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孤高の才女は毒に溺れる  作者: kuroyomi4


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これから

「最悪......」


 濡れた顔をタオルで拭く。

 冷たい水で目が完全に覚めた。


 私が彼女の布団で寝ていたこともバレたし寝ぼけていたとはいえ、甘えた声で名前を呼んでしまった。

 幸いなことに彼女はあまり気にしていないようだったが。


 鏡で自分の顔を確認し、気持ちを入れ替える。

 落ち着いて、いつも通り。


「......よし」


 リビングに入ると彼女が麦茶が入ったグラスを持って立っていた。


「お、ちゃんと目が覚めたんだね」


「ええ、さっきは恥ずかしいところを見せたわ」


「可愛かったよ~」


「やめて」


 言い返す言葉は恥ずかしさで弱弱しくなる。


「あ、そうだ。これ飲んでね」


「ありがとう」


 持っていたグラスを渡される。

 そういえば彼女は私の飲み物を取ってくるためにリビングに行ってくれたのだった。


 私はグラスのに入った麦茶を一気に飲み干す。

 自分が思っている以上に喉が渇いていたらしい。


「いい飲みっぷりだねぇ。おかわりいるかい?」


「おねがい」


 居酒屋の酔っ払いのような口調で聞いてくるのにはツッコミをせずに注いでもらう。

 グラス持ってをソファに座り、彼女にも座るように手招きする。


 彼女が横に座り、私は麦茶を一口飲んでテーブルにグラスを置く。


「母は逮捕されたわ。殺人の容疑でね」


「殺人......」


「鈴木 綾さん。私達と同い年の女の子よ」


 口にすることで自分のせいで人が亡くなった事実を改めて実感する。


 彼女はきっとやりたいことが沢山だろう。

 成人して親から離れて不自由なく暮らす。そんな未来もあったはずだ。

 幸せになるべき人間の命を私が奪った。

 私が自由になるために。


「敦那は何も悪くないよ」


 私が何も思っているのかを察したのだろう。

 いつの間にか力強く握っていた手を優しく包み込んでくれる。


「悪いのは綾さんを殺したお母さんだよ」


「でも......」


 彼女に話せばそう言ってくれるとは予想していた。

 自分でも分かっている。だが、考えてしまう。

 もし、私が逃げなかったら。

 もし、あの時死んでいれば。

 彼女は死んでなかった。

 私の自由への代償は鈴木 綾という少女の死で払われたのだ。


「私は敦那が生きていてくれて嬉しいよ」


「ありがとう」


 頑張って言葉をかけてくれる彼女に対して感謝しか返せない。

 これは私が背負うべき傷だ。

 この傷を私は一生消えないだろう。

 

 しかし、ずっと囚われているわけにはいかない。

 彼女と引き換えに手に入れた自由なのだから。

 私は前に進んで行こう。

 彼女の分までも。


「敦那のやりたかったことはもう終わったの?」


「そうね。あとはお父さん達警察がどこまでやってくれるか期待して待つしかないわ」


 リモコンを手に取り、テレビをつける。

 いつになるかは分からないが、それほど経たないうちにニュースになるだろう。


『本日、河合高校3年の原田 一真、18歳が逮捕されました』


「意外と早かったわね」


「すごいね......」


 父がどれほど怒っていたのかが行動の速さに現れている。


『彼は同じ学校の女子生徒に性的暴行を行ったとして、不同意性交等罪で逮捕されました』


『また彼はハラダテックの社長、原田(はらだ) (まさし)の息子であり、ハラダテックは先程容疑を認める謝罪文を発表しました』


「あら、彼は捨てられてしまったようね」


 彼らには母が逮捕されたことは伝わっているはず。

 これ以上の損害を出す前に東雲との繋がりを切っておこうという考えなのだろう。

 いい気味だ。


 そこから30分ほどニュースを見て東雲についての報道がないか確認したが、何もなかった。

 反社会的組織が絡んでいることもあり、丁寧に捜査しているのだろう。

 あの母が簡単に口を割るとも考えられないし。


「明日の学校は大騒ぎでしょうね」


 彼は、皆の目には優秀な生徒会長に見えていただろう。

 それが性犯罪者だったのだ。しばらくはマスコミが学校の前にいるだろうし、生徒の話題も彼で持ち切りだろう。

 もしかしたら明日は休校になるかもしれない。


「敦那は...これからどうするの?」


 彼女は閉ざしていた口を再び開き、おずおずと聞いてくる。


「どうしようかしら」


 正直、ここまで上手く行くとは思ってもいなかったため、これからの事なんて考えてなかった。

 これからを考えないといけない。


「とりあえず転校はしようと思うわ」


 あの学校に通い続けるのは無理だ。

 多くの人間が私の事を知っている。もちろん原田との関係性もだ。

 そのような場所で穏やかな学校生活を送れるとは到底思えない。


「そう...なんだ......」


「でも、これからもしばらくはこの家で住まわせてほしいの。転校もすぐにできるわけじゃ無いから」


「それは全然良いよ」


 彼女の声が少し明るくなった。

 私と離れることにさみしさを感じてくれているのだろうか。


「あとは水族館にもいかないとね」


「え?」


「あなたが連れてってと言ったじゃない。忘れたの?」


「いやいや!忘れてないよ!」


 手と顔を大きく振り、身体を使って否定している。


「私、これから何でもできるの。好きな事をして、色んなところに行って」


 今まで出来なかったネイル、やってこなかったゲーム。

 行ったことの無いテーマパークや県外、いや海外にも行ってみたい。


「でも、私はすぐに気分が悪くなってしまう。最悪倒れてしまうかもしれない」


 私はひとりでは何もできない。

 身体的にも精神的にも。


「だから誰か側にいてくれるととても助かるの」


 私は右手を出す。

 あなたがいれば私は何でもできる気がする。

 この手を取ってほしい。


「......私で良いの?」


「助けてくれるんでしょ?」


「うん!」


 彼女は一瞬驚いた顔をした後でとびきりの笑顔を見せて、私の手を握ってくれた。



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