気持ちと誘い
私は朝からの出来事を話し始める。
雨に降られたところを助けてくれたこと。
彼女の家がすごくて母親は財閥の当主であること。
LONEを交換して映画も一緒に見に行ったこと。
学校を遅刻したことは謝った。
彼女に許嫁がいて、それが生徒会長だったこと。
その生徒会長に放課後呼び出されて彼女と縁を切るように言われたこと。
「ねえ、ママ。私どうしたらいい?しののんと友達止めた方がいいのかな?」
母は私の話を相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。
そして話が終わると真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「茉莉はどうしたいの?」
「しののんと友達でいたい」
「なんで?」
「なんでって、それは」
「だって、茉莉とその子は昨日友達になったばっかりだよね。しかも友達でしょ?別に友達ならその子じゃなくても他に作ればいいじゃない」
確かにそうだ。
私と彼女は昨日知り合って友達になった。そう、ただの友達。
「でも、しののんは私の事助けてくれたし」
「今までそんなことしてくれた人はいなかった?そんなことないでしょ?」
傘を貸してくれた人やタオルを貸してくれた人はこれまでもいた。
学校案内も転校するたびに誰かがやってくれた。
彼女がしてくれたことは特別じゃない。
「茉莉はなんで友達でいたいの?彼に煽られたから?それともその子の持ってる物にあやかりたいから?」
「違う、私はしののんの手が冷たかったから......」
そうだ。
私は彼女と友達になった時、彼女の手の冷たさを知った。
あの時の母と同じ生きているか分からないほど消えそうな冷たさ。
「ママはさ、パパが亡くなった時の自分のこと覚えてる?」
「あの時は何もかもがどうでもよくなっちゃってたわ。茉莉にも心配させてしちゃうくらいに」
「ママの手、あの時めっちゃ冷たかったんだよ」
「でね、しののんの手があの時の手の冷たさと一緒だったの。何もかもあきらめていつでも消えそうな冷たさ」
私がそう言うと母は、一瞬目を見開いた後に哀しい表情を見せる。
何も言わない母に私は気持ちを伝える。
「多分、しののんは温もりを知らないんだと思う。家に入った時も家がめっちゃ冷たくてね、本当に人が住んでるのかなって一瞬思っちゃったんだ」
そう、これは私が今日一日通して感じた違和感。
当主の娘なのに離れで暮らしていたり、使用人が東野さんしかいなかったり。
決定的になったのは生徒会長の「物」という発言だ。
彼らは彼女のことを人として扱ってないんだろう。
「パパが言ってたの、私は人を笑顔にできるって。私の温もりを人に分けてあげることができるって」
「だからあの時もママに私の温もりを分けてあげられたらって私はずっと笑ってた」
「しののんにも私の温もりを分けてあげたい。だから私は縁を切りたくない」
私は笑顔でそう言う。
母が私を抱きしめてくれる。
力は強いが優しい抱擁だ。
「ごめんね、茉莉。あの時あなたに無理をさせて。さっきまでもキツく言っちゃって」
「大丈夫だよ、ママ。私はママに笑顔になってほしかっただけだし、キツく言ったのも私のためなんでしょ?」
母が私から離れる。
「あなたは優しいわね」
「そりゃそうだよ、だって私はママとパパの子だよ?」
「茉莉、あなたが東雲さんとこれからも関わり続けたいなら、その気持ちは絶対に忘れちゃだめよ」
「うん」
「ねえ、しののんを遊びに誘ってもいいと思う?」
「良いんじゃない?」
「もっとしののんの事知りたいし、私のこと知ってほしい」
「頑張りなさい」
「「ぐぅ~~~~」」
2人してお腹が鳴る。
さっきまであった緊張感のあった空気が解ける。
「そういえばご飯作るの忘れてた!ごめんママ~」
「今日は仕方ないわよ。今から作るのもあれだからピザでも頼みましょう」
「やった~」
母は出前アプリを開いて注文する商品を選び始める。
私はスマホを取り出し、彼女にLONEを送る。
『しののん、今週の土曜日暇?』
『暇なら遊びに行かない?』
そうお送り良い返事が返ってくる事を祈りながら母が一人で決めないように私も選びに行く。
「ちょっと~一人で決めようとしてんじゃ~ん」
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部屋で明日の授業の範囲を予習しているとLONEの通知が鳴った。
東野が何か伝えたいことがあるのかと思い確認する。
『しののん、今週の土曜日暇?』
『暇なら遊びに行かない?』
彼女からだ。
遊びの誘いか。
断るべきか、了承するべきか。
土曜日は予定もないし母も母屋にいない。
とりあえず東野に意見を聞きに行こう。
「東野、料理中に失礼するわ」
「いえ、どうかなさいましたか?」
「彼女に遊びに誘われたわ。土曜日暇だったらどう?って」
「ほう、遊びに......ですか」
「断ったほうがいいわよね......」
「そうですね」
東野も駄目だと言うか。
彼女には申し訳ないが断りの連絡を入れよう。
「敦那様はどうしたいのですか?」
「え?」
「行きたいですか?」
私がどうしたいか。
そんなこと聞かれたことない。
いつも家の益になることは何か、何を望まれているのかを考えてしかいなかった。
私の意思なんてどうでもよかった。
「私は.........行きたい」
行きたい。行ってみたい。
彼女が誘ってくれたんだ。
私の友達が。
「そうですか、なら行きましょう」
「いいの?」
「大丈夫でしょう、中間テストも終わったばっかですし結果も悪くなかった。何より、敦那様が行きたいと思うなら行くべきです」
「ありがとう東野」
東野が言ってくれないと行く勇気が出なかった。
私は東野に背中を押してもらいたかっただけ。
「いえいえ、ただ詳細が決まったら私に報告してください。何かあった時に対応できるように」
「分かったわ。じゃあ、返信してくるわね」
「改めて、ありがとうね東野」
感謝を伝え、返信するために部屋に戻る。
『暇だから良いわよ』
『何するかは明日、学校で話しましょう』
友達に遊びに誘われ、遊びに行く。
彼女と出会ってから初めての事ばかりだ。
初日に学校を案内して倒れたところを助けてもらい友達になった。
今日は彼女を家に入れ一緒に映画を見て遊びに誘われる。
私の日常が少しづつ変わっていく。
その変化に私は戸惑いながらも何かを期待している。




