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部屋に入り、ブランの向かいのテーブルに座ったミミは、ポツリ、ポツリとニーゲルンと彼女の家族が抱えている問題について話し始めた。

窓際では、相変わらずフェルナンドが空気のようにたたずんでいる。


おとなしい性質である上に、何を言うにもまだ子どもである彼女の話は、筋道がしっかりとしない部分もあったが、ブランは辛抱強くその話に耳を傾けた。


元々ニーゲルンには、村議会ができるはるか以前から「長老会」と呼ばれる政治的な組織があったようだ。

土地の長老達により構成されるその会の意向には、村議会といえども従わなければならないという暗黙の了解ができていたという。


長老達の頭であるニコライの家に婿入りしたガロンは、その才を買われ、ニーゲルンの村長を任されるまでになった。

その頃は、長老会と村議会の関係もすこぶる良好で、様々な観光事業が企画され、街をにぎわせていた。


しかし、2年前にミミの母親……つまりはニコライの娘でありガロンの妻でもあった女性が事故死して以来、ニーゲルンを代表する二人の男の関係は、急速に悪化していった。


ガロンは、村議会を自分に従う者たちで固めると、長老会に対立する姿勢を見せ始め、歓楽街の拡張や巨大カジノの建設、収入の少ない史跡の廃棄など、長老会としては許し難い計画を次々と押しすすめていったようだ。


ガロンの裏切りに激怒したニコライ老だったが、間もなく体調を崩し、ミミの助けなしでは、満足に外も歩けなくなるとともに、頭を失った長老会は力をなくしていった。


父親は家に帰って来なくなり、彼への憤怒と亡き娘への悲しみを交互に繰り返す祖父を看護する毎日は、ミミにとって相当辛いものだったようだ。


「だけど、やっぱりお父さんのやり方はおかしいと思うんです」


この発言をする時だけ、ミミの口調は、きっぱりとしたものになった。


「うん…確かにそうだね」


先進的な国家であるフィンに暮らすブランにしてみれば、公的な議会の他に「長老会」などという古くさい組織が幅をきかせていた事自体に疑問を感じないわけではない。

しかし、それを差し引いても、ガロン村長のやり方は、あまりに独裁的であるように感じられた。


「それに……あの森とほこらは、私にとって大切な……場所だから…」


幼い頃にミミは、毎日のように「ロジ・マジのほこら」へ母と出かけ、森の中で遊んでいたという。

おそらく彼女にとっては、亡き母との思い出が残る場所なのだろう。


「大切な場所」という言葉を聞き、ブランはふと、自分が小さい頃に過ごした施設の事を思い出していた。

暖かい日差しの中で走り回る、まだ幼い自分と三人の子ども達……


「ブランさん??」


ミミに声をかけられ、追憶の世界から呼び戻されたブランは、思わず目をしばたたかせた。


「う、うん」


「ブランさんに話せたおかげで決心がつきました。……私、明日ほこらに行って……父にもう一度、工事をやめてもらえるよう……説得してみます」


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