その338
おおおおお久しぶりです……。3か月経ってしまうところでした。
今回は区切りどころがなかったのでいつもの様にぶつ切りに、しませんでした!
2話とはいかないまでも1.5話分くらいはあるかもしれません。そのせいで後半は少し駆け足気味です。
唐突に現れたジニーさん。お仕事からの逃走中に偶然遭遇した訳ではなく、どうやら私を迎えに来たらしい。
今回は違うみたいだけど、頻繁に逃げ出すくらいお仕事が辛いのならもういっそギルド長を辞めて、さらにお店も手放して森に帰って来てしまえばいいといつも思う。そうなれば自動的にウェイトレスさん三人組はめでたく私の家で働く事になるというのに。
さすがにそれは半分冗談だけど大人の世界? 社会というものは色々と難しいからそう簡単にはいかないと思うけどね。
しかし、ミランさんを後任のギルド長にするなどという企みはどちらかと言うと大反対! そこだけはもっとしっかりと話し合って考え抜いて決めて頂きたい。切に思う。
……うん? 私を迎えにって言った?
よく考えてみるとそれはおかしなセリフだ。ジニーさんの口ぶりからすると私が『踊る妖精』に向かっていることを知っていたみたいだが、それがそもそもおかしい。なぜならそれは少し前に思いついたことであって、その理由もハンナさんとコレットさんと冒険者ギルドでたまたま出会って、そして失礼にも二人の生活事情に踏み込んでしまったからだからだ。分かりやすく言えばただの偶然の結果だね。
おっと、一人で考え込んでしまうのは昔からの悪い癖、こうして本人を目の前にしているのだから直接聞いてしまえばそれだけで済む問題だった。
「えと、ジニーさんは私を迎えに来たの? 今日は『踊る妖精』に行く予定はなかったんだけど、どうして知ってるの?」
「うん? ああそうそう、少し前にガトーちゃんから通信が入ってそれでね! それなのに、もうお店に着いてもいい時間だっていうのになっかなか来ないから、お姉ちゃん心配になっちゃって様子を見に来たって訳! まさかこんな所で騒いで遊んでるなんてお姉ちゃん思わなかったなー!」
私をうりうりと撫でながらジニーさんは答えてくれた。どうやら知らない間に心配をかけてしまったらしい。
予定もなし、今から向かうとも伝えていないのに心配されるとは対策のしようがないが、なるほど納得した。そういえば二人は精霊通信用の水晶を持っているんだったね。普通に忘れていた。結構便利そうなので私も欲しくなってしまう。
「あ、でも正確に言うとシラユキちゃんじゃなくて、そっちの二人を迎えに来たんだけどね!」
私を撫でる手は止めずにそっちの二人、とハンナさんとコレットさんの方へ顔を向けるジニーさん。
「私たちを? なんだろね?」
「私に聞かれても分かる訳ないでしょ……。ええと、初めまして、コレット・カースといいます。こっちの頭悪そうなのはハンナです。私たちに何かご用でした?」
「うんうん用事用事。でもそういうのは後でね、あ・と・で!! まずはお店に案内するからお姉さんについて来るように!」
二人の疑問はもっとも。しかしジニーさんはバッサリと切り捨ててしまった。今は、だけど。
「え、あ、はい! 多分シラユキ様が紹介してくださるお店の方ね。ハンナに足止めされたせいで心配させちゃったみたい」
「えー! 足止めしたつもりなんてないのにい」
不満そうに口を尖らせるハンナさん。可愛い。
しかしこのやり取り、誰がどう見てもコレットさんの方が年上に見えてしまう不思議。
「よし! それじゃシラユキちゃん、この二人はお姉ちゃんが責任を持たずに預かるからまたね!! シアちゃんとしっかり手を繋いで転ばないように気を付けて帰るんだよ? バイバーイ!」
「ミーランさんとバレンシアさん、シラユキちゃん様もまったね! 今度はほっぺ突っつかせてねー!」
「ちょっと待ってハンナ! あの! シラユキ様! 本当にありがとうございました!! ええと、また町の方までいらしたときにお会いできたら嬉しいです。ミーランさん、バレンシアさんも、それではまた」
「はい。変なお仕事させられそうになったら相談してくださいね」
「すぐに会うことになるでしょうが……、まあ一応、またお会いしましょう」
「うん! 今度お店に遊びに行くか……ら?」
またね、と手を振りながら立ち去ろうとするジニーさんと、私を追い越してついて行こうとするコレットさんとハンナさん。
私も思わず返事をして手を振り返したのだが……、ちょ、ちょっと待って欲しい! なんでそうなるの!?
「ま、待ってジニーさん! 私もお店まで行きたいんだけど、駄目なの? まだ二人とお話したいのに……。あと責任はちゃんと持って!」
あまりにも自然な流れ過ぎて思わず帰ってしまうところだった、危ない危ない。
「責任は持ってあげるけど、いくら可愛いシラユキちゃんのお願いでも今日はもうダーメ! 寄り道しないでまっすぐ帰ること! それじゃねー!」
「あ……」
軽く振り返りながらも足は止めず、ずんずんと先へ行ってしまうジニーさん。取り付く島もないとはまさにこの事。責任は持ってくれるらしいからそこは安心しておこう。
「シラユキ様、今日の所はもう……」
「むう。はーい……」
ミランさんからも早く帰った方がいいと暗に言われてしまった。残念だけれど素直に従うとしよう。
強く我儘を言えばみんな応じてくれるとは思うけど、さすがにそこまでする程のことでもない。それに実際会いに来ようと思えばいつでも来れるし、なんなら森に呼んでしまってもいい。二人が仕事に慣れるまで少しかかると思うので、今日別れて明日すぐ遊びに、とはいかないけれど。
「あ、そだ、ミランちゃん」
「はい?」
今度はしっかりと足を止めて体ごと振り返るジニーさん。何かを思い出したみたいだった。
先導する人物が止まってしまったので、コレットさんとハンナさんも同じく足を止めることになってしまった。別れの挨拶の直後なので少し気まずそうな苦笑い。和んでしまう。
「ミランちゃんは明日、お休みの予定だったよね?」
「ええ、はい。……?」
ミランさんが訝しげな表情を見せる。ジニーさんが知らない筈がないからそれも当然のことだと思う。
「ふっふっふっ。ギルド長権限で、なんと明後日もお休みにしてあげるね! お姉さん優しいでしょ!!」
「えぇ……、明後日はガトーさんと町を見回る予定でしたから元々お休みみたいなものだったんですけど……」
それって一日分のお給料が無意味に減らされるも同義なんじゃ……。優しいどころか普通にひどい。あ、そういえばシアさんがそんなことを言ってた気がする。
あれ? シアさんから聞いたミランさんの予定って嘘だったんじゃなかったっけ? おかしいね。エレナさんの勘違い? それとももっと別の意味が……?
「ガトーちゃんと他の皆にはお姉さんからちゃんと伝えておくからまっかせて! だからミランちゃんは明日と明後日、ううん、今からシラユキちゃんを送りながらお家に遊びに行ってらっしゃーい!!」
ブンブンと勢いよく、大きく手を振るジニーさ……、なんですって!?
「えぇ!? そんな急に!」
「いいの!? やったー!」
やったやった! ミランさんがお泊りに来る!! これはもうシアさんの嘘とかどうでもいいわ!
やっぱりジニーさんは優しいなー、憧れちゃうなー。心の中でだけど酷いとか思ってごめんね! ふふふ、何して遊ぼうかな?
ジニーさんの急すぎる申し出に驚くミランさんだが、申し訳ない、私としてはどちらかと言うと大歓迎。
ミランさん用のお部屋も着替えもいつ来てもいいようにしっかり用意してある。勿論メイド服だってしっかりと。
最初はシアさんのメイド服を着てもらっていたのだけど、着用者のミランさんが、「バレンシアさんのメイド服って腰が苦しいのに胸が余るんです……」と凄く悲しそうにしていたので専用の物を用意することになったのだ。切なすぎる。
「ふふ、なんて可愛らしい。ミランさん、貴女はこんなにも愛らしく喜んでいる小さな子供を悲しませるような真似は……、致しませんよね?」
「はい! しませんしません致しません!! 今日から少しの間お世話になりますぅ!」
「なんでシアさんはすぐ脅すの! まったくもう……。ふふふ」
一応表面上、言葉だけでも注意はしておくけど、本当はよくやったと褒めてあげたい気持ちでいっぱいです。ぐっじょぶシアさん! 小さな子供というセリフも聞かなかったことにしてあげよう。実際そうだし。
「話はそれだけ! それじゃ今度こそまたねー!」
「コレットのおっぱいが触りたくなったらいつでも呼んでねー! 私もついて行くからねー! あ、忘れてた。キャロルにもよろしく言っておいてー!!」
「さっきまで無事を喜んでたのにもう忘れたの!? ってさすがにそんな理由で呼ばれるなんて事は……、あったりするのかしら?」
ないから! そこはちゃんと言い切って欲しかった……。まあ、こっちから触りに行くことはあるかもしれないけどね。
シアさんと手を繋ぎ、ジニーさんから言われた通りに慌てず騒がず家路につく。頭の中ではミランさんと何をして遊ぶか考え中だが、例え石畳に足を取られたとしてもシアさんがいるので問題なし。そうなると言いつけを守っているとはとても言えないが気にしてはいけない。
ミランさんが森に帰って来るのは大体月に一回、多くても三回程度、それも夜にはまた町へ戻ってしまうという本当にちょっと遊びに来る程度のもの。今日の夕方から二泊三日というこの機会、日帰りでは行く事のできない遊びスポットへお出かけするのもありかもしれない。
本人とも相談したいところだけど、そのミランさんはと言うと今は別行動をとっている。話は通しておくと言われていたのに、一応、念のためショコラさんや他のギルド員の人たちに伝えに行ったのだった。真面目だなさすがミランさんまじめ。
その間私たちはゆったりと大通りを歩き、冒険者ギルド前で合流する手筈となっている。……いや、なっていた。
しかし冒険者ギルド前で私たちを待っていたのはミランさんではなく……
「お、可愛いのが来たぞ」
「ああ、可愛いのが来たな」
町で見かけるのはとても珍しい、ライスさんと兄様という組み合わせだった。
正確には二人がいたのは冒険者ギルド前に移動してきていた串焼きの露店。そして揃って片手に串、もう片方の手には小さな樽に取っ手を付けたようなジョッキを持っている。どう見ても、どう考えてもお酒で間違いないだろう。
立ち食い立ち飲みとは、ライスさんはともかくとして兄様がやってしまっていいんだろうか……。まあ、それも今更のことかもしれない。
それはもう置いておこう。二人がここにいる理由、それは多分……。
「ルー兄様、もしかして迎えに来てくれたの?」
速足で兄様に近付きながら質問しつつ、顔馴染みの串焼き屋のお兄さんにはペコリと軽く頭を下げて挨拶しておく。お兄さんも笑顔で手をヒラヒラとさせて応えてくれた。
「ん、今日は少しだけ遅くなるかもって聞いて一応な。ミーランからこっちに向かってるって聞いて、その間酒でも飲んで待つかってことにしたんだが……、思ったより早くてこりゃどうしたもんかな」
「まあどうせミーランちゃんも待たないとなんだし急いで食う事もないんじゃね? 出て来るまではゆっくり飲んで待ってようぜ」
「そうだな、そうするか!」
麦酒が入っているだろうジョッキをぐいっと呷るルー兄様とライスさん。二人ともいい笑顔すぎる。
やはりお迎えだった! ジニーさんに続き、もしかしたら多方面に心配をかけてしまっているのかも……?
そういえば森の入り口で待っていてくれる事は何度もあったけど、町まで迎えに来てくれたのは地味に初めてかもしれない。申し訳なくも嬉しい気分だね。
「ルーディン様、買い食いはいつもの事としてもお一人で町へ出られるなどお控えください。せめて一人だけでも供を……、そうですね、キャロをご自由に使って頂いて構いませんので、どうか」
「悪い悪い分かった分かった、次からはそうするって」
訳の分からないことを言い出すシアさんと、普通に受け答えする兄様。しかしちょっと待ってもらおうか!
「キャロルさんは私のメイドさんなんだからだーめ!」
これだけは言っておかねばなるまい! まったくシアさんはもう……。
「違うだろ!? そこは、ライスさんがいるのに! って突っ込むところだろ!? ツッコミは姫の仕事なんだからちゃんとやってくれよなー」
そうとも言うね。でも今は、そんな事は重要じゃない。どうでもいいんだ。
「おや? いたのですかライスさん。いつもなるべく視界に入れないようにしていたのと、入ってしまっても認識しないようにしていたので気付きませんでした。申し訳ありませんでしたルーディン様、どうやら思い違いをしてしまっていた様で……」
「いや、いい。どうせそんな事だろうと思ってたしな。気にすんな」
「ありがとうございます」
「ひでぇ! こいつらひでぇ! ほんとお前らって相性がいいって言うか、仲良いよな」
「ええ、まあ」「だな」
私から見るとライスさんとも楽しくお喋りしてる様に見えるんだけどなー。シアさんがここまで悪口、いや、軽口を叩くのも、一緒に暮らしてる家族を除けば本当に少ないと思うし。多分三人とも精神年齢が近いんじゃないかな? そういう気安い関係のお友達はちょっと羨ましいね。
仲良くお喋り、じゃれ合いを続ける三人の邪魔をしない様に聞きに徹していた私なのだが、さすがに手持ち無沙汰なので辺りに視線を泳がせてみる。すると気付いた事が一つあった。それは、冒険者ギルドへ出入りしている人の数がやけに多いという事。
なんだろう? 少し気になるね。何かイベント事でもあったりするのかな?
「依頼を終えた報告や他の町から到着したという挨拶、あとは酒やつまみを持ち寄り、仲間との語らいや情報交換などなど、冒険者ギルドは早朝と丁度これくらいからの時間帯が混み始める頃合いですね」
「へー」
なるほどそれは面白い事を聞いた。ナチュラルに心を読んでくることにはもう突っ込まないでおく。
「シラユキは夕方前には森に帰ってるからその辺の事情を殆ど知らないのか。昼と様子が違うと言えばこの露店もそうだな。これから集まり出す冒険者相手に商売するためにここまで移動して来てるんだよ」
「だからあんま居座ると邪魔になっちまうよな。ミーランちゃんは何やってんだか」
「はー」
いやいや気にしないで、とにこやかに串焼きを焼き続けるお兄さん。いい人だ。
確かにこれからが書き入れ時というなら私たちは邪魔でしかないだろう。王族が二人もいる状況で串焼きを買いに来る度胸がある人はなかなかいないと思う。いや、冒険者さんたちなら遠慮なしに来るかもしれない。
しかしどちらにしても邪魔は邪魔、ここは早々に退散した方がいいのではないだろうか? ミランさん早く来てー、早く来てー。
などと考えながらも初めての機会なので、串焼き屋のお兄さんも仲間に入れてお話を続ける事にした。ミランさんが出て来るまでの間なら多分きっと問題はない、と思う。ルー兄様という保護者もいることだしね。
とても興味深い、そして少しためになったお話をまとめると。
いつもこれくらいの時間になると露店をここまで移動させてくるらしい。その作業はそこそこ大変だけれど、一日働いたり移動したりで疲れ切った冒険者を歩かせるのも悪い気がするからなんだとか。優しい。
実際それを始めたのはお兄さんではなく先代、お兄さんのお父さんであって、その理由はやっぱりお腹を空かせた冒険者狙い。つまり儲けのためだった。実に面白い。
売っている物も昼間とは違い、格安の内臓串と焼きそら豆を追加販売している。どちらも完全におつまみ特化商品だ。
「一つ食ってみるか? あ、内臓串は脂が多いからやめとけよ」
「普通に茹でたのも美味いけど焼いたらまた格別に美味いぞー。ほれバレンシア、姫にこれ」
「夕食前に、と言いたいところですけが一粒くらいなら構いませんか……。姫様、どうぞ」
「あーん……。んー……、美味しい!」
焼きそら豆は香ばしくてホクホクとしていて絶品でした。
こんなにも美味しい物が食卓に並ばないのは、食べ過ぎるとお腹を壊してしまうかららしい。こんなところに過保護の弊害があったとは……。ぐぬぬ。
最後にもう一つ面白い事を聞かせてもらえた。
この串焼きの露店以外にも、夜の冒険者ギルド周辺には様々なお店が並ぶらしい。実際こうして話してる間にも何店か準備が始まっていた。
面白い事というのはそれではなく、その集まった露天全てに共通することが一つ。それはなんと……、売れ残りが一切ないという事!
これには本当に驚いたが、訳を聞いてみればそれも簡単に納得できた。どうやら美人で評判の冒険者ギルドのギルド長補佐さんが全部買い取ってくれるかららしい。
普通に納得してしまったが、よく考えてみると恐ろしい話である。食べ物の量的にもかかる金額的にも……。
「あのー……、お話は終わりました?」
「ああ、悪いな気を使わせちまって。シラユキが興味津々だったからつい、な」
「あれ? あ! ミランさんもしかしてお話が終わるまで待っててくれたの!? ごめんねー」
「いえいえいえいえ! 今さっき来たところです!」
「ミーランちゃんは人が良すぎて心配になるな……」
「王族の方々相手なのですから当然の反応では? と、さすがにもう帰りましょう。営業妨害は勿論、これ以上足を止めていると館に着く頃には日が落ちてしまいそうです」
「そうするか」「はーい!」
今日はお昼過ぎから町に来たというのに、随分と充実した一日になった気がする。それだけ濃い時間を過ごしたという事なのかもしれないね。うん、凄く楽しかった。
……いやいや、楽しくなるのはまだまだこれからだ!
続きませんが続きます!(?) とりあえず新キャラの顔見せ会は終わりです。
書きたいお話は大量にあるのに中々手が動いてくれません。VRの続きも新作も考えてはいるのですが難しいですね。