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「お初にお目にかかります。モラリス社のネルガと申します」
ニーゲルン村長の差し出した手を握り返したのは、ネルガであった。
「モラリス社……ではやはり観光で。今日到着されたのですか??」
「ええ、先ほどこちらに着いたばかりです。このほこらを見学してから『湯〜ゲルン』に向かうつもりだったのですが…」
そこまで言ってネルガが言葉を濁すと、すかさずガロン村長は大仰に頭を下げた。
「いや、誠に申し訳ない。ほこらのとり壊し工事が前倒しになった件についてはあらかじめ観光各社に通達を出しておいたのですが……何ぶん急な事だったので、伝わりきらなかったようだ」
そう言って頭を上げたガロンは、申し訳なさそうに一同を見回した。
「このほこら、壊してしまうんですかな?」
ポッテヌが残念そうな表情でガロンに問いかける。
馬車の中で、行商人を引退してからは、各地の史跡を訪ね歩くのが趣味になったとポッテヌが話していたのをブランは思い出した。
「ええ。もはやここを訪れる観光客もほとんどおりませんし、これだけの土地を遊ばせておくのは実にもったいないのでね。もし、皆さんが来るのが半年遅ければ、ここに建つ巨大カジノで遊んでいただく事ができたのですが」
そう言うとガロンは、自分の言った冗談が面白かったのか、豪快な笑い声をたてた。
人ごみも賭け事も苦手なブランにとっては、何故わざわざ静かな名所をつぶしてまでカジノをつくるのか理解できないものがあったし、目の前で笑っている油ぎった中年男性をあまり好きにはなれなかった。
「まあ、ほこらの中の『ロジ・マジ像』は、湯〜ゲルンの展示室にでも移そうかと思いますがね。その方がロジ・マジにとっても幸せでしょう。まあ、私に言わせれば、ロジ・マジなどというのはあくまで物語の中の人物で、実在したとは到底思えませんが」
ブランはアリッサの方に目をやった。
いつもの彼女ならば、このような物言いをする男には、容赦なく皮肉を浴びせるか、魔法攻撃を浴びせるはずである。
しかし、今日の彼女はどうしたことか、ムッスリとはしているものの、何やら神妙な表情のまま沈黙を保っていた。
むしろ、彼女の後ろにいるメディナの方が苦虫を噛みつぶしたような顔で、何やらガロン村長に一言いいたそうであった。
「しかし、このような言い方をしては失礼かもしれませんが、皆様はある意味、幸運だといえますぞ」
「と、いいますと?」
ポッテヌに問い返されたガロンは、両手を広げニヤリと笑ってみせた。
「おそらくは、あなた方がここを観光する最後のお客様となるでしょう。これは、帰ってからの話の種になるんじゃないですか??」
「そりゃつまり、明日にはここを壊しちまうってことかい??」
メディナが、不満げな表情のまま村長にたずねる。
「まさしくその通り!!」
ガロン村長は、むしろ誇らしそうにその疑問に答えてみせた。




