セトリオ特務隊 1
全然関係無い話なんですけど、「ルリドラゴン」っておもろいですよね。龍のキャラクターは唆るぜ
『この世界は、魔力で満ちている。』
一般教養として、この事実は広く認識されている。しかし、「魔力とは何か?」という問や、「魔物とは何か?」という問については、博識な一般人か魔術師、学者くらいしか答えられないだろう。
ということで、俺から軽く説明させてもらう。
まずは魔力についてだが、これは俺にも確かなことは言えない。なにせ、魔力の正体については、現時点では推測の域を出ない。
空気中に微細な物質が飛んでいて、それが魔力の正体だという見解が有力だが、科学的な根拠とかはあまり無いらしい。また、宗教的な観点から見ても、「神話の戦争にて振るわれた神の力の残滓」と言う曖昧な解釈しか叶わない。
故に、魔力については、「魔術を使うためのエネルギー」と言う捉え方で良いだろう。
次に魔物についてだが、これには答えが導かれている。結論から言うと、魔力に汚染された動物が魔物だ。それってつまり、人間も魔物になってしまうのではないか?と言う懸念が生じるが、それは心配いらない。基本的には、人間は魔物にならない。
では、1から説明していこう。先程も述べた通り、この世界は魔力で満ちている。そして人間や魔人、魔物はこの魔力を用いて、魔術を使用するのだ。ただし魔力とは、利用するだけ利用できる都合の良い存在ではない。魔力と向き合うことは、常に危険と隣り合わせになる。
魔力には2つの性質がある。1つは活性化すると結晶になるという性質。そしてもう1つは、活性化すると緩やかに周囲の肉を歪めるという性質。
結晶化の性質については、大いに利益のある素晴らしい性質だ。魔力が結晶化した物を「跡虹珠」と呼ぶが、これは魔術を使用する際の補助装置として重宝される他、装飾品として嗜好される。問題となるのは、2つ目の性質だ。
肉を歪める。これだけ聞くと、食卓に並ぶお肉が変形する様をイメージしてしまうが、実際はそうではない。この「肉」が示す対象とは、ズバリ身体の事だ。何らかの比喩とかではなく、本当に、魔力を使っていくと身体が変形するのだ。これは現代においては、緩進化(緩やかな進化)とも言われている。
そして、緩進化の代表が魔物だ。彼らは元は普通の動物だったが、何らかの理由で体内の魔力が活性化し、緩進化した。魔物とは、そうして生まれた存在なのだ。
では、魔術が使えない普通の動物の魔力が活性化する理由は何だろうか?これには明確な理由があるが、今は別に知らなくても良い。今知っていて欲しい事は、魔力についてと、魔物についての2点だけだ。
最後に纏めよう。魔力とは、空気中に存在する、魔術を用いるためのエネルギー。そして魔物とは、魔力によって変化した動物の総称。どうか、忘れないように。
特務隊の庁舎は、セトリオ子爵邸からほどなくして辿り着く。こじんまりとした平屋で、中心を基準に対照的な構造をしていた。屋根の長さ、窓の位置、ベランダ。全てが平屋のドアを中心として、規則的に左右へ振り分けられている。平屋の外壁は、木造の骨格が表面に飛び出ていて、漆喰の白色が年季によって褪せて古臭い。随分長い間、この建物を使っているのだと分かる。
平屋の建っている敷地の隣には、訓練場と思しき広場がある。木柵で囲われた縦横50メートル程度の広場には、剣術訓練用の案山子や弓射用の的が用意されている。どちらも焼け焦げた跡があり、どうやら魔術の訓練にも用いられているようだ。
俺達は近場の厩舎に馬と馬車を預け、庁舎の扉を叩く。出迎えたのは、20代半ばくらいの男だった。
「ようこそいらっしゃいました。私は、セトリオ特務隊第一部隊隊長、ベグヌス・ミレースと申します。以後、お見知りおきを」
ベグヌスが恭しく、それでいてどこかキザな空気を醸しながら頭を下げると、鮮やかな金色の頭髪が滑らかに揺れた。前髪を目蓋の上辺りで切り揃え、襟足を刈り上げたキノコのような髪型をしている。背や手足が長く、その上顔も良い。キリッと引き締まった男らしさこそ無いものの、ハンサムで薄幸そうな顔つきが柔和な微笑みを浮かべている様は、きっと幾人もの相手を堕としてきたに違いない。
「初めまして、ベグヌス殿。俺はヴェラトラ・フィクトコード。そしてこちらがアベルン・オッフィキスオース。これから世話になる」
「こちらこそ、キャスタム伯爵家の御子息ヴェラトラ様に加え、魔術の名家ブラキウム子爵家の貴女アベルン様の御助力を賜れる事を、光栄に存じます。さて、御足労いただいたばかりで恐縮ではありますが、うちの隊員にも、お二方へご挨拶する機会を与えたい。軽いご歓談にお付き合い頂いても、よろしいでしょうか?」
「構わない。元々、顔合わせの為にここへ赴いたんだ。よろしく頼む」
「はい。承知しました。うちの者はもう揃っています。こちらへどうぞ」
ベグヌスに案内されて、俺達は執務室のような一室へ通される。というのも、部屋の隅には乱暴にどかされたテーブルが5つあり、また書棚には、適当に詰め込まれた書類の束がはち切れそうなほどに隙間を埋めていた。そして、中央の円卓は色褪せ、奇妙な四角い跡を残していた。きっと、長い間物置のように使われていた物を引っ張り出してきたのだろう。掃除の手入れ具合もそうだが、この部屋の急繕感が凄まじい。
円卓の周りには、既に4人が立っている。30代半ばくらいの男が1人、20代くらいの女が2人、同じく20代くらいの男が1人。
(はぁ・・・メンドクサ・・・)
昔から初対面の挨拶は大嫌いだ。嫌悪、無関心が主で、好意も虚礼ですらも存在しないこの空間が嫌いなのだ。いずれの排外も、刃を成しては俺を目掛けて放たれて、都合の悪い事に避けることも出来ない。ただただ苦痛なだけ。いやだ。
しかし、そのように駄々を捏ねたところで解決出来る訳でもあるまいし、そもそも駄々を捏ねて許される年齢をとうに越している。故に、腹に力を込めて、定型分を口にする他無いのだ。
「みんな、注目してくれ。デアクア陸軍本部より、ヴェラトラ様とアベルン様にお越し頂いた。ヴェラトラ様は、英雄と名高いキャスタム卿の御子息で、陸軍の本部にて魔物の脅威から王都を守るために御尽力なされている方だ。そしてアベルン様は、魔術師の名門ブラキウム子爵家の御息女で、優れた魔術師として知られている」
ベグヌスの軽い紹介がひと段落すると、俺は咳払いを挟んで前へと歩み出た。
「ベグヌス殿のご紹介に与った、ヴェラトラ・フィクトコードだ。先月まで、デアクア王国陸軍特務大隊第2小隊に所属していたが、本日付でここセトリオの配属になる。これからよろしく頼む」
「同じく紹介に与りました、アベルン・オッフィキスオースと申します。これからよろしくお願いします」
俺とアベルンが挨拶をすると、急繕の歓迎会室はしんと静まり返る。まるで、頓珍漢な発言を粛々とした式典で口にしてしまったような、そんな気まずさだった。
(あれ?なんだこの空気は・・・)
20代の男は、不機嫌な態度を包み隠さず表面に表しているし、白髪の若い女はずっと俯いたまま、話を聞いているのかどうか疑わしい。まともに耳を傾けてくれた赤髪の女だって、極めて悪性な情熱を瞳に滾らせて、こちらをじっと見つめてくるのが気になって仕方ない。さながら、ファイトクラブの問題選手に因縁をつけられているような気分だ。
なんだか歓迎されてないような気がして、横目でベグヌスの様子を伺うと、苦い顔で両腕を組んで、不自然に直立姿勢をとっていた。
(おいおいマジかよ・・・)
ベグヌスの姿から、俺達の立場は瞭然だった。セトリオ卿の一件から、なぜだか思考の片隅に追いやっていたが、まさかここに来て牙を剥くとは。
「ベグヌス隊長」
不機嫌そうな男が、唐突に声を上げた。
「なんだいケルー?」
ケルーと呼ばれた男は、今にも発露しそうな怒りを腹に抱え、低く尋ねる。
「本部に応援を要請したと・・・隊長はそう仰いましたよね?」
「ああ。そしてその通りに、ヴェラトラ様とアベルン様が来てくれたじゃ・・・」
にこやかに返したベグヌスの言葉を遮り、ケルーの言葉が堰を切った。
「どうしてそいつが・・・キャスタム伯爵家の忌子が、ここに来ているんですか!?」
それは、極めて効率的に、拒絶と嫌悪の意を伝える鈍器のような言葉だった。幸いだったのは、不快感が押し寄せるよりも先に、アベルンを抑えなければという使命感を覚えた事だろう。俺がつま先でアベルンの足を突くと、爪を立てた獅子のように憤然を纏った彼女が、目を見開いてこちらを見返す。
(落ち着け)
口パクで宥めると、彼女は不承不承といった様子で肩を落とした。気持ちは分かるが、流石に正面から衝突するわけにはいかない。我慢してくれ。
「・・・それは、ベグヌス殿に聞くことでもなければ、俺に聞くことでもない。決定したのはキャスタム卿・・・俺の父上だ」
だから、俺達とベグヌス殿を責めるのは勘弁してくれ・・・言外にそう伝えるも、ケルーは早口で捲し立てるばかりだった。
「キャスタム卿は、一体どういうおつもりなのだ?セトリオは今、未曾有の危機に瀕している。そんな折、寄越されたのが誇り高き特務隊の精鋭かと思えば、貴様のような落ちこぼれだ。デアクア王国の意向は、セトリオの破滅ということか?」
「さあな。俺にだって、父上の考えは分からない。生憎龍人に、他者の脳を読み取る術は無いんだ。ただ、それなりの腕っぷしなら俺にも持ち合わせがある。セトリオの力になると誓おう」
「それがなんだと言うんだ?貴様1人で、何が解決出来る?」
ケルーの止めどない追及に、舌打ちを溢しそうになる。こっちがこれほど歩み寄っていると言うのに・・・これだから、四傑教の連中は嫌いなんだ。
「・・・1人じゃない。アベルンも一緒だ。それと、俺がセトリオの問題をなんとか出来るかと言われても、答えは1つ、『出来ない』だ。ここがどんな状況に陥っているか、おおよそ想像はつくからな。だけど、それを言い訳に怠惰を貫くほど、俺の心が腐っていない・・・俺に言えるのは、これだけだ」
文句あるかと言う風にふんぞり返ると、ケルーは長く長く、それはもう長く息を吸い込んで、内に溜まった可燃性の瘴気を刺激しないようにと、小さく吐いた。
「それじゃ駄目なんだ・・・」
心なしかケルーは力を無くして、フラフラと円卓を離れる。
「ケルー。どこに行く?」
ベグヌスが口を尖らせるも、ケルーは振り返りすらせず、沈んだ声で答えた。
「またいつ、魔物が現れるか分からない。こんなところで油を売っているわけにはいきません」
「だが・・・」
ベグヌスは何かを発しようし、寸前で止めた。すでにケルーは、この一室を後にしていたのだ。
当たり前のようにメートル法を使っておりますが、これは決して世界観の構築を怠った作者の怠惰ではなくてですね、長さを想像させるのに一番の表現方法だからそうしているだけです。異世界の言葉を現代日本語に翻訳している、みたいな感じで考えて頂ければ幸いです




