部屋
その後は東野が病室に戻って来て、医者からの話を教えてくれた。
明日、色々検査をして何も問題がなければ退院できるらしい。
もし必要ならカウンセリングの案内もできるとの事だったが、断るように伝えた。
橋本親子は時間が遅くなってきたので東野と入れ替わりで帰った。
明日、学校が終わる頃に私から連絡すると約束した。
二人になったタイミングで私は東野にある質問をする。
「東野、あなたは私が生まれる前から東雲の使用人として働いていた。そうよね?」
東野は私が物心がついた頃にはもう屋敷におり、5歳の時に私専属の使用人になった。
数年しか屋敷にいない人間を私の使用人に母がするわけない。
彼の年齢も考えると私が生まれる前から働いていることは明白だ。
「はい」
東野は短い言葉で肯定する。
「ならあなたは知ってるわよね、私の父親のこと」
そう、私が東野を必要とする理由であり、計画において重要な要素。
母の事だ、自分の結婚相手に何も持っていない人間を選ぶはずがない。
今まで密かに自分で調べていたが確信に至るような情報は見つからず、複数人の候補がいる状態になっている。
いずれも私を助けてくれるであろう人だ。
だから私はこの計画を立てた。
「教えて、私にはその情報が必要なの」
「わかりました。あなたのお父様という手札があればこの現状を変えてくれることでしょう」
「ありがとう」
「あなたの父親は________」
東野は私の父について教えてくれた。
結果は、私が予想していた中で最も可能性が高い人物だった。
以外だったのは私に2つ年の離れた姉がいたことだった。
「_____以上が、私が知っている事でございます」
「ありがとう、教えてくれて」
「いえいえ、もっと早くにお教えできていればよかったのですが......」
東野は暗い顔になる。
私が自殺をしようとしたことをかなり気にしているようだ。
もっと早くに自分が動いていればとでも考えているのだろう。
「自殺しようとした私が言うのもおかしな話だけど、あまり気にし過ぎないで」
「ですが、私がもっと早く動けていればこんなことには......」
「いいのよ、私は生きてるんだから。まだ人生を歩んで行けるのだから」
「そうですね。これからのことを考えましょうか」
東野の表情がいつもの穏やかさを取り戻す。
「もうひとつ聞きたいことがあって、私のスマホってどうなってるの?」
「敦那様のスマホは海水に浸かって使えなくなっていたので、こちらで処分をして新しいものを用意しています。明日にはお渡しできると思います」
あれのせいで位置情報が共有されて、場所がばれる可能性もあったので処分してくれたのはありがたい。
それに新しい物も用意してくれている。
「さすがは私の元使用人ね。ありがとう」
「無いと不自由かと思いまして」
スマホがあれば計画が大きく進む。
正確にはスマホのデータなのだが。
「聞きたいことはそれくらいよ。貴重な情報だったわ」
「それでは、私も帰りますね。これ以上いると敦那様の居場所がばれてしまいそうですから」
東野は椅子から立ち上がり、帰る支度を始める。
「明日は朝から来ますね。検査の結果も聞きたいので」
「東野、また明日。帰りには気を付けてね」
「はい、敦那様も安静にしておいてくださいね」
東野は部屋を出ていく。
完全に一人になると疲れが押し寄せてくる。
「疲れたわね」
目覚めて、話して、泣いて、話して。
大忙しだった。
お腹がきゅ~と鳴く。
「お腹がすいた」
優子さんがお菓子を買ってきてくれていたことを思い出し、ベッドの横にある机に置かれたビニール袋を手に取る。
中にはチョコパイと飴が入っていた。
チョコパイを手に取り、口に運ぶ。
「おいしい」
私は2日眠っていたらしい。
なのでこれは約3日ぶりの食事という事だ。
最初の食事がこれでいいのかは分からないが、お腹がすいていたのだから仕方ない。
4つ目に手を伸ばそうとしてやめる。
「食べ過ぎは良くないか」
このお菓子は何個も食べれてしまうのが良くない。
「眠いな......」
2日も眠っていたというのに睡魔が襲ってくる。
食べた後に眠くなるなんて赤ちゃんか、私は。
この病室には何もないし、やることもない。
ならばこの睡魔に身を任せて眠ってしまおう。
私は起こしていた身体を倒して目を閉じ、眠った。
次の日は朝8時に起きた。
起きて少しすると看護師が来て、検査についての説明を受けた。
検査が終わって一通りの結果が出ると、12時になっていた。
結果としては、痩せすぎているが身体に異常はないとの事だった。
痩せすぎなのは仕方ないとして、何もなくてよかった。
医者によると、迅速な救命活動があったから後遺症もないし生きている。助けてくれた人のおかげ、だそうだ。
やはり彼女には感謝しきれてもしきれない。
もう退院してもいいとの事だったので、手続きを東野にお願いした。
その間に私は患者衣から、あの日着ていた彼女に貰った服に着替える。
服を取りに行く事も出来ないのでこれを着るしかない。
この服の楽しくて嬉しかった思い出が苦しくて悲しい物に塗りつぶされてしまった。
こぶしに力が入る。
許せない。私の思い出を汚したあいつらのことが。
許さない。この怒りを力に私はあいつらに復讐する。
東野から貰った新しいスマホを取り出し、色々設定をする。
「よし、これでほしいデータは確保できた」
東野が病室に入ってくる。
「敦那様、手続きが終わりました」
「ありがとう」
結局病院の事は全部東野にやってもらった。
頼ってばかりではいけないという事は分かっているのだが、どうしても頼ってしまう。
東野が全部できてしまうのが悪い。
病院から出た後は近くのカフェで私一人で時間をつぶす。
東野には帰ってもらった。
サンドイッチとコーヒーを頼み、小腹を満たす。
「さて、これからどうしようかしら」
まずは住む場所の確保からだ。
とりあえず部屋を借りようにも即日には無理。
東野の家は見張られているし、ホテルに泊まるのもお金はあるが現実的じゃない。
色々調べていくと漫画喫茶と言うものがヒットした。
「個室でマンガ読み放題・PC使い放題。シャワーもあるのね」
値段もホテルに泊まるよりか安く済む。
部屋を契約するまでの間、ここで生活しよう。
サンドイッチを食べきり、カフェを出て漫画喫茶に向かう。
「難しいわね」
部屋は機械でコース等を選んでから案内されるらしい。
だいぶ手こずったが何とか案内された。
「すごいわね。ここ」
中は黒いマットが広がっており、靴を脱いでくつろげる。
PCを起動する。
「ちゃんと使えるのね」
最近の娯楽施設に関心する。
とりあえず学校が終わる時間まで暇なので、漫画を読む。
「あ、この漫画あるんだ」
気になっていた漫画があったのでそれを読み始める。
「そろそろかしら」
気が付くともう3時間ほどたっており、学校は終わっている時間帯だ。
スマホから彼女の番号に電話をかける。
番号は東野に教えてもらった。
「もしもし、敦那です」
向こうからは登録していない番号からかかってきていることになっているはずなので名乗る。
「あ!しののん?本当に連絡くれたんだ!」
「ええ、もう退院できたからそれを伝えようと思って」
「退院できたんだ!良かったね~」
「あなたのおかげよ、ありがとう」
「そんな、何回も言わなくていいって~」
この感謝は何回でも言わせてもらうわ。
「今から会う事ってできるかしら」
「もち!どこに行けばいい?」
「じゃあ、病院近くの快活HOUSEに来てくれないかしら」
「りょ~。10分くらいで着くと思うから待っててね~」
言っていた通り10分ほどで彼女が漫画喫茶に来る。
「ありがとうね。お金出してくれて」
「いいのよ。私が呼んだんだから」
彼女が来る前に2人分の料金に変更しておいた。
ここならだれの邪魔もされずに彼女と話すことができる。
「私、こういうとこ来るの初めてなんだよね~」
彼女も靴を脱いでマットにくつろぐ。
「2人だと狭いわね」
1人だと広く感じたが、2人だと流石に狭く感じてしまう。
「ね~」
彼女との距離が今まで以上に近くなる。
目の前に彼女の顔が来る。
まつ毛の長さや目の大きさ、唇の艶がよく分かる。
良い匂いもする。
「しののん?」
「っ。ごめんなさい」
私は彼女に見惚れていたのに気が付いて顔をそらしてしまう。
「?まあいいけど」
「ていうか、しののんこれからどうするの?」
「どうするってのは?」
「衣食住だよ!だって東野さんのところには住めないし、家には帰れないし」
「それはどうにかするわ。とりあえずはここで生活しようかしら」
「え?しののんそれ本当に言ってるの?」
彼女がありえないというような顔で私を見てくる。
「ええ、部屋が契約できるまでの間だけどね。できたら一人暮らしのスタート...きゃぁっ!」
彼女に肩をつかまれ変な声が出てしまう。
「しののん、私の家に来て」
「いや、さすがにそれは......」
「いいから!こんなとこに女の子一人で何日もいさせられないよ!」
彼女は真剣な表情で私を説得させてくる。
「でも、優子さんに許可貰ってないじゃない......」
「ママだって良いっていうよ!それに、しののんの一人暮らしなんて絶対に無理だよ!」
失礼なことを言われた気がする。
「「............」」
無言の時間が続く。
彼女は私の方をじっと見続けてくる。
私は気まずくなって顔をそらしてしまう。
「しののん、お願い。これ以上しののんに危ない目にあってほしくないの」
彼女は私の肩から手を放し、弱弱しい声になる。
「ぐっ......」
そう言われると私は何も言い返せない。
「分かった......あなたの家に住まわせてもらうわ」
流石にここまで言わせて断れるわけなく、彼女の提案を受け入れる。
「ほんと!?じゃあ、今から帰ろ~!」
さっきまでの態度とは一変して元気になる。
「もしかして、さっきのは演技?」
「いや~何のことかな~本心だよ~」
私の言葉に顔を背けて棒読み気味にそう答える。
やられた。
「私の目を見て会話して」
「はいはい、早く行くよ~」
「あっちょっと」
彼女に手を取られて部屋から出る。
顔を見られるわけにはいかないのでタクシーを呼び、彼女の家に行く。
「ママも良いって~」
彼女はLONEの画面を見せてくれる。
『しののん、家に住まわせていい?』
『家ないんだって』
『いいわよ』
一つ返事で了承していた。
それで良いのか?
娘の友達をそんなに簡単に住まわせて良いのか?
確かに助けを求めて良いと言ってくれたけど良いのか?
彼女たちの器の広さに驚くと同時に感謝でしかない。
「ありがとう」
「いいよ~」
彼女のマンションに着く。
彼女のマンションは女性専用物件と言う物らしく、女性しか住んでいない。
防犯設備も十分にされており、女性が住むには安心できるマンションになっている。
「ここが私の家で~す」
彼女がドアを開ける。
「お邪魔します」
「違うでしょ、しののん」
「え?」
何か間違っていたのだろうか。
分からない。
「『ただいま』でしょ」
そうか、今日からここは私の家なんだ。
「ただいま」
私は部屋に踏みいれる。
「おかえり!」




