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ニーゲルンの里の中心には「湯〜ゲルン」と呼ばれる巨大な温泉施設がある。
鮮やかな緑色のレンガで外装され、庭園に囲まれた五階建ての建造物で、その大きさは、ちょっとした小国の王城をしのぐほどである。
あちこちから煙突が突き出し、もうもうと煙が立ち上っているところが、この建物が決して王城などではなく温泉施設であることを証拠づけていた。
この「湯〜ゲルン」を円形にとり囲むようにニーゲルンの街は展開しており、そこに立ち並ぶのはサービス業の店舗がほとんどである。飲食街、歓楽街、屋台村、お土産村などがブロックごとにひしめいており、「湯〜ゲルン」から放射状に伸びた道によって、それらは比較的しっかりと区画分けされていた。
ニーゲルンの中心街に到達した『太陽の家』一行は、そのように伸びた道の一本から脇に入り、屋台村のはずれにある小さな森の前に馬車を停めていた。
どこもかしこも、にぎやかな人だかりで埋め尽くされているニーゲルンの中心街において、この一角だけは、開発から取り残されたように閑静な森がたたずんでおり、一本の砂利道がその中へと続いていた。
馬車からおりた六人…ブラン、アリッサ、ネルガ、ポッテヌ、フェルナンド、メディナらは、これからこの林の中にあるという「ロジ・マジのほこら」に向かう予定であった。
ちなみに老戦士のガンダルガはというと、早朝にベルの街で馬車に乗る際「ニーゲルンの宿に着くまでは決して起こさないように」と言い、出発早々さっそく高いびきをかきはじめ、馬車の激しい揺れに目を覚ますこともなく、ここまで眠りこけていた。
ガンダルガの担当であり、このような史跡にもあまり興味のないフリントも、馬車の中に残ることとなった。
メリメリメリ…
「何だろう??この音…」
「この先 ロジ・マジのほこら」と書かれた標識の脇を通り、砂利道を進んでいたブランは、思わず足を止めた。他の者たちも同じように怪訝な顔をしている。
どうやら木が倒されている音のようだが、あまり気持ちのいいものではない。
そしてその音は、彼らの進むべき方向から聞こえてきていた。
「あ、アリッサさん!!」
一同が立ち止まる中、アリッサだけは相変わらずのふてぶてしい表情のまま足も止めず、そのままスタスタと先に進んで行ってしまった。
「ちょっ!!待ってくださいよ〜」
あわててブランは彼女の後を小走りで追いかけていった。




