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「なんだいこりゃ」
部屋に入って最初に上がったのは、メディナの気の抜けた声だった。
それもそのはずで、部屋の中央には、湯気がもうもうとあがる温泉があったのだ。
壁に空いた穴の下に「とい」のようなものが設けられ、そこからお湯がチョロチョロと湯船へ流れこんでいた。
床と壁は石のタイルで埋められ、部屋の隅には、木の棚が並び、その中にはガラス製の瓶が並んでいる。
部屋の天井には、半球型の半透明なガラスが取り付けられ、内側から鈍い光を放っており、これが三百年間、ずっとこの部屋を照らしていたのだとすれば、魔道の力による手妻なのかもしれない。
「なんだかねぇ。もうちょっと冒険小説のような展開を期待したんだけどさ」
メディナの元も子もないつぶやきが部屋に響く。
「まあよいではないか。ワシがここでひとっ風呂浴びとる間に、お前たちが手がかりを探せばよい!!」
ガンダルガの冗談とも本気ともとれない発言にアリッサがすぐに反応する。
「そりゃいいや。ブラン、介助してやんな」
「何をアリババ!!わしゃまだ一人で入れるわい!!」
「ちょっと、二人ともこんなとこまで来てケンカは……ああ!!」
仲裁に入ろうとしたブランだが、湯気でメガネが曇り始めたため、動くに動けなくなってしまう。
ボロロン…
ゴタゴタした空気の間を縫って、美しい竪琴の音が部屋に鳴り響く。
一同がそちらを振り返ると、フェルナンドが、入ってきた扉を指差していた。
裏側も赤く染められた扉には、何やら見慣れぬ文字が刻み込まれていた。
「これは……うぐっ」
文字に顔を近づけたブランを雑に押しのけて、アリッサがそれをにらみつける。
「ふん、魔道文字の類じゃないようだね……フェルナンド、読めるかい」
アリッサに呼ばれた老詩人は、改めて文字を見つめると、コクリと頷き、節をつけて読み始めた。
「赤き鍵、第一の鍵。ロジ・マジがこの地にもたらした、最初の温泉を守る鍵」
「ふむ……これは、おそらく伝承の原文。三百年の間に色々と言い換えられたようだが……何はともあれ、この温泉が、ニーゲルンの温泉第一号のようだな」
「へぇぇ」
ポッテヌの言葉に、ブランが思わず感嘆の声を上げる。
「もし、ロジ・マジがこの地に温泉をもたらさなければ、ニーゲルンは、今でもただのうら寂しい寒村だったのかもしれない」
ポッテヌが歴史のロマンに思いをはせてる背後では、アリッサが現状への不満から悪態をついていた。
「ったく……答えがわかってから答え合わせをさせられても、しかたがないねぇ」
「とりあえず、この部屋を調べてみますか??何か次の鍵を使う手がかりがあるかもしれませんし…」
ブランがおずおずと提案すると、それまでのやりとりに痺れを切らしたガンダルガが、温泉のへりに片足をのせ、大声を出す。
「ようし!!それでは皆は、早速部屋の探索をするんじゃ!!とにかくわしは、風呂へ入るからーおおっ!?」
ガンダルガのわがまま宣言が終わらぬうちに、アリッサが指を鳴らすと、彼の足元に何らかの力が加わったようで、彼は派手に体をのけぞらせると、湯船の中へ見事に落っこちた。
ドッボ〜〜ン!!!!!
「ちょっ!!アリッサさん、なんて事するんですか!!」
いつもの事ながら、ブランが悲鳴を上げる。
「いいじゃなかいか、希望をかなえてやったんだから。あたしゃ、じじいの裸見ながら探索作業するのなんざごめんだよ」
「そういう問題じゃないでしょ!!最近の調査だと、お年寄りの死因で、入浴時の転倒ってのが増えてるんですよ。何も風呂場で転倒させなくても!!」
「ハッ、あんなんであのじじいがくたばるわけないだろうが」
二人の水かけ論に、水をさしたのは、メディナのつぶやきだった。
「………上がってこないね。ガンダルガさん」




