表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の道具屋  作者: 丸亀四鶴
50/62

49.道具屋と街中の人外


辺境地域は雨が降らない訳ではないのだが、ここ数日間ぱらりとも雨が降っておらず、街道を走る馬車や騎獣からは砂埃が上がっている。

馬車を連ねた商隊は前を行く馬車の埃を被らぬよう自然に間隔を空けるようになり、後ろから来る騎乗の旅人は追い抜くのでも一苦労だし、徒歩の旅人はわざわざ街道を少し外れて風上を歩く始末だ。


ハウンドール王国の王都が近付くにつれて街道の通行量も多くなり、秩序なき白地地帯に比べると周囲の風景もだいぶ変わってきている。

王国は農業が盛んなので防護壁の外にも広大な農地が広がっており、王都まで半日くらいの距離ともなれば、ちらほらとすでに刈取りが終わった穀倉地帯が見えてくる。


自由都市国家ラプトロイを出発して十日目。まだ陽も昇らぬ内に最後の宿泊地を出発したロウ達一行は、そんな風景の変化を楽しみながら比較的のんびりと移動していた。


視界の先には、すでにハウンドール王国の王都サイトスの防護壁と、巨大な街の中心に聳え立つ、白磁の城が見えている。

乗っている騎獣のオーグも疲れを見せる風でもなく快調に走っており、この調子ならあと二割刻(一刻が四時間、二割刻が二時間、四割刻が一時間、八割刻が三十分くらい)も走れば、長かった旅がようやく終わる。

 

ロウにとっても一年ぶりの王都である。

人が多くて無駄に活気がある街には閉口してしまうが、大陸有数の大都市だけあって、ロウの好奇心をくすぐるモノ新しいモノが、それこそ数え切れぬほど集まってくるので、それを見て回るだけでも「物作り」の参考になるはずである。


長い歴史の中で、変わる事なく無限に魔獣を生み出す迷宮や魔境とは違い、人族の街は常に変化し続けるのである。



王都サイトスに到着したのは、鐘二つ刻(鐘一つ刻は九時、鐘二つ刻は十三時、鐘三つ刻は五時、鐘四つ刻十七時くらい)の頃合いだが、街門の検問所にはすでに長い列ができていた。

サイトスほどの大都市になると、この時間に到着しても街に入れるのは結局夕方になってしまうらしい。もちろん検問が順調に進んだとしても、だ。


こればかりは大人しく列に並んで待つしかない。

オーグに騎乗したままでは共に疲れてしまうので、ロウはオーグから降りると魔法拡張鞄から野営用の簡易椅子を三つ取り出して、そのまま道端で腰かけて待つことにした。


少しずつ移動しながらのんびりと待つ。

貴族か教会の関係者か、時々見た目も豪華な馬車が砂塵を上げて列の横を追い越していく。彼らは検問所で止められることは無い。平民と特権階級は違うのだ。


街に入るための検問は、犯罪者の出入防止、人身売買等に拘る違法出入国民の検挙、危険物の持ち込み阻止が目的であり、馬車の中を確認し、身元の確認が出来るような身分証を提示して、入国の目的など簡単な質問に答えるだけである。


平民が持つ身分証は、七つの職業組合(探索者、魔法士、傭兵、薬師、商業、農業、輸送)と、五つの管理組合(債務、奴隷、鉱山、土地、水利)から発行されるものから、学校や学園が発行する学生証や期限付きの旅券など多岐に渡る。


身分証は魔道具の一種で、自分の魔力を通すと所属する組合の紋章が光を発する仕組みになっている。この身分証には最初の登録時に魔力を記録させるので、本人以外の魔力を通しても発光することはない。

また、規約違反や罪を犯して組合から除名処分を受けると、身分証の紋章は消滅してしまうので、身分証として使用できなくなる特殊な魔道具なのだ。


この世界で旅をする場合、流石に一国の首都まで来ようとするならば、身分証も持たないような「一般人」はいない。


検問所へ出入りする者で身分証を持たぬ者は、先程通り過ぎていった貴族身分の者、教会の「癒し手」たち、そして頑強な輸送馬車で「物」として運ばれる犯罪奴隷くらいである。


辺境諸国もこの国も、この世界の殆どの国では人身売買は犯罪とされていて、奴隷制度は罪を犯した者にだけ適用されている「罰則」のような意味合いを持つ。


男の犯罪者は、殆どが街外農場か国営鉱山に送られる。女の犯罪奴隷はやはり農場か、紡績工場や塩田といった労働力が不足しがちな場所で、半永久的な強制労働が待っている。

もちろん、戦時中であれば最前線へ送られるのも犯罪奴隷達だ。


罪が軽い、或いは初犯と言った情状酌量の余地があると判断された者は、派遣奴隷という身分となって奴隷管理組合の管理下に置かれ、探索者組合と連携しながら街中の汚れ仕事や魔獣の解体、死体処理など人が忌み嫌う仕事をしなければならない。


一方、混同されがちだが何らかの負債を抱えたために身売りした者は、債務奴隷となって債務管理組合の管理下に置かれ、街の至るところで一般人と同じように働いている。

債務奴隷は管理組合から衣食住すべてを提供され、組合の寮から斡旋された職場まで通う生活であり、ある程度の自由はあるものの街の外に出ることは出来ないうえ、自分で使える金はほんの僅か、偶に雇い主や客から貰う小遣いだけである。


仕事の内容は一般の店の売り子から探索者の荷物持ちまで様々だが、当人の能力に合わせて仕事を選ぶ事ができ、労働で得た給金の七割を返済に充て、三割を組合に収める仕組みとなっていて、借金を全額返すまで解放されることは無い。

稀に「身請け」として借金を肩代わりするという者が現れるが、認められるまでは厳しい審査と詮議が行われ、実際に身請けされたケースは非常に少ない。


因みにこの世界では個人が奴隷を所有することは出来ないし、傷付けることも犯罪である。奴隷管理組合も債務管理組合も独自に諜報部を持っていて、こうした犯罪や債務者の逃亡が無いか、常々世の中を監視しているとか。


ともあれ、検問の列が少しずつ進んでいき、ようやくロウ達の順番となる。

ロウは探索者組合と商業組合、薬師組合の三団体に所属しているので、身分証には三つの紋章が描かれていた。シモンは探索者組合の身分証を提示し、ディルとハクは探索者組合の従魔登録のタグを持っているので、中の詰所で簡単な手続きを済ませれば街の中に入る事ができる。


持ち物は少ないので特に中を改められるようなことは無く、身分証に魔力を通し組合の紋章が光っているところを見せると、検問の兵士がディルとハクを認め、話しかけてきた。


「ん?三団体の紋章付きとは珍しいな。まさかその黒蛇とスライムは従魔かい?ずいぶんと可愛らしい従魔だが、探索用なのか?」

「ええ、ただ探索者組合は掛け持ちなんです。自分で素材を調達しなければならない時もあるので。」

「そうか。従魔の登録はあの詰所に担当がいるから、そっちに行ってくれ。街中では従魔が他人に迷惑を掛けないよう気を付けて欲しい。王都での目的は何かな?」

「私の師がサイトスに住んでいますので会いに来ました。」

「私達は彼の護衛をしている。リミテッド級探索者パーティでリーダーは私だ。」


そう言ってシモンも自分の身分証を提示する。


機械人形であるサンだが、探索者組合の計らいで特別に探索者登録することが許可された。身体に格納した魔核にシモンの魔力を充填しているので、複製した魔力だが、身分証はちゃんと機能してくれている。

これまでは門を通る度にサンの身分を説明し、機械人形であることを証明しなければならないのが非常に手間だったので、こうした組合の措置には感謝しかない。


「ほう、リミテッド級の護衛とは随分と高い護衛代になりそうだな。」


兵士も決して嫌味を言った訳ではなく、リミテッド級の探索者を使うという事は、それほどのことだという確認に過ぎない。

シモンに関して特に聴取もなかったのは、リミテッド級という肩書にはそれほどの信用も付いてくる、という事なのだろう。


流石にサンについては色々質問されたが、正式に発行された身分証の効力に疑いはなく、一行は無事に王都へ入る事ができたのである。



王都サイノスは、幾十にも重なった防護壁の内にまで川が流れているほど巨大な都市である。

緑豊かな街の人口は四十万を越え、人族の領域では五指に入るほど栄えた都市であり、穀倉地帯にある首都は刈取り時期の麦の色に倣って「黄金の都」と呼ばれている。


検問所を出たロウ達は、そのまま旅人が乗ってきた馬車や騎獣を預かってくれる輸送組合の施設に向い、乗ってきたオーグを預けてから徒歩で街の中心部へと向かう。

街中での騎乗は、一般人には認められていないのだ。


王都に入ったと言っても、ここからサキが住む屋敷までは半日もかかる。街中を廻っている辻馬車はあるのだが、料金が高いため利用する者はあまりいないようだ。


ロウ達も王都の街並みを眺めながら、ゆっくりと歩いていく。


巨大な街だけあって、建物の敷地には余裕があり、ラプトロイのように隣同士で壁を共有しているような建物は殆どない。

街の中心部に近付くほど、きれいに直角に交差する道路、滑らかな石で整備された広い歩道、等間隔に植えられた街路樹など、整然とした街並みが大国らしい洗練された雰囲気を醸し出していた。


目抜き通りの商店も、間口を色取り取りの布や旗で飾り付けて一層華やかな雰囲気を出しているし、街を歩く人々の服装も鮮やかな色で染められた着物が多いようだ。


人間族が七割を占める都市であるが、他種族への差別は厳重に取り締まっており、街行く人に中には、獣人族や妖精族もよく見かけられる。


ロウとディルは王都に住んでいたこともあるし、毎年のようにサキの元へ訪れているので慣れているが、ハクとサンは初めて見る王都の様子に興味津々で、キョロキョロと辺りを見渡しているようだ。

シモンも何度か来たことがあるのだが、やはり人通りも多く華やかな王都の様子に心躍り、顔が上気している様子が見て取れた。


そんな街の喧騒の中を途中何度か休憩を挟みながら歩き、徐々に王都の中心部へと近付いて行く。


やがて一行は石壁で囲まれた広大な屋敷の前で足を止めた。

サキの屋敷は平民街と貴族街を分ける防護壁の近くであり、商売で成功を収めた者や上位探索者達が住まう一角にあった。


緑の芝で覆われた庭園の先にコの字型に配置された三棟の建物が見える。サキの生活拠点である住居棟を中心に、左にあるのが錬金術の研究棟、右側は使用人が住む雑居棟で、この辺りの建築様式でよく見られる作りである。


貴族屋敷ではないここには門番などはいないので、ロウは自分で鉄格子の門を開け、敷地内の石畳の上を歩いて屋敷へと向かう。


屋敷の扉の前に立ち、訪いを告げようとノッカーに手を伸ばした時、真横から弦が弾かれる音が響き、ロウに向かって魔法矢が放たれた。


「っ!」

「なっ!ロウ!!」


ロウは即座に魔法吸収の魔法陣を展開し、向かってきた魔法矢を陣に吸収して無効化すると、次弾に備えシモンとサンにも魔法陣を展開する。


しかし、ロウが魔法攻撃で反撃することは無い。自分に魔法攻撃を仕掛けてきた者が誰であるか分っているからだ。


左側の研究棟の窓越しに獲物を狙う目で魔法弓を構えているのは、ロウの師匠【黎明の錬金術師】サキその人であった。

そして、厳しいか表情から一転笑顔になったサキは、そのまま窓枠を飛び越えてロウの元へ走ってくると魔法弓を投げ捨て、ロウに抱きついた。


「ロウ!久し振りね!」

「師匠、御無沙汰していました。持ってきましたよ、ボワワロムさんの蒸留酒と米酒。」

「遅かったじゃないの!予定より二十日も遅れているわよ。後でお説教ね。」


お説教、と聞いた途端にロウの背中には冷たい汗が流れた。


ともあれ、ロウを解放したサキに同行者であるシモンとサンを紹介する。


「師匠、こちらは探索者のシモン・ヴェルモートル様、そして縁あって復活した機械人形のサンです。」


その瞬間、サキの瞳が怪しく光った。

シモンとてリミテッド級上位に位置する探索者である。当然、強力な魔獣や高位の探索者から発せられる威圧には慣れがあったが、サキの黒い瞳に見つめられると、言いようのない感覚が首筋から背中へ駆けて流れていった。


「ら、ラプトロイで探索者をしております。ロウには命を救われた恩があって・・・その・・・返しきれない恩が・・・」

「あらあら、ロウの彼女さん?流石ロウね!こんな可愛い彼女を見つけるなんて!歳いくつ?ご家族は健在なの?お料理は得意?ロウは上手なのよ~。」

「え?あ、あの・・・」


サキから矢継ぎ早に発せられる質問に、答える間もなく戸惑うシモンを余所に、サキの視線は隣りに立つ機械人形のサンへ向かう。


「はじましテ、サキ様。ロウ様のお陰で再び稼働するにいたりましタ。戦闘用機械人形(バトルドール)のサンでス。」

「ふ~ん、時代は新しいわね。あら、シャムト帝国にいた子じゃない。良かったわね、動けるようになって。」

「はイ。ロウ様の技術とサキ様の知識に救われましタ。ありがとうございましタ。」

「うんうん、あとでうちのヨキを紹介するわ。お互いに何か共通点があれば良いわね!」

「はイ。」

「あと、ディルも元の姿に戻りなさい。ここで遠慮はいらないわよ。」


ディルがスルスルと動き、本来の姿に戻る。ハイメデゥーサの姿に戻ったディルは圧倒的な存在感を発しているが、その威圧が周りに溢れぬように魔法結界を張り、ディルの存在を隠蔽しているのだ。


「サキ様!こんにちわ!遊びに来たよ!」

「うん!いろいろ美味しいもの用意しているわよ。楽しみにしてて!王都にも美味しいお菓子屋さんができたのよ!」

「わ!わ!レモンケーキより美味しい?一番楽しみにしていたの!!」


こんなに人族の多い街中で、人外の妖魔と人とがこんなに良い笑顔で話しているとは・・・。


決して達成し得ないことなのだろうが、これこそがロウが望む、人と魔が共存する世界なのだろう。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ