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「はいはい、失礼いたしますよ」


腰をおろし、湯〜ゲルンの玄関ロビーで息を切らせているアリッサ達の脇を、黒いフードとマントを身につけた若者が通り抜けていった。


若者は、玄関の扉に護符のようなものをペタリと貼りつけると、それに手をあて何やらブツブツと呪句を唱え始めた。


「よし、これでひとまずは大丈夫…と」


その明らかに魔術師風の若者は、もと来た方へとスタスタと歩いていってしまった。


「あいつは?」


アリッサが、近くにいたポッテヌにたずねる。


「ああ、彼はキャト君。ロクス大学で魔道サークルの会長をやってるそうだよ」


「大学生ですか」


ブランが思わず声をあげる。


「ああ。サークルの卒業旅行でここに来たようだね。いや、彼らがいてくれて実に助かった」


ポッテヌの話では、街に氷狼達が現れるという異常事態になったため、現在、湯〜ゲルンのロビーは、観光客達の緊急の避難所になっているのだという。


そう言われて改めてロビーを見回すと、ゆうに百人をこえる人々が、不安そうに各々の属する集団に分かれ、たたずんでいた。


「おじいちゃん!!」


突然ミミが大声をあげた。

ソファーに横たわり毛布をかけられたニコライ老を発見したのだ。

老人のまわりには使用人らしきもの達が数人立っている。


ミミの祖父が無事だったことに胸をなで下ろしたブランは、自分の同行者達の安否をポッテヌにたずねた。


「あの、他のみなさんは??」


「ここにいるよ。メディナさんとフリント君、それにフェルナンドは二階で怪我人の手当てを、ツアコンの彼は、喫煙所じゃないかな」


ひとまず、皆が無事であることがわかり、ブランは胸をなで下ろした。


ポッテヌの話によると、近くの施設で陶芸体験をする予定だったネルガと太陽の家の面々は、湯〜ゲルンの玄関を出た途端に氷狼と遭遇したという。


その時は、ガンダルガが自慢の大剣をふるい、事もなく氷狼を壁に叩きつけ粉々にしたようだが、街の中心に妖魔が出現するという異常事態であることには変わりなかったので、ひとまず湯〜ゲルンに戻り様子を見ることになったのだという。


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