エピローグ
1/19 五話目
「ルビ先輩!! 私とヴァルの結婚式が二週間後とか!!」
あれから一年、私はルビ先輩の元へ来ている。
「あらあら、でもヴィーは嫌ではないのでしょう?」
「う……い、嫌ではないですよ!! でもあいつ、また不意打ちで!!」
そう、気づけばヴァルと婚約して一年……、そして気が付けば二週間後にはもう結婚式をするなどとヴァルに昨日言われたのだ。
どういうことだよ!! と問い詰めた私に、ヴァルは結婚式のプランを報告した。流石幼馴染で、私のことが分かっているヴァルである。ドレスも式の中身も全部私好みで、文句のつけようがなかった!!
あれからの一年、ヴァルは私に益々甘くなってしまったのだ……。見慣れたはずの美形顔なのでどんな表情をされても問題がない!! とか言っていたのは誰だ、私だ。なのにあんなこ、恋人にするような態度されて私は不覚にもドキドキしてしまったのだ!!
うん、恋人にするような態度と、他にするような態度は違うよね!! でも思ったより破壊力凄かったよ!!
一年前に何だかんだ混乱したまま納得させられ、告白まがいなことをされたわけだけど……、びっくりすることにヴァルは恋愛的な意味でちゃんと私の事を好きでした!! っていうね。
……そして私はそれが何だかんだで嫌ではないっていうのに気づいて、凄い恥ずかしかった!!
「ヴィーって何だかんだサラガント先輩の事が好きよね。ヴィーなら自分が本当に嫌なことだったら全力で拒否するでしょ。結婚も拒否しないってことはサラガント先輩と結婚することちゃんと受け入れているのね」
「う……そうですよ!! そのことに、最近気づきました……」
うん……、私は自分が嫌なことだと、ちゃんと断るタイプなのだ。はっきりといって、流されたりはしないのだ。ヴァルと婚約をしたのも、結婚式を不意打ちでされたのも、それでも嫌だと思えないのは、多分、私が何だかんだでちゃんとヴァルのこと好きなんだと思う……。
思えば、攻略対象と気づいてもヴァルと仲よくし続けたのもそれが理由かもしれない、と今更ながら気づくという。
「ヴィーも、此処が乙女ゲームだっていう固定概念にとらわれていたのかもね。私もフィルが攻略対象だからってそういうのから外していたから」
「……そうですね。そうかもしれません。私はルビ先輩とも違って乙女ゲームでは本当に出てこないような脇役で、それもあって攻略対象とか、乙女ゲームに出てくるような人たちや美男美女とそういうことにはならないだろうって、無意識で思ってたんだと思います。乙女ゲームの世界が終わってもそんな認識が終わってなかったっていうか」
私は好き勝手に生きているし、自由に生きているつもりだったけれど、やっぱり乙女ゲームの世界だったっていう概念が取れてなかったのだと思う。
乙女ゲームが終わっても、それでもまだここが乙女ゲームだっておもってた。……うん、でもここが乙女ゲームだと知らなかったらそもそも私はこんなに隠密魔法を学ばなかったし、ヴァルともルビ先輩ともつながりが出来なかったかもしれないけれど。
「……それでですね、ルビ先輩。私、結局ヴァルに一度も好きとか言ってないんですよね? 流されるままに口づけとかはされちゃいましたけど、そういうの言ってないんですよ!! 気づいたからには、結婚式前に、そ、その……す、好きだとかいうべきかなって」
「そうね、言った方がいいわね」
ルビ先輩はにこにこと笑って私に言う。
その顔が何だか、生暖かくて恥ずかしくなる。
「……はい、頑張ります!!」
「ええ、頑張ってね」
私はルビ先輩に頑張ります、と報告してからヴァルの元へ向かうことにした。
正直、ドキドキした。だってヴァルにそういうの言ってなかったから。ヴァルのことだから、何だかんだで気づいているかもしれないけど、それでも気づいていようが気づいていまいがちゃんと声に出すことは大事だと思う。
だから、
「ヴァ、ヴァル!! 私、ヴァルの事、ちゃんと好きだから!!」
と言って、逃げた。
そのままそこにいるのは恥ずかしかったから逃げたけど、普通にヴァルに捕まった。
そして嬉しそうな顔をされて私は赤面してしまうのだった。
乙女ゲームの世界に転生した。
乙女ゲームの世界が終わっても私は、乙女ゲームに捕らわれたままだった。
だけど、その記憶にもう捕らわれずに、私は本当の意味で自由に生きている。
「ヴィー、行くぞ」
「うん!!」
私はヴァルの隣で、幸せだ。
これで終わりになります。
元々ヴィーとヴァルをくっつけようと思っていたものの、難産でした。
書籍化作品の関連作なのですが、思ったよりブクマがつかなかったり、あとはリアルで忙しくなったりして中々進まなかったので、読者様のことはお待たせしてしまいました。
だけど、なんとか想定していた完結まで書ききることが出来てほっとしています。
最初はヴィーの話を書く予定はなかったのですが、書籍化したあと考えてみて、転生少女は三人いるのだから、全員が自由に生きる物語を書いた方が良いのではないか。そこまで書いてこそではないかと思って、ヴィーの話を書き始めました。
時間がかかりましたが、この後、メルトの話も書けたら書こうと思っています。
読みたいと思ってくださる読者様がいるか分かりませんが、書きたいので。
ヴィーもなんだかんだで乙女ゲームの世界という固定概念があったので、自分は脇役と思い込んでいたというのがあります。なので攻略対象の幼馴染とそういう関係とかありえないと思い込んでいたという感じです。
ヴィーは暴走しがちな子なので、書いていて難しかったですが、楽しかったです。
では、此処まで読んでくださりありがとうございました。少しでも何か感じていただければ嬉しいです。
2020年1月19日 池中織奈




