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馬車での旅は極めて順調であった。


ブランたち一行は、フィン共和国を縦にはしる街道に沿って北上し、4日目には無事国境を越えロクス王国へとたどり着いた。


ロクスは、フィンの北東に位置する、農業・畜産業を主とする国家で、国王ロクシーヌ二世による穏健な統治が行われている。

現在、フィンとロクスの関係は極めて良好で、官民を問わず物的・人的交流が盛んに行われており、国境を越える時も、あらかじめ施設が用意した旅行者用の通行証を見せるだけでなんなく通過することができたのであった。


ロクス国境の街、ベルでさらに一泊をした一行は、翌朝早くに宿を出発し進路を西へとった。

ツアーコンダクターのネルガによれば、昼過ぎには目的地であるニーゲルンの里に到着するとのことである。


「おや、どうしました??」


馬車の窓からぼんやりと外をながめていたブランは、不意に声をかけられ、あわてて後ろを振り向いた。


「ああ…ポッテヌさん」


彼に声をかけたのは、向かいに座っている元行商人のポッテヌであった。


「長旅で少し疲れてしまいましたかな??」


そういうとポッテヌは窓から見える景色へと目をやった。

あたりは、枯れ草と雪のまだら模様がどこまでも続き、遠くに見える山麓は雪で白く覆われている。

フィンは大陸北部にあるとはいえ温暖な気候だが、ロクス以北は「北方」と呼ばれ、一気に寒冷地帯へと様変わりする。


「いや、体は元気なんです。どちらかというとむしろ…」


「むしろ?」


「こんなに順調すぎていいのかなあと思って」


「ほお!!まるで冒険者のようないいようですな」


ポッテヌは、愉快そうに顔をほころばせた。


「順調結構。せっかくの行事なんだから、トラブルがない方がいいだろう」


ポッテヌの隣にいたメディナも大きくうなづいた。


「ですよね…」


ブランは苦笑を浮かべるしかなかった。

そんな彼の隣ではアリッサが、我関せずとばかりに、何やら呪具のカタログをペラペラとめくっている。

ブランはそんな彼女を見てため息をひとつついた。


つまるところブランにとって「アリッサと行動を共にしているのに平穏である」という状態には、違和感をかんじざるを得ないのである。

彼女行くところにトラブルあり、という心構えで今回の旅行にも臨んだだけに、この平和な数日間ですっかり調子が狂ってしまったというわけだ。


またもうひとつ、貧乏性の彼にとっては、のんびりと馬車に揺られフェルナンドの歌声に耳を傾けたり、ネルガが手配してくれた宿でくつろいでいるにもかかわらず、勤務上は出勤扱いで、それらが給与の一部になってしまうという事が、何とも心地悪く感じてしまうのだった。


「みなさん!!間もなくニーゲルンですよ!!」


その時、御者側の窓をのぞいていたネルガが一同を振り返り声をあげた。


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