなにとっても嬉しいのである。


「でも僕には天野さん曰く、神力の力の流れとか気配とか読み取れる神授性があるみたいだから。これが無かったらと思うとぞっとするよ」

「よかったねとうや。わたしも神力を使えればいいんだけどなぁ」


 冬夜の言葉に少し悔しそうに笑いながら椅子に座るきな。四気神である彼女も冬夜のように修行しようとしたのだが、どう頑張っても神力を使った術ができないらしい。原因は不明である。

 そんなきなに合わせて冬夜も椅子に座り、優しく話す。


「大丈夫。きなが出来なくても僕が力を使いこなせればそれでいいんだから」

「とうや……」


 えへへ、ときなは嬉しそうに笑う。

 そんな冬夜ときなの仲睦まじい様子をクラスメート達は妬ましそうな目で見ている。特に男子が。

 そんな時冬夜の後ろから足音が聞こえてきた。冬夜の真後ろで止まった足音の主は楽しそうな声色で口を開く。


「いつも通りだな、冬夜」

「おはよう、諦」


 冬夜の昔からの親友、新条諦が少々呆れた様子で冬夜のことを見ている。そして視線を変えると、今度はきなの方向に目を向けた。


「四季上、今日も楽しそうだな」

「うん、今日も楽しいよ諦!」


 きなは諦の言葉に元気よく返す。一か月の間にきなはクラスに馴染み、今ではマスコット的な存在になっているのでこのように諦とも気軽に話せる関係となった。


「だろうな。なんたって冬夜はおれの親友なんだからな」


 と胸を張って豪語するが、結局、なんちって、と。舌を出した後に諦は悪戯な笑顔で笑う。


「それはさておき。冬夜、おまえおれの貸した本ちゃんと読んでるか?」

「借りた本……ああ、ちゃんと読み終わらせたから返すよ」


 そう言って冬夜は鞄の中を探る。少し経って出てきたのは紙のカバーに包まれた一冊の本。それを諦の前に差し出す。


「ありがとう諦。面白かったよ」

「そうだろ、中でも話に出てくる彼女がさ……」


 と、話し込もうとしていた諦の後ろから、彼の本をひょいっ、と取り上げるとぺらぺらと本をめくっていく。


「なるほど、こういう本読んでるんすね冬夜君達は」

「ん、珍しいな佐野じゃん」


 大切な本を取り上げられたのにも関わらず諦は冷静に対応する。本を見終わった佐野は諦に手渡すと、にこやかな笑顔を浮かべた。


「別に俺は他人の読んでいる本は気にしないっすよ――――」


 佐野の笑顔が引きつっていく。


「本の中身みたいなことをきな姉ちゃんにしなければっすけどねぇ……」


 般若の面を被ったような佐野の顔に冬夜と諦は恐怖に震えた。佐野がそんな表情をすることに思い当たる節があるからだ。


 (絶対にあのシーンのこと言ってるよ佐野!)

 (しかも冬夜にぴったりのシチュエーションのところじゃねえか)


 それは諦の持っている本……いわゆるライトノベルの本の中には、多くの少女との様々なラッキースケベが盛り込んである。もちろんソフトなものからハードなものまで。もちろん二人は本を読んでいるのでどの辺のラッキースケベを言っているかは予想できる。


「にゅ、とうやがわたしになにかするの?」


 その手の本を読んだことがないきなにとっては二人が何に恐怖してるか分からない。

 そんなきなの言葉に反応するように佐野の視線がゆっくりと冬夜に降り注ぐ。その動きはまるでロボットが狙いを定めるために首を曲げている時のよう。


「な、何もしないよ……たぶん」


 弁解の言葉を言ってる間に気落ちしてしまった冬夜に、怒りの表情を崩した佐野はため息をついた。その後、


「まぁ、少しくらいならいいっすよ。だって冬夜君は……」


 佐野が何かを言いかけた時、朝のチャイムが鳴り響く。その音に反応した二人は自分たちの席に戻っていく。二人の後姿を確認した冬夜ときなも自分たちの席に着いた。

 次の瞬間。いつものように、ドバン! と教室に轟音が響き渡る。天野がドアを開けた音だ。


「おはよう皆! 今日もいつも通りホームルーム……と行きたいところだけど連絡があるよ」


 さっきまでの快活な笑顔とは打って変わり、少し真剣な表情になったかと思うと、生徒全員分のプリントを配り出す天野。

 冬夜ときなの手にもそのプリントが前の生徒から受け渡された。


「プリントにも書いてある様に最近起きている事件がこの近辺にも起きた。被害者はここの女子生徒。ウチのクラスの大和さんだ」


 クラスメートが被害にあった。その言葉に教室中がざわつく。


 (大和って……あの大和さん?)


 大和という名字に冬夜も聞き覚えがある。お淑やかで誰にでも分け隔てなく接す、文字通り大和撫子な少女――――大和櫛那の名前を。

 けれど特に接する機会がないので冬夜はあまり少女のことを知らない。

 それよりも最近の事件と言われてもピンとこない冬夜は小声できなに問いかける。


「きな、最近何かあったっけ。僕あんまりテレビ見ないんだけど」

「知らないのとうや? 犯人は中高生の少女ばかり狙っているんだって。原因は不明だって佐野や照は言ってたよ」

「そうだったんだ」


 冬夜は再び手渡されたプリントに目を通す。事故が起きたのは昨日の夜らしく、冬夜の高校だけでなく多くの女子生徒が被害にあっているようだ。


「ということで今後はくれぐれも一人で帰るようなことはしないように。特に女子はね。あと、大和さんは今日一日欠席するからよろしく。ということでホームルーム終了!」


 笑顔でそう言い放った天野はいつものように授業を始める準備をしている。クラスに生徒達も同じように準備を行う。


 (とりあえず心配なさそうだなぁ)


 冬夜はのんびりと準備をしながらそう考えていた。



「冬夜……お弁当」

「うん、みんなで食べよっか」


 午前の授業が終わった昼休み。冬夜はいつものように廊下で彼を待っていた月菜にお弁当の誘いを受けていた。

 だが以前のような二の舞を起こすような冬夜ではないので、とりあえずみんなで食べたいと交渉してみる。


「でも……」

「月菜とのお弁当も楽しいけど、僕はみんなで食べたほうがおいしいと思うな」


 月菜の否定的な言葉に臆さず冬夜は渾身の微笑で対応。一方の月菜は不機嫌そうに小声で、


「……ずるい」

「うぅ」


 月菜に否定的な言葉を受けた冬夜はたじろぐ。しかし、


「でも……気持ちは分かった。みんなで行こ」

「ありがとう、月菜」


 それじゃ、と冬夜は月菜の手を引っ張ってきなと佐野のところに向かう。引っ張られている月菜もなんだかんだ言って嬉しそうである。



「いやー、皆で飯食うのも悪かねえな」

「そうっすねー……ってなんで諦もいるんすか」


 澄み渡る青空が見える屋上にいるのは、持ってきた弁当や買ってきた昼食を広げる男子三人と女子二人。その中の男子二人、佐野と諦はそれぞれ会話している。


「ん、悪いか?」

「……別に異論はないっす」


 そう言って佐野は片手に持つイチゴ牛乳を啜りながら諦とは逆の方向を見つめる。その先には、


「冬夜……食べる?」

「いやいや、僕お弁当あるから」

「とうやのおかずちょーだい!」

「きなは自分のお弁当あるよね!?」


 両側の二人の少女、きなと月菜に翻弄される冬夜の姿があった。そんな冬夜の姿を二人の少年は殺気を込めた瞳で見つめる。


「なぁ佐野、あぁ言うのってなんて言うんだっけ」

「リア充、巷ではそう言うらしいっすよ諦」

「二人とも、変なこと言ってないで助けてよ!」


 冬夜の叫びが屋上に響き渡るが、二人は聞かないふりをしながら逆方向を向いて会話を続ける。先に口を開いたのは諦だった。


「しかし、いつの間に天野兄弟は冬夜と仲良くなったんだ」


 買ってきたカレーパンを口に頬張りながら諦は佐野に尋ねる。

 諦の問いに少し驚いた佐野。それには理由がある。

 なぜなら、世界改変後のこの世界では――――佐野と照はこの学校に昔から在学していることになっているからだ。佐野や照達だけではない。元の世界の生徒と入れ替わった人物たちも同じように昔から在学していたことになっている。

 問題はその先であり、佐野と照、そして冬夜の三人はこの世界の現在以前の記憶を持ち合わせていない。故に今まで自分たちがクラスでどんな人物だったのかを把握することが出来ないのだ。

 だから、


「まぁ、きな姉ちゃんが昔の知り合いだったっすから、流れで」

「なるほど」


 適当に返事をした後諦は立ち上がる。さっきまで持っていたパンは食べ終わったらしく無くなっている。


「ごちそうさま……おれは先に行くわ」


 手をひらひらと振りながら諦は背中を見せて帰っていく。


「諦、助けてよ!」


 冬夜の叫びを聞かないまま。


 放課後の時間。冬夜は、いつものように夕日が照らしている廊下を一人で歩いていた。なぜなら、突如急用の入ったクラスメートに頼まれた書類を職員室に置いた後だからである。


 (今日はどこ行こうかな)


 冬夜が考えるのは今日きなとの出掛ける場所。学力的には特に問題のない二人なので、放課後に遊ぶのは高校生の許容範囲内ならば問題ない。だから最近は二人で遊びに行くのが日課になっている。

 と考えながら角を曲がると――――突然目の前に人影が見えた。

 とっさの出来事に、神授性を使ってないために反応が遅れた冬夜だが、気付いた相手が止まったため間一髪人影にはぶつからなかった。けれど人影の方は突然の出来事に驚いたのか、両の手に収まりきらない程の書類を抱えながらふらつく、


「おっと――――」

「危ない!」


 後ろに倒れそうになる人影を両手で引いたことにそれを阻止した冬夜。勿論、転びそうになった人物の持つ書類は一枚たりとも落ちていない。


「大丈夫ですか」

「……んぅ、そなたこそ大丈夫か」


 やや古めかしい言葉で女性が心配の声を放つ。

 冬夜が受け止めた人物は、照を超えるメリハリのついたモデル体型、顔も整形をしたかのように整っていた。だが、それよりも目を引くのは黄金色の長い髪、そして同じ色の狐の耳と尻尾。毛先は茶色になっていていかにも狐らしい。


「そなた、わらわの顔になんかついておるか?」

「……は、すみません。随分と綺麗な方がこの学校にいたんだなとちょっと驚いてしまって」

「何? そなた、わらわの顔を見たことがないのか」 

「――――え」


 そりゃ見たことないですよ。なんて軽々しくも冬夜は口にできなかった。そんなことを口にすれば、自分が途中からこの世界の住人になったことがばれてしまう。そう思ったからだ。

 だから冬夜は考えた。


「すみません、僕あんまり人の顔を覚えるの得意じゃなくて」


 内心、まずったかな、と。焦りながら言葉を紡いだ冬夜。


「……ほう。なら仕方ないのう」


 納得してくれたような返事に冬夜は安堵する。

 あとはこの場から立ち去るだけ。そう思っていた――――。


「それじゃ、僕はこれで」

「だが、――――そなた、人じゃないじゃろ」


 彼女の言葉が紡がれるまで。


「何を言って、」

「悪いがわらわにはハッタリ? じゃったかの、それらは通用せんのじゃ。――――そなたの本質がよく見えておるのじゃわらわには。この眼を持つわらわにはの」


 と彼女は得意げに己の瞳に指を向ける。けれど冬夜の視点からでは、ただの綺麗で大きな深紅の瞳にしか見えない。

 すぐにこの場を去りたい冬夜は適当に、


「それはすごいですね」

「じゃから本題じゃ。人間の平均を大きく上回る膨大な神力――――そなた、何者じゃ?」


 さっきまで大きかった瞳を細めて少女は冬夜を見据える。心まで見透かされそうなその瞳に全てを打ち明けたい、そう思えるほどの威圧。通常の高校生が持っていいはずの威圧ではない。只者ではない――――そう思った冬夜だったが、


「……」

「そうか、喋りとうないか」


 黙った冬夜に憐れみを込めた言葉を向けた少女。けれど次に帰ってきた言葉は思いもしない一言だった。


「まぁ良い。人の秘密を掘り下げるのも野暮じゃしな。それにこの学校にもそなた以外の特異種など多くおるからの。はぁ……」


 少女は時間を無駄にした、と言わんばかりのため息。

 ぽかんと口を開けたまま言葉を聞いた後、冬夜は驚いた表情を向ける。


「な、え?」

「面白い表情をするのぅ。そういえばそなた、名を何というのじゃ?」

「僕は柴咲、柴咲冬夜……です」

「冬夜か。覚えておこう。わらわは久遠玉藻(くどうたまも)、これからはそなたの好きなように呼ぶがよい」


 ふっ。と微笑を浮かべる玉藻。だが数秒でその表情は崩れた。


「あ……、これを置きにいかねばの。忘れておったわ」

「あの、半分手伝いますよ? 久遠さん」


 そういって彼女に近づく冬夜。そうするとすぐに玉藻が嫌そうな顔でこちらを向いた。


「前言撤回じゃ。やはり下の名前で呼ぶのじゃ!」

「え……、玉藻さん?」

「それでよい」


 嬉しそうな笑顔を浮かべた後、玉藻は書類の一部を冬夜に預けるとすぐさま進み始める。なぜ怒られたのか訳も分からない状態の冬夜も玉藻の後ろをついて歩く。


 (あの声のトーンで上の名前を呼ばれるとどうもしっくりこないのぅ……)


 今更だが冬夜の声のトーンは、男子高校生の平均より少し高く、青年というより少年に近い。



 渡された資料の半分を持ちながら玉藻の後をついていく冬夜。どこに行くとは伝えられていないので、目の前を歩く玉藻だけが頼りである。

 そんなことを考えている時、玉藻はとある部屋の前で立ち止まった。部屋の札には――――、


「生徒会室?」

「そうじゃ。わらわは生徒会長じゃからの」

「へぇそうだったんですか……ってえぇ!?」


 「そなた、わらわの顔を見たことがないのか」という言葉に今更ながら納得した。生徒である限り生徒会長の演説などはひと月に一度ほどは聞くだろうから知らないはずはないのだ。


「あれ、でもこの前の演説不在だったじゃないですか」

「わらわは忙しくての。この前はどうしても外さざるを得なかったのじゃ」

「お疲れ様です」

「立ち話もなんじゃ、早く入るのじゃ」


 玉藻は生徒会室の扉を書類を持ちながら器用に開ける。


「あれ、他の生徒会の生徒は」

「仕事がないと思ってたからの、わらわが帰らせたのじゃ」


 おかげで一人で重労働じゃ。と嘆くように呟く玉藻。

 生徒会室は至って平凡、どこぞの学園小説で見るような華やかさはないが、それでも会長席だけは室内の奥に設置されていた。


「なんじゃ、普通すぎてがっかりしたみたいじゃの」

「いえ、玉藻さんが使うならもっと派手な部屋かなと思ってたのですが、簡素な出で立ちのこの部屋も僕は結構好きですよ」

「おぉ、おぬしには分かるか。そなたの予想とは好きなんじゃ。あぁ、書類はその机に置いてくれ」


 言われた通り冬夜は書類を会長席に置く。


「うむ、ありがとうなのじゃ」

「あ、いえ」

「そうじゃ、これを機会にわらわと友達にならぬか?」

「友達? 既に友達じゃないですか、こんな風に会話できてるのですから」

「あぁ、そなた純粋じゃのぅ」


 まるで眩しいものでも見るように玉藻は目を細める。


「まぁさておき。ここに名前を書くのじゃ」

「……なんでですか?」

「お互いの名前の文字も知らないのに友達は名乗れんじゃろ」


 玉藻がとりあえず持ってきた適当な用紙に名前をすらすらと書いていく冬夜。


「字……普通じゃの」

「そういう玉藻さんは綺麗ですね」

「まぁ何百何千と書いておれば綺麗に書きたくなるじゃろ?」


 このようにお互いの文字が綺麗かについて会話しながら、


「そなたの名前、確かに確認したのじゃ。今日は手伝ってもらって悪かったのう」

「僕が言ったことですし。それじゃ」


 そう言って冬夜は生徒会室を後にした。玉藻はサインの終わった書類に触れる。

 次の瞬間、書類は煙を出して別の物へと変化した。


「柴咲冬夜。面白い子じゃ。――――まずはお手並み拝見と言ったところじゃの」


 怪しい笑みを浮かべて玉藻は微笑む。


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