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ここで、時を少しさかのぼってみる。


ブラン達が、湯〜ゲルンに逃げ込んだちょうどその頃…


「うう……くそっ!!」


ニーゲルン村長のガロンは、とある部屋の片隅で悪態をついていた。


ヴィシュメイガのもとから逃げ出したガロンは、ニーゲルン中心街の一角にあるルテラ教の教会に避難し、ひとまずの安全を確保することに成功したのだ。


礼拝堂は、逃げ込んだ人々でごった返していたため、彼は村長という立場を利用し、なかば無理やりに奥の一室を自分用に占拠してしまった。


扉の外には、傭兵のドースを立たせ見張らせているが、もう一人の傭兵、ダインは、すでにこの世にいない。


ここまで来る途中で氷狼に襲われた際、彼に最初の攻撃が加えられたのをいいことに、囮として見殺しにしてきたのだ。


「……なぜ!!なぜ俺がこんな目に!!!」


ブラン達に対した時とは全く違う口調で、彼は憤った。


「いつもだ!!いつも、あと少しというところで邪魔が入るんだ!!」


そう言うと、彼は部屋に置かれていた椅子を蹴りつけた。


木製の椅子はバキッと乾いた悲鳴をあげると、その足を折られ床に転がった。


「くそ、このままでは、俺の夢が…」


彼には夢があった。


ニーゲルンを、この大陸最大の歓楽都市として発展させ、そこの帝王となる、という夢が。


そのために、好きでもない長老の娘とも結婚したし、まったく尊敬できない土地の古老達にもペコペコ頭を下げた。


「これが……リリーヌを殺った呪いだとでもいうのか」


リリーヌとは、ニコライ老の娘であり、ミミの話に出てきた、彼女の母親である。


つまるところ、2年前にガロンは、人を雇い、おのれの妻を事故死に見せかけて殺害したのだ。


理由は簡潔であった。

リリーヌが、ガロンの「夢」ともう一つの顔に気づき、激しくとがめだてしたからである。


その時点でガロンは、まだニーゲルンを完全に掌握していたわけではなく、彼女の口からニコライや長老会に、彼のたくらみが伝えられるのは、非常によろしくなかったのだ。


「くそっ!!」


しかし、肝心のニーゲルンが、雪と妖魔の版図となった今、彼のその人間性を捨ててまでの涙ぐましい努力は、すべて水泡に帰してしまったのである。


と、その時である……



ガシャァァァァン!!!



「な!?……ひっ!!」


ガロンが悲鳴を上げる間もなく、何か黒い塊が、窓のステンドグラスを突き破り部屋に飛び込んで来た!!


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