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冬花祭


「おはようございます、護」


 いつもの早朝ランニングのために正門に行くと、今一番会いたくない王人に会ってしまった。


「あ、ああ。おはよう」


 王人はいつもと同じくニコニコ可愛らしい笑みを浮かべている。これが一年生にして桜花序列第三位なのだから世界はバグっている。


 そもそも第一位からしてギャルだからな。


「僕の顔に何か付いてますか?」


「いや、今日も可愛いなと思って」


「護がそんな冗談を言うなんて珍しいですね」


 しまった、何を言っていいか分からなくてつい本音が漏れてしまった。


 クスクスと笑う王人は本当に可愛らしい。


 昨日鬼灯先生から聞いた言葉を思い出した。


『剣崎祇遠は剣崎家の嫡子だった男です。剣崎君から見れば年の離れた兄ですね。どんな関係だったかまでは分かりませんが、くれぐれも言葉には気を付けてください』


 王人の兄か。


 友達の兄弟に命を狙われるなんて、何の因果なんだろうな。


「次の期末試験は合宿の時みたいな模擬戦がいいですね。雲仙先輩、ランク3、きっと今の護は前よりもっともっと強くなっているはずですから、楽しみです」


 可愛らしい顔のまま、どこか恍惚とした表情で王人が言った。


 これあれだな。兄にも弟にも狙われているパターンかもしれない。


 とりあえず王人は何も知らなさそうで良かった。


 俺たちは一緒にランニングを走り切り、教室に戻った。




     ◇ ◇ ◇



「おはようございます皆さん。今日は皆さんに一つお知らせがあります」


 いつも通りの教室、そこで善ちゃん先生がそう言った。


 あれで騎士団(クインオーダー)とかいうヤバそうな人たちの一人というのが、未だに信じられない。半年以上一緒にいて、戦っているイメージが一切浮かばない。


 いや、騎士団(クインオーダー)が全員戦闘員なのかどうかさえ知らないけれども。騎士団っていうくらいだから、きっと強いんだろう。


 今度本気で鍛錬してもらえないかなーと思っていたら、善ちゃん先生が思いがけないことを言った。


「十二月二十五日、終業式の日に冬花祭(とうかさい)が行われます」


 言い終わるより前に、教室からわっと歓声が上がった。


 なんだなんだ。


 話についていけないので、隣で気怠そうに前を眺めている幼馴染に声を掛ける。


「なあ紡、冬花祭ってなんだ?」

「‥‥呆れた。もう半年以上いるのに知らないの?」


「そういえば前に村正がなんか言ってたような言ってないような」


「‥‥もう少しきちんと話聞いてあげたら」


 いや、その瞬間は聞いてたんだけど、興味ないとすぐに忘れちゃうんだよ。


 脳のキャパシティが狭いのか、鬼灯先生の拳骨で消滅しているのかは絶妙なラインだ。


「多分説明がある」


 紡の言葉通り、歓声が落ち着いたのを見計らって善ちゃん先生が口を開いた。


「知っている人も多いかもしれませんが、冬花祭は学内、学外の人間が一堂に会する立食パーティーです。守衛魔法師(ガード)は人を守るだけではなく、人々の希望の象徴。支援してくださる方々と親交を深めるのも大切な仕事です」


 へー、そんなのがあるんだ。


 立食パーティーっていうとあれか、テーブルにサンドイッチとか並べて食べるやつ。


「もしかして、体育館でサンドイッチにジュースでパーティーとか考えてない?」


「違うのか?」


「‥‥はぁ」


 紡は駄目だこいつ、と言わんばかりの深いため息を吐いた。


「冬花祭はフォーマルなパーティーよ。政府の人や企業の方が多く参加する。二、三年生にとっては重要なコネクション作りの場、私たち一年生にとってはお披露目の場になるわけ」


守衛魔法師(ガード)って公務員だろ、なんでそんなパーティーがあるんだよ」


世界改革(ワールドエンド)が起きた時、国を守る守衛魔法師(ガード)の育成が急務だった。国だけじゃなくて多数の企業が協賛になって魔法(マギ)武機(マキナ)怪物(モンスター)の研究が進んだの。冬花祭はその名残」


「なるほど、歴史のある祭りなんだな」


 そりゃサンドイッチじゃ駄目か。


「それともう一つ特徴が――」


「冬花祭では、共にパーティーに出るパートナーが必要なんです」


 うお、びっくりした。


 善ちゃん先生が俺たちのすぐ近くにいた。


「パートナーですか?」


「はい。これは理事長のこだわりですね。基本的には男女のペアでパーティーに参加をします」


「でも守衛科って基本的に男子の方が多くなかったでしたっけ?」


 その場合どうなるの? もしかして男同士で参加という体育で先生とペアを組むより辛い状況になるのだろうか。


「安心してください。パートナーは開発科や普通科の人も参加できますから。皆さんも期日までにパートナーをきちんと決めてくださいね」


 へー、そうなんだ。


 ただ善ちゃん先生は分かっていない。人数が足りるからと言ったって、相手が見つかるわけではないのだ。


 ホムラ‥‥ホムラさえいればなんの問題もなかったというのに。


 女子をパーティーに誘うなんてハードルが高すぎる。


 他に俺が誘えそうな女子といえば、


「‥‥なに」


 紡が心底不機嫌そうに俺を睨んでいた。


 そうだよな。そんな幼馴染だから一緒に行ってくれそうなんて理由で頼むのはいくらなんでも失礼すぎる。


 紡と一緒なら気遣わなくて楽なんだけどな‥‥。


 まあ仕方ない。そもそも刺客に狙われている現状、冬花祭に無事参加できるかどうかさえ怪しいのだ。


 最悪の場合は王人にスカートをはいてもらえば何の問題もないしな。


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