38
「そ、そんな!!…まさか…」
ガタガタとあごをふるわせながら、ガロンが恐怖に満ちた声を上げる。
『そこの魔女』
ガロンや労働者たちの悲鳴には全く反応を見せぬまま、雪妖はアリッサの方に顔を向けた。
声とも思念ともつかぬ彼女の言葉は、ブランの耳と頭の中でキンキンと不快に鳴り響いた。
『ロジ・マジはどこにいる?』
「さあね、とっくにくたばっちまったんじゃないのかねぇ」
『…………』
「それから、あたしは魔女じゃなくて魔法使いだ。そこんとこ間違えないようにね」
古代の妖魔が相手でも、自分のこだわりにはしっかりと文句をつけるアリッサに、ブランは半ばあきれ半ば感心してしまう。
『……まあよい』
ヴィシュメイガは、その話題に興味を失ったかのようにすこし高い位置に浮かび上がった。
『これより北の地は、すべて我が版図となる。人間どもよ、凍てつく恐怖にせいぜい泣きわめくがよい』
「ド、ドース、ダイン!!何とか奴を―」
「やめときな!!」
傭兵達にヴィシュメイガへの攻撃を命じようとしたガロンを、アリッサが鋭く制する。
「ケンカは相手を見てから売るもんだよ。とっととあの世に行きたいってんなら話は別だが」
しかし、二人の傭兵達は、アリッサの忠告を聞くまでもなく、すでに戦意を完全に喪失しており、棒立ちになったまま膝を震わせていた。
『まずは忌まわしきこの地に、制裁を加えねばならぬか…』
雪妖がニヤリと不敵な笑みを浮かべた直後、うねうねとさまよっていた彼女の髪は、一瞬にしてハリネズミの様に鋭く尖り膨れ上がった。
「さて、どう出てくる気だい」
ブランの隣でアリッサが、いまいましげにつぶやく。
『さあ、楽しんでくるがよい!!』
「ああっ!!」
その時、ヴィシュメイガの髪は、無数の毛針となり、ありとあらゆる方角へと鋭く照射された!!




