「白狼の毛皮」×「ローブ」
「ねえ、ご満悦のところ悪いけどさ。それ、枕にするくらいなら――やっぱり融合した方がいいと思う」
僕がそう言うと、ナズカは白狼の毛皮に頬を押しつけたまま、黙ってこちらを見た。
「……防具にしたら、きっといい性能になるよ」
僕は重ねて説得した。
「えー、こんなに寝心地がいいのに?」
名残惜しそうに言いながらも、ナズカはゆっくりと体を起こした。
そのまま毛皮を手に取り、しばらく眺める。
そして、小さく息をついてから、僕に差し出した。
「まあ、本気で枕にするつもりはないさ。さすがに、もったいないのは分かってるよ」
もっとごねるかと思ったけれど、意外とあっさり返してきた。
もしかするとナズカは、少し大げさに振る舞ったり、おどけたりしながら、僕たちとの距離を縮めようとしているのかもしれない。
それがどこまで意識的で、どこまで無意識なのかは分からない。
でも少なくとも、少しくらい甘えても大丈夫だと、そう思ってくれているのなら、悪い気はしなかった。
僕は毛皮を受け取りながら、少し考える。
「それなら、ナズカのローブに融合すればいいよ。ローブにしたあとだって、丸めれば枕にはできるし」
「なるほどね。それは悪くない案だ」
ナズカは興味深そうに頷いた。
「……ただ、大きさ的に上手くいくかな?」
言われて、僕は受け取った毛皮を軽く広げてみる。
広げたそれは、せいぜい両手で持てる程度、20センチ四方といったところだろうか。
普通に考えれば、とても全身を覆うローブの素材には足りない。
けれど――
「多分、大丈夫だと思うよ」
僕は、これまでの融合を思い返しながら答えた。
「融合って、単純に“物をくっつける”って感じじゃないことが多いんだ。素材そのものの大きさより、性質が全体に広がるみたいな……そんな結果になることが多くてさ。僕の防具だって、鱗一枚を融合しただけなのに、鎧全体に効果が出てるしね」
もちろん、僕自身も融合について全部理解しているわけじゃない。
でも、今までの結果を見る限り、多分そういう性質なんだと思う。
「へぇー、不思議だね。あれ、じゃあ融合したら、このモフモフがローブ全体に行き渡るのかい? なら、尚更融合しないと!」
ナズカはそう言って、楽しそうに笑った。
「みんなもいいかな?」
「あたしはいいわよ。でも、他の毛皮は独り占めはダメだからね。あたしも下に敷くわ」
「私も問題ない。やはりこのダンジョンは敵の数が多い。後衛の防御が上がるなら、その方が安心だ」
「じゃあ、決まりだね。ローブを貸して」
ナズカからローブを受け取る。
そういえば、ナズカの装備を鑑定するのは初めてかもしれない。
漆黒を基調としたローブだ。袖や裾には金糸の刺繍が稲妻のように走っており、以前から思っていたが、かなり見た目にこだわっている装備だと思う。
だが、鑑定結果は意外なほど普通だった。
《ローブ:鎧 防御力3》
それにやはり、防御力はそこまで高くない。
もっとも、これは仕方ないことでもある。
ナズカの使う雷魔法のスキルは、金属製の装備と相性が悪い。
集中の妨げになるらしく、だからこそ魔法系のスキルを使う冒険者は布装備を好むのだ。
けれど、この融合なら問題ないはずだった。
僕は両手に白狼の毛皮とローブを持って、融合を発動した。
淡い光が毛皮とローブを包み込む。
やがて光が収まると、そこにはまったく別物になったローブが残されていた。
白銀色だ。
形は元の黒いローブをベースにしながらも、全体が美しい白銀色へ変わっている。もともと施されていた金の意匠はそのまま残っており、不思議とよく調和していた。
生地も、ただの布だった頃より厚みが増している。毛皮の質感もきちんと残っており、ナズカが気にしていた“もふもふ具合”も健在だった。
だが、それでいて重苦しさはない。むしろ、どこか冷たさすら感じさせる、美しいローブだった。
僕はすぐに鑑定を使う。
《白狼のローブ:鎧 防御力5 冷気耐性+2 ※ナズカ以外が使用すると破損》
「おお……!」
ナズカが目を輝かせた。
「これは……かなり格好いいんじゃないかい!?」
ローブを受け取ると、すぐに羽織ってみせる。
「うん、いい感じだと思うよ」
黒髪のナズカに白銀のローブは正直、かなり似合っている。
「それに結果も良かったよ。防御力も上がっているし冷気耐性もあるね」
「ふふふ、やはり僕にはこういう特別な装備が似合うようだね」
ナズカは満足そうに頷いた。
「ねえ、じゃあそろそろご飯行きましょうよ。もうできてるはずよね」
マリィがそう言いながら立ち上がる。
「確かにそうだね。少し遅くなっちゃったかも。早く行こう」
僕も頷く。
「え、待って。これで外に行くのかい?」
ナズカが急に不安そうな顔で、自分の姿を見下ろした。
融合前のローブは、黒を基調としており、刺繍は凝っていたが全体としては地味なものだった。
けれど今は違う。
白銀色のローブはかなり目立つ。
キャンプの中でも、視線を集めそうだった。
「……だ、大丈夫よ。もう日も落ちてきたし、案外分からないわよ」
マリィがやや無理のあるフォローをする。
「いや、そのローブは暗い方が逆に目立つと思うが……」
リリエットが冷静に付け加えた。
「うっ……」
ナズカが小さく言葉を詰まらせる。
とはいえ、食事を取らないわけにもいかない。
僕たちはテントを出て、最初に説明を受けた炊事場へ向かった。
炊事場では、大鍋で作られたスープとパンが配られていた。
スープはトマトベースらしく、赤い色合いをしている。
中には大きめに切られた野菜がごろごろ入っていて、豚の腸詰も入っていた。思っていたよりもしっかりした食事だった。
簡易的なテーブルも用意されていたが、僕たちは料理を受け取ると、そのままテントへ戻った。
毛布の上に胡坐をかき、それぞれパンをちぎりながらスープを口に運ぶ。
不便な野営生活になるかと思っていたけれど、これはこれで悪くない。
テントの外からは、他の冒険者たちの笑い声や話し声が聞こえてくる。
長い一日が、ようやく終わろうとしていた。
明日はいよいよ、二階層だ。
【あとがき】
GW期間6日目の更新です。
もっとも、GW期間と言いつつ、今日は仕事や学校だった方も多かったと思います。
私も普通に出勤でした。
ただ、自分はまだ連休中で、今日はたまたま趣味で仕事をしているだけなんだ…と自分に言い聞かせながら、なんとかGW気分を維持しています。
引き続き、5月10日までは毎日更新していきます。
さて、毎度恐縮ですが書籍版の宣伝をさせてください。
書籍版の魅力⑤
「あとがきがある」です。
いよいよこちらもネタ切れ感が出てきましたが、あとがきは割と一生懸命書きました。
私は本を買うとき、ついあとがきを先に読んでしまうタイプなので、「あとがきから読む派」の方も楽しめるよう意識して書いています。
最近はラッピングされている本屋さんも多く、あとがきだけ立ち読みできる機会も減った気がしますが……もし書店で見かけた際は、ぜひあとがきだけでも読んでみてください。そして、できればそのままレジへ……(笑)
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。
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