01 理想のヒロインを買いに行ったら、何かがおかしい
奴隷を買うことにした。
一端の冒険者であるこの俺、アルジャン・ド・フォンテーヌ。職業は戦士だ。
足りないのはヒロインである。
ツンデレ女剣士でも、ドジな魔女っ子でも、素朴な町娘でも構わない。
が、残念ながら、女冒険者はもちろん、そこらの町娘にすら見向きもされない。
Fランクだからだろうか?
若干ぽっちゃりしているからであろうか?
金はある。十分、実家から仕送りしてもらっている。
だが、そこはポイントにならないらしい。
そこで、奴隷である。
奴隷なら、無条件で俺に従ってくれるだろう。
俺は意気揚々と奴隷商人の元へと向かった。
不安もある。もし歯向かわれたら。
しかし準備は万端だ。先程、魔導具屋で『服従の判子』を購入した。相手の体に押印すれば、押された者は押した者に絶対服従するという代物だ。高かったが、性能は折り紙つきとのことだ。
◇
奴隷商人の店に入ると、薄暗い店内で主人が出迎えた。
「だんな、どのような奴隷をお探しで?」
「お、女の子の奴隷をたのむ」
「承知しました。好みなどございますか?」
「か、可愛くて。おしとやかな子がいい」
「でしたら、ちょうど良い奴隷がおります。獣人ですが、よろしいでしょうか?」
「獣人?」
「はい、猫人族の娘です」
猫! 猫耳! 猫しっぽ! ……いい。
「おやじ。み、見せてくれ」
「承知しました。では、奥へ」
主人のあとをついて店の奥に入ると、いくつもの檻が並ぶ薄暗い部屋になっていた。とたんに、なんともいえない獣臭が鼻を突く。屈強な男達が見張りに立っている。物々しい。あちこちでガタゴトと音がし、ひっきりなしに鳴き声とも悲鳴ともつかない音が響いている。
檻の中を覗くと、狼人族、蜥蜴人族、様々な獣人が閉じ込められている。こっちをじっと睨むもの。うずくまって動かないもの。 檻を激しく揺さぶるもの。薄気味悪い。
主人は俺の様子にも構わずどんどん奥へ進み、一つの檻の前で立ち止まった。
「この獣人です」
見ると、ボロ切れのような服に身を包んだ猫耳の少女が、檻の奥で膝を抱え、じっとこちらを見つめていた。
「出てこい」
「……はい」
猫耳娘は素直に従い、檻の外に出てくる。
近くで改めてよく見る。怯えているのだろうか? 幼さの残るその顔は少し強張っていた。12、3歳くらいだろうか。
俺を真っ直ぐ見つめる瞳は青く光っていた。
美しいと思った。あと数年もすれば、すごい美人に進化するに違いない。
「獣人ですが、この娘は非常に大人しく従順です。いかがでしょう?」
「き、気に入った。この娘にしよう。いくらだ?」
「獣人と言えど、これだけの若さと器量ですから値は張ります。金貨300枚になります」
金貨300枚。高いな。
親から貰った軍資金が底をつくが、まあ、良いだろう。
「買おう」
◇
支払いを終え、俺は猫耳娘を外に連れ出した。
すると突然、猫耳娘は俺の手をそっと握った。小さく柔らかい感触。獣人の娘といっても、手の柔らかさは人の娘と一緒ではないか!もっとも、人の娘の手など握ったことがないので、本当に同じかどうかは知らないが。
「君、名前は?」
俺はドギマギしながら少女に話しかけた。
「コルネ、です」
「コルネ、いい名前だ。これからよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして俺の顔を見て微笑む。俺はその表情にドキリとする。
それにしても、ひどい身なりだ。まずは服を新調してあげることにした。
服屋に入り、彼女に合う服を見立てる。青色のワンピースにした。彼女の青い瞳とマッチしている。
初夏の風に吹かれ、ワンピースの裾がたなびく。清楚な彼女によく似合っている。
「気に入ってくれたかな?」
「こんな、かわいいお洋服、ありがとうございます」
よし、次は飯だ。町の食堂に彼女を連れて行った。
スープにパン、肉料理。彼女はおいしそうに食べた。
しかし、女の子と二人で食事なんて。これはまるでデートではないだろうか。人生初のデートに、俺の胸は高鳴った。
俺はふと、気になっていたことを聞く。
「どうして奴隷なんかになったの?」
「ひとりでいるところを、悪いやつらにさらわれて……」
すると、彼女の目から大粒の涙がこぼれる。
「お父さんとお母さんに、会いたい……」
俺は思わず、彼女の手をそっと握った。
「俺がいつか、君を両親のもとにつれていこう」
コルネは目を見開く。
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも」
コルネの目が少し潤む。
「ありがとうございます、ご主人様」
「その呼び方はやめてくれ。アルジャンと呼んでくれ」
「はい。アルジャンさま」
「ついでに、もうひとつ良いかな?」
「はい。なんなりと」
俺は一つのささやかな願望を彼女に伝えた。
「語尾に『にゃ』をつけて、話してくれないか?」
「……」
「……」
「承知しました、……にゃ」
かわいい。かわいすぎる。
◇
俺の宿につく。
ちなみに俺の定宿の部屋はこのあたりでは上等の部類だ。ベッドは広く、調度品も整っている。シャワー付きの浴室まである。彼女も満足してくれることだろう。
「すごい、立派なお部屋ですね、……にゃ」
案の定、部屋に入ったコルネは感嘆の声を上げた。俺は鼻高々だ。
コルネにはシャワーを浴びてもらおう。ずっと檻に入っていたのだ。身を清めたいだろう。
ただ、その前に。
俺は『服従の判子』を取り出す。
「コルネ。少し、首筋を見せてくれるかい? この判子を押さないといけないんだ」
「それはなんですか、にゃ?」
「これはね、『服従の判子』というんだ。まあ、君には必要ないと思うんだけど、念のためにね」
「……わかりました、にゃ」
コルネはワンピースの肩を少しめくり、首筋をあらわにした。
その仕草に思わずドキリとした。俺は慌てて視線を逸らす。
俺は気を取り直して彼女に近づく。
「痛くないからね?」
ふっと、コルネが微笑んだ。
「?」
次の瞬間。
コルネのハイキックが、俺の首筋を蹴り抜いた。
俺はその瞬間を、まるでスローモーションのように眺め——
「ごきっ」
次の瞬間、完全な闇に包まれた。




