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「おおっ、すげぇ」
窓の外を見ながらフリントが感嘆の声をあげる。
それもそのはずだ、そこに広がる光景は今までのロクス王国のそれとは一変していた。
「なんだか魔法にでもかけられたみたいだねぇ」
メディナが、何とも言えない面持ちで馬車の窓を開けると、外から気持ちのよい風が車内に吹きこんできた。
もはや、雪と枯れ草のまだら模様はどこにもなく、辺り一面には青々と草が生い茂り、様々な野草が花を咲かせていた。
まるで、季節が冬から春へと一瞬で変わってしまったかのようである。
「本来、北方の盆地というのは冷え込みが厳しいのですが、ここニーゲルンは、地熱の力で温暖な気候を保っているのです」
ネルガの解説を聞いているブランの隣では、アリッサが何やら面白くなさそうに鼻をならしていた。
どうやら、彼の説明に納得できないところがあるようだ。
「皆さま!!右手をご覧ください!!」
そんなアリッサの様子に気づくことなく、ネルガは馬車の右側を手でさし示した。
里を取り囲む山肌の一部が崖のようになっており、そこに巨大な扉が張りついているのが見える。
金属製とおぼしきその扉は、三階建ての家屋ほどの高さでそびえ立っており、その周辺には、無数の石柱が地面から突き出していた。
「あれが、先ほどの逸話に登場した『ユガルタの迷宮』です。三百年前にヴィシュメイガが封じられて以来、その扉は閉ざされたままと言われています」
三百年もの間、開くことのなかった扉の向こうには、一体どのような闇の世界が広がっているのか……そのような事を考え、ブランは思わず身震いをした。
「この後みなさまには、ニーゲルンの中心街に入っていただき、『ロジ・マジのほこら』を観光したのち、夕方には宿に到着となります」
「おお、見えてきた。久しぶりですなぁ」
外をのぞいていたポッテヌの言葉を聞き、ブランは同じように馬車の窓から前方に目を向けてみた。
両脇の景色の変化にばかり目を奪われていたが、彼らの正面にはすでに、にぎやかなニーゲルンの温泉街が迫りつつあった。




