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孤高の才女は毒に溺れる  作者: kuroyomi4


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おかえり

「ただいま」


 扉を解錠して、部屋に入る。

 靴の数は出ていく前と変わっていない。


「学校に行けって言ったのは私じゃないか」


 彼女がいるかもと思ってしまった自分を鼻で笑う。

 まだ11時だ。今は数学の授業を受けている頃だろう。


 靴を脱ぎ、リビングではなく彼女の部屋に向かう。


 彼女に会いたい。

 会って私を抱きしめてほしい。

 彼女の温もりで私を満たしてほしい。


 .......どうやら私はさっきの母との会話でおかしくなってしまったらしい。

 これほどまでに彼女を求めてしまう。


「本当に毒みたいね......」


 母が言っていたことは正しかったのかもしれない。

 橋本 茉莉と言う存在は私の中でどんどん大きくなっていき、私の脳内を埋めていく。まるで、体内に入った毒が体を蝕んでいくように。

 それとも、私はかなりの依存体質なのだろうか。


「どっちでもいいか」


 どっちみち、彼女は私の中で「特別」なのは変わらないのだから。


 さすがに母との会話は体力を使った。

 休もう。


 部屋の端に置かれた二つの畳まれた布団から、一つを引っ張り出して広げる。

 布団は私のではなく、彼女のを敷いた。


「別に汗もかいてないし、少し寝るだけだから」


 誰もいない部屋で言い訳するように独り言をつぶやく。

 もし彼女が帰って来てばれたとしても、疲れていて分からなかったと言えば大丈夫だろう。

 彼女なら笑って許してくれそうだ。なんなら、心配してくれるかもしれない。


 布団に横になる。

 彼女の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、布団に残された微かな温もりが私を包み込む。

 彼女を感じる。


「変態みたいね」


 あまりにも自分が気持ち悪くて、また自嘲するように鼻で笑う。

 もし私が男なら逮捕されていただろう。

 そこだけは私を女として産んでくれた母に感謝しないといけないな。


「あったかい......」


 目を瞑り、意識を手放す。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ただいま~」


 返事が返ってこない。

 スマホを取り出し、彼女の位置を確認する。

「しののん」と書かれた円は、私と重なっている。


「あれ?」


 足元に目をやり、置かれている靴を確認する。

 私が出ていく時と同じ数。つまり、彼女は帰ってきている。


「あ、私の部屋開いてる」


 靴を脱ぎリビングに向かおうとすると、朝に閉めたはずのドアが半分開いていた。


「しののんが開けたのかな」


 出かけると言っていたし、服を着替えるために部屋に入った後に閉め忘れたのかもしれない。

 閉めておこう。


 ドアノブに手をかけて閉めようとすると、隙間から足が見える。


「しののん?」


 ドアを奥に押し、部屋の中を確認する。

 そこには、布団の上で気持ちよさそうに寝ている彼女がいた。

 寝ていたのか。


「あれ、寝てる布団間違えてるや」


 布団のカバーと枕が私の布団で使っている物だ。


「疲れてたのかな」


 お母さんとの会話はかなり体力を使っただろう。

 しかも、一人であの家まで行ったのだ。

 間違えた布団を選んでしまっても仕方ない。


「頑張ったね」


 枕元に座り込み、彼女の頭を優しく撫でる。

 彼女の寝顔は穏やかで嬉しそうだ。

 今日の朝、彼女は苦しそうな顔をしていた。


「んぅ......」


 凛とした顔立ちから出る可愛らしい声は、私に言葉にならない感情をもたらす。


「しののんって呼び方、変えないといけないかな」


 彼女にとって東雲は自分を苦しめていた象徴だ。

 初めてあった時、私はそれを知らずに呼びやすくて可愛いからと言う理由で「しののん」と呼び始めた。

 しかし、東雲から解放されようと頑張っている彼女を知っている私は、このまま彼女を「しののん」と呼び続けていいのだろうか。


 もし変えるとしたら、なんて呼ぼう。

 敦那ちゃん?あっちゃん?敦那さん?

 駄目だ。ちゃん付けはイメージと違うし、さん付けは距離を感じてしまう。


「敦那......」


 うん、これが一番しっくりくる。


「敦那、ありがとうね」


 私の友達になってくれて。

 生きててくれて。

 頼ってくれて。


「いつか私の話も聞いてね」


 橋本 茉莉と言う人間がどれほど愚かでひどい人間なのかを。

 あなたが思う優しくて明るい私が偽りであるという事を。


 彼女は、まだ気持ちよさそうに寝ている。


「そろそろ起こしてあげないと」


 これ以上寝ると夜寝れなくなってしまう。


「敦那、起きて」


 軽く体を揺らしながら声をかける。


「ん......だれ?」


 眉をひそめながら回ってない口で反応する。

 身体を揺らすのを止めて、自分が誰か教える。


「茉莉だよ~」


「まつり......おはよう」


「おはよう。気持ちよさそうに寝てたね」


 寝起きの彼女はいつもと違って、柔らかい雰囲気だ。

 やはりどの人間も寝起きはギャップがある。


 かなり熟睡していたのだろう。

 まだ意識が覚醒しきっておらず、身体がふらふらと揺れている。


「まつり」


 私の名前を呼ぶ。

 いつもとは違う声色で彼女が私の名前を呼ぶたびに心臓が跳ねるような気分になる。


「.......どうしたの?」


「おかえりなさい」


「ただいまっ」

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