俊蔭(その11)
一つ目の山に入ってみると、栴檀の木の木陰に花を折り敷いて琴を弾く人がいました。年のころは三十余りと見えます。
わたしは、近寄っていき、座って拝み、立って、また座って拝みました。その山のあるじは、たいそう驚いて、
「これはどういう方か。」と聞きます。
「わたしは、清原の俊蔭と申します。ここに参りましたのは、かくかくしかじか…と天女がおっしゃたからなのです。」と答えますと、
「ああ、蓮華の花園より来たか。わが母の通われる所ではないか。日本の方と見えるが、花園から来たとなれば、御仏が来られたよりも尊いことではないか。」と言って同じ栴檀の陰に座らせ、事の次第を詳しく尋ねられました。わたしが、事の初めのことを詳しく申し上げているときに、つむじ風が、あの三十の琴を運んできてそこに置いた。
そこで、山のあるじは、わたしに琴を弾いてみるように言われ、それを聞いてたいそうすばらしいと感動されました。そして、私と二人連れ立って、二つ目の山に入りました。二つ目の山のあるじは、珍しがられたので、一つ目の山のあるじが言われました。
「不思議なことに、蓮華の花園から来たという人がいたので、母の恩がありがたく、恋しく思って、ここに連れて来たのだ。」
それを聞いて、二つ目の山のあるじも、感動して、私と三人連れ立って、三つ目の山に入りました。そこでも同じように話をされて、私と四人連れ立って、五つ目の山に入りました。
それを聞いて、五つ目の山のあるじも、感動して、私と五人連れ立って、六つ目の山に入りました。そこでも同じように話をされて、私と六人連れ立って、七つ目の山に入りました。
(昔話は、繰り返しが多いですね。桃太郎は、犬、猿、雉の三回ですが、(あれは、室町時代の御伽草子?)平安時代は、七回繰り返したようです。)




