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「う〜ん」


ブランは思わず、苦い顔になってしまった。

ミミの気持ちはわかるが、彼女を一人であの場所に行かせるのは、危険な気がしてならなかった。


無論、実の親子であるし、ミミに何らかの危害が加えられることはないと思うのだが、夕方に会ったガロン村長やその取り巻き達からうけた「嫌な感じ」が、彼をどうしても不安にさせていた。


アリッサのように、魔力によって邪悪な存在を感知することはできないが、今回、彼が感じたそれは、いわば「福祉職の直感」から来るもので、裏づけこそなかったが、妙に自分の中で説得力があった。


「よし」


ブランは、ひとつ頷くと、ミミの方に顔をあげた。


「ミミちゃん、明日は僕も一緒についていくよ」


「ええっ!?」


「おじいさんに無理をさせるのはよくないからね。だからって、一人で行くのは不安でしょ??」


「そんな!!……これ以上迷惑をかけるわけにはいきません。皆さんには温泉を楽しんでもらわないと」


それを聞いたブランの口から、自分でも思いがけない言葉が出てきた。


「それなら大丈夫。温泉よりも、もめ事の方が大好きな人がいるから」


「え?」


「その人も一緒に連れて行くよ。きっと強い味方になってくれるんじゃ……ないかな??まあ、かなり怖い賭けになっちゃうかもしれないけど」


「ええっ??」


ブランの思いつきは、いわば火種のある所に火薬を持っていくようなものなのだが、何故か彼には、今回それが必要であるように思えていた。


「さ、今日は遅いからもう帰りな。ああ、明日の工事はどれくらいに始まるの??」


「はい、えっと、九時には始まると…」


「わかった、じゃあ八時半に森の入り口で待ち合わせしよう」


「あの、でもー」



ボロロン…



尚もミミが、食い下がろうとした時、フェルナンドの竪琴がまるで少女を安心させるかのように鳴らされた。


「大丈夫、お行きなさい」


久しぶりに口を開いたフェルナンドの声には、やはり朗々とした美しさがあった。


老詩人に笑顔で諭されたミミは、一瞬、どうしたものかと迷った様子を見せたが、「それじゃあ……よろしくお願いします」と頭を下げると、337号室を後にした。


「あ、何かありがとうございます」


ブランに礼を言われたフェルナンドは、例によって返事代わりに竪琴をかき鳴らした。


「…そろそろ食事に行きましょうか。この時間に来ないってことは、ガンダルガさん達は、直接415号室に向かったんでしょう」


老詩人に声をかけたブランは、不意に先ほどのミミとの約束が、明日のネルガとの集合時間に丸かぶりであることに気づいたが、そのことで悩むのはひとまず止め、夕食へ向かうことにした。


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