「髑髏蜘蛛の毒袋」×「バンデットソード」
巨大な身体が僕へ叩きつけられる。
「っ……!」
衝撃の瞬間、反射的に蒼花紋の盾を割り込ませた。
だが、勢いが違った。
ドォンッ!!
盾越しに凄まじい衝撃が突き抜け、僕はそのまま床へ押し倒される。
「ユニス!」
リリエットの叫び声。
まだら模様の大蜘蛛が、覆い被さるように僕へのしかかっていた。
巨大な牙が、目の前まで迫る。
僕は必死に左腕へ力を込め、盾で牙を押し返した。
そのまま右手のバンデットソードを、大蜘蛛の顔面へ突き出す。
刃は硬い外殻を削った。
だが、怯まない。
黒溶の戦斧なら、溶岩ダメージで一瞬は動きが鈍ったはずだ。
けれど今の剣には、あの戦斧ほどの攻撃力がない。
押し返しきれない。
「はあっ!」
リリエットの声と共に、白い斬撃が閃いた。
アイスブランドが、まだら模様の大蜘蛛の右側の脚を一本切り飛ばした。
大蜘蛛の身体が大きく傾いだ。
今だ!
僕は右側へ転がるように脱出し、体を起こそうとする。
――その瞬間。
別の大蜘蛛が、真正面から突っ込んできた。
「うわっ!?」
咄嗟に、僕は逆戻りするように、まだら模様の大蜘蛛の体の下へ滑り込むように横転した。
直後、二体の大蜘蛛が激突する。
バキッ! と脚同士がぶつかる嫌な音が響いた。
だが、それでも大蜘蛛たちは止まらない。
二体が押し合うような形になりながら、なおも牙を突き立てようとしてくる。
けれど、互いの身体が邪魔になって、うまく僕へ届いていない。
チャンスだ。
「ナズカ、二発目は無理だ! 距離を取って杖で自衛して! リリエット、マリィはとにかく数を減らそう!」
「承知した!」
リリエットの返事は聞こえたが、どうなっているかまでは分からない。
とにかく目の前のこいつを何とかしないと。
僕は思い切って、さらにまだら模様の大蜘蛛の下へ潜り込んだ。
狙い通り、目の前に柔らかそうな腹部が見える。
バンディットソードを突き上げた。
柔らかい感触。
だが、それでも大蜘蛛は暴れ続ける。
無我夢中で剣を突き立てる。
一度、二度、三度。
硬い外殻じゃない。
今度はちゃんと刃が通る。
大蜘蛛の身体が大きく震えた。
次の瞬間、覆い被さっていた巨大な身体が、光の粒へと変わって崩れていく。
僕は慌てて身体を起こし、周囲を見回す。
残っているのは一体だけだった。
どうやら、もう一体はリリエットが倒したらしい。
最後の大蜘蛛は、マリィと対峙していた。
だが、動きがおかしい。
脚がふらつき、身体がうまく支えられていない。
マリィの短剣の効果が出ているのだろう。
僕が立ち上がるより先に、リリエットが走り込んだ。
そのままの勢いでアイスブランドを一直線に振り抜く。
白い軌跡が、大蜘蛛の頭部を切り裂いた。
大蜘蛛はそのまま光の粒となって霧散する。
さっきまでの騒音が嘘みたいに、通路が静まり返った。
「無事か、ユニス!」
真っ先に駆け寄ってきたリリエットが、険しい表情で僕を見る。
「うん、大丈夫。ちょっとぶつけたけど、怪我ってほどじゃないよ。防具が衝撃を吸収してくれたし、牙にも当たってない」
僕は立ち上がり、身体を軽く動かして確認する。
軽い痛みはあるが、戦闘に支障が出るほどではなさそうだった。
「ごめん、僕が魔法を外して……」
ナズカが悔しそうに唇を噛む。
「いや、僕もあの大蜘蛛があんな動きをするとは思ってなかったんだ。てっきり、糸で遠距離から攻撃してくるものだと思ってた」
思い込みがあった。
以前戦った模様のある個体は、遠距離から粘着糸を飛ばしてきた。
だから今回も同じように動くと、勝手に決めつけてしまっていたのだ。
「あたしも、サポート遅れたわ」
マリィも少し申し訳なさそうに言う。
「いや、むしろもう一体を止めてくれて助かったよ。リリエットもすぐに助けてくれたし、もう一体も倒してくれた」
僕は小さく息を吐く。
「……むしろ反省するべきは僕だよ。単独でも、もう少し早く倒せないといけない」
手の中のバンデットソードへ視線を落とした。
「武器に頼っていたつもりはなかったけど……やっぱり前より火力は落ちてる」
黒溶の戦斧やアイスブランドほどとは言わない。
それでも、もう少し突破力が欲しい。
「一旦、階段まで引こう」
三人も異論なく頷いた。
ドロップアイテムを回収して移動しようとして――僕は思わず手を止めた。
「……なんだこれ」
地面に、ぬめりを帯びた袋状の物体が落ちていた。
どう見ても内臓だ。
まだら模様の大蜘蛛のドロップアイテムだろうか。
恐る恐る鑑定を使う。
《髑髏蜘蛛の毒袋:素材》
「髑髏蜘蛛……?」
以前倒した個体は、《大蜘蛛の粘着糸》を落としていた。
あの時は鑑定しても、“髑髏蜘蛛”なんて名前じゃなかったはずだ。
模様は同じだと思ったが、別種の魔物だったのだろうか。
――いや。
「……バンデットソードの効果か」
思わず呟く。
お宝ナイフ由来の、ドロップ変化効果。
「ドロップアイテムが変化したみたい。髑髏蜘蛛の毒袋だって」
一度で変化したのだとしたら、かなり運が良かった。
……とはいえ。
「これ、どうやって持って帰ろう」
改めて毒袋を見る。
これをバックパックへ入れるのは、かなり抵抗がある。
「毒袋って……触って大丈夫なの……?」
マリィが半歩下がる。
「コボルトの毛皮で包むのはどうだろう。触れずに済むし、持ち運びもしやすいはずだ」
リリエットが提案した。
「いや、でも……破れたら大惨事じゃないかい?」
ナズカが引き気味に言う。
……確かに。
毛皮で包んだとしても、バックパックの中で破れたらどうなるか……想像したくない。
「それなら、いっそこの場で融合しちゃえば?」
マリィがぽつりと言った。
周囲を見回す。
今のところ、他に敵の気配はない。
「……確かに、ありかも」
それなら、安全に処理できる。
僕は少し考えてから、バンデットソードを握り直した。
「僕の剣に融合するよ。今回、もう少し突破力があれば、戦闘ももっと楽だったはずだから」
一瞬、マリィの短剣に融合することも考えた。
けれど、マリィはすでに麻痺と脱力という強力な搦め手を持っている。
そこへさらに毒を重ねるより、僕の武器を強化した方が、パーティ全体としての役割の幅が広がる気がした。
「なるほど、いいわね」
マリィも納得したように頷いた。
リリエットやナズカも、特に異論はなさそうだった。
「じゃあ、みんなは周囲を警戒してて。僕は融合するよ」
三人がそれぞれ武器を構え、周囲へ意識を向ける。
僕は右手でバンデットソードをしっかり握り直し、地面に落ちている毒袋へ、そっと左手を伸ばした。
ぬるり、とした感触が指先へ伝わる。
「うわ……」
思わず小さく声が漏れた。
毒袋というくらいだ。
中に毒が入っているのであって、さすがに表面まで危険ということはない……はずだ。
多分。
できれば、あまり長く触っていたくない。
僕は意識を集中する。
――融合。
【あとがき】
GW期間8日目の更新です。
いよいよ明日――というか、日付が変わってしまったので今日なのですが、書籍版が発売日を迎えます!
さて、毎度恐縮ですが書籍版の宣伝をさせてください。
書籍版の魅力⑦
「コミカライズが進行中」です!
……もはや書籍版そのものの魅力ではない気もしますが、帯にもコミカライズ決定の告知が入っているので、せっかくなので宣伝させてください。
そうです。コミカライズが進行しています。
現在ネームを読ませていただいているのですが、めちゃくちゃ面白く仕上がっています。
実際に皆さまの目に届くまではもう少し時間がかかると思いますが、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
また、帯にはコミック版のイラストも少しだけ掲載されていますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
(強引に書籍の宣伝へ繋げました)
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。
以下、Amazonの商品ページURLです。
(リンクにできないため、お手数ですがコピーしてご利用ください)
https://amzn.asia/d/0cq7fIsW




