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「まさか、ロジ・マジ自ら登場されるとはね」
魔道王国ドルクロス。
霧に包まれた湖の中に立つ「ゾーンの塔」の一室が、魔道大公ノルンの居所である。
薄暗い部屋に座る、麗しき大公の前には、老魔道士ギリウスの映像が浮かんでいる。
「これはまことに予想外でしたな。いや、かの温泉魔導師はすでに入滅したか、あるいは異界にでも居を移したものと思われてましたからな」
「まったく。最近の北方はにぎやかすぎだよ」
三大公のうち、北方を統括しているのが、ノルンなのである。
「それで…どうされます??ヒース達への指示に変更を与えますか」
「そうだね、今はまだ待機かな。ロジ・マジが雪妖を滅してくれるならそれでよし。もし動くとしたら、ロジ・マジが敗れた時だね」
「温泉魔導師どのが敗れたとしても、雪妖めは相当消耗しているはずですからな、そこでヒース達に総攻撃をかけさせると」
「ご名答。さすが北の筆頭魔道士」
「これは、おたわむれを」
ギリウスの言葉に目を細め微笑していたノルンだったが、何か面倒事を思い出したように顔を曇らせた。
「ロジ・マジが残ったとしたら、面倒な事になるね」
「さよう、我が国に属さない大魔導師クラスの魔術師が突如現れたわけですからな。我らが何らかの動きを見せぬわけにはまいりますまい」
「数百年かけて築いてきた秩序が台無しってわけかい」
ノルンは幾分おどけた様子で首を振る。
「冗談にはなりませんぞ。前例に従い、独立した大魔導師は配下とするか、あるいはー」
「駆逐しなければいけない。わかってるよ」
「ならば結構です」
「ま、とりあえずは、三百年越しの戦いの行く末を見せてもらうとしよう」
ノルンが右手で軽く空をなでると、そこにニーゲルンの映像が浮かび上がる。
「雪で視界が悪いな……ああ、せっかくだからヒースへの指示は私が直接だそうかな」
「かしこまりました」
映像の中では、ヴィシュメイガが街の中心の建物に近づいていた。




