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それから二日後の昼下がり、ブランはアリッサの居室を訪ねていた。
いくら行事前といっても、何とか時間をとろうとすれば、アリッサと話をする時間はとれたのである。
今まで忙しい事を言い訳にしてきていたが、実際は自分の気持ちの問題だったのだということに今更ながら気づくブランであった。
色々思い悩んではみたが、結局ブランが思い至ったのは「正直にあやまる」ことであり、それが最もも彼らしい選択であると言えただろう。
コンコン
居室のドアをノックすると、中から返事があったので、ブランはそのまま室内へと入った。
「おお!!ブラン君、久しぶりですな」
ブランが驚いたことに、部屋にいたのはアリッサ一人ではなかった。
彼女に向かい合って二人の男が座っており、ブランはそのどちらにも見覚えがあった。
ブランに声をかけたのは、茶色のローブを着たでっぷりとした中年男で、頭頂部に球根のような毛が申し訳程度に生え、鼻の下にはちょびヒゲという、なかなかにユニークな面相の持ち主である。
「お久しぶりです、ハートストンさん」
ブランにそう返されると、フィン評議会付き魔道士であるハートストンは、手布で額を拭い愛想よく微笑んだ。寒い季節でも汗かきの体質は変わらぬようだ。
「はじめまして、あなたがブラン君ですか。この後、挨拶とお礼に伺うつもりだったのですが、ちょうどよかった」
すると今度は、もう一方の人物が椅子から立ち上がりブランの方に近づいて来た。
茶色のサラサラとした髪に、貴公子のような美しい顔立ちの青年は、いかにも政治に携わるものが着ているような黒の礼服に身を固めていた。
「レイモンド・ウォルターです」
「あ、はじめまして。介護士のブランです」
手を伸ばしてきたレイモンドと握手をしたブランは、やや緊張した面持ちで挨拶をした。
レイモンド・ウォルター…フィン評議会の実力者であるウォルター副議長の息子であり、現在は副議長の秘書を務めている人物である。将来は政治家としても期待されており、フィン国内ではそれなりに名の通った若者だ。
以前、レイモンドが、ウォルターの女秘書と闇魔術師のたくらみによって誘拐された際、その解決に力を貸したのがアリッサと、まあ一応ブランであった。
ブランの挨拶が、レイモンドの顔を知っていたにも関わらず「はじめまして」になるのは、彼らが初体面の時、レイモンドは闇魔術師の「時を止める魔法」により、凍りついた状態であったためであり、レイモンドからすれば、ブランには会うのも話すのも初めとなるのであった。




