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辺境の道具屋  作者: 丸亀四鶴
27/62

27.道具屋の深淵の秘宝


金属がぶつかり合う音、稲妻が起こす爆発音、固いモノが折れ砕ける音が充満していた空間は、今は静寂に包まれていた。


死霊騎士やその眷属死霊兵との戦いで相当の傷を負ったロウもシモンも、ディルの治療魔法で傷後も残さず完治している。ただ、失った血液と蓄積された疲労まで癒す魔法ではない。

二人とも背中合わせで座り込み、ギリギリまで減った体力と魔力が少しでも回復するのを待っていた。


「ロウ、やっと会えたな。」

「いえいえ、いつもお会いしておりますよ。」

「そうじゃないさ、本当のロウに、私の恩人のロウにやっと会えたという事だよ。」


そう言ってシモンは身体をずらし四つん這いの格好でロウの正面に移動すると、今度は膝を揃えペタンと尻を落として座り、今までロウすら見た事の無いような笑顔でロウに語り掛けた。


「あの時助けてくれてありがとう。私を見捨てず、迷宮の外まで連れ出してくれた。」

「い、いや、もう大分前の事ですし・・・」

「君には感謝しかない。私は君の為ならこの命も差し出そう。」

「あの~せっかく助かったのですから、命というのは・・・」

「そうだ!黒エルフ!ロウ様に引っ付くんじゃない!!」


突然ディルが割り込んできてロウに抱き付き、そのまま抱えて鎌首を上げシモンから引き離す。


「はは、大丈夫だよディル。君の御主人を取ったりはしないよ。私はロウの後ろを歩くだけで良いんだから。」

「ふ~ん、そうなの?」

「ああ、隣りになんて高望みはしないさ。時々振り向いてくれればそれで良い。」

「こらこら二人とも。僕は誰のモノでもありませんよ。」


ロウはディルの腕の中で人間族の姿に戻り、地面に降ろすようディルに言う。戦いは終わったが、ここでやるべきことはまだまだ沢山あった。


「それよりも・・・とても強い魔力を持っていますね、あの剣達は。」


祭壇に向かうと、相変わらず台座に突き刺さったままの黒い剣、ハクに飛ばされたはずの大鎌、死霊騎士の消滅と共に放置しておいた鎧が整然と置かれてあった。

さらに、その横には白金の輝きを放つ金属のインゴット、透明な液体が入った見事な細工をされた硝子の容器も一緒に置いてある。


これが第十五階層の魔法陣が示していた「力」なのかとロウが【鑑定眼】で調べようとしようとした時、何の前触れもなく黒い剣が台座から離れて宙を漂ってこちらの方に近付いてくると、シモンの前で静止して動かなくなった。


「な、何だ?」


シモンは腰の剣を抜いて構え、動き出した黒剣を警戒していると、黒剣は黒い煙となってその形を崩していき、呆気にとられているシモンの手の甲へ吸い込まれて消えてしまった。

すると今度は大鎌と鎧も動き出す。大鎌がロウの前へ、鎧がディルの前へ移動すると同じように黒い煙となり、それぞれの手の中に吸い込まれていく。


「・・・」

「・・・」

「ロウ様、何か気持ち悪いね。」


シモンの手は籠手が装備されているため見えないのだが、ロウの手の甲には黒い鎌の文様がまるで刺青のように張り付いていた。それはディルも同じでディルの手にも黒い半鎧の文様が浮き出ている。


「まさかと思いますが・・・大鎌よ、出でよ。」


ロウが取りあえず大鎌を呼ぶように唱えてみると、ロウの手から黒煙が舞い上がりそれが収束していくと、ロウの手には自分を散々傷付けた、あの禍々しい大鎌が握られていた。


「・・・」

「・・・」

「もしかしてそれ、ロウ様の物になったの?」

「・・・たぶん皆さんも同じですよ。出て来いと唱えれば出てくると思います。」


シモンとディルがロウを真似て唱えると、やはり二人の手から黒煙が立ち上がる。

そしてシモンの手には先程見た武骨なロングソードではなく、普段からシモンが使っている細剣、黒いレイピアとなって収まっていた。

一方、ディルの方も確かに鎧であるが死霊騎士が着ていた甲冑ではなく、胸下から上を覆う漆黒の半鎧と肘下から手の甲まで保護する籠手、そして額にはシンプルな意匠が彫られたサークレットが装着されていた。


ロウは自在に変化するこれらの武器防具を【鑑定眼】を使って調べていく。


名 称:黒冥剣(魔剣)/所有者固定シモン

能 力:分体生成操作(五本)/闇属性魔法増強/魔力吸収/破壊不能

状 態:良好

原 料:不明


「うん、私にはロウに貰った双剣があるから不要だな。」


名 称:冥布鎧(魔衣)/所有者固定ディル

能 力:魔法抵抗増強/闇属性魔法増強/物理攻撃反射/自己修復

状 態:良好

原 料:不明


「え~こんなの可愛くない・・・」


名 称:死霊の大鎌(魔槍)/所有者固定ロウ

能 力:死霊兵使役/破壊不能/武器破壊/変形

状 態:良好

原 料:不明


「鎌なんて使ったこともありません。そもそも戦闘もしません。」


その能力だけを見れば、おそらくこの世界でもトップクラスの武器防具であり、強い武器を求める探索者や傭兵にとっては垂涎の的であろう。シモンやディルの武器を見ればそれぞれ個人の特性に合わせて形も変形できるようである。本人がそれを必要としているかどうかは別として、だが。

しかも、本人達の思惑とは真逆に所有者が固定されてしまっている。


ロウは残された二つの報酬も調べてみる。


名 称:魔鋼アダマス(魔鋼)/所有者固定ハク

能 力:超硬化/質量操作/破壊不能

状 態:良好

原 料:----


名 称:再生薬(薬)/所有者固定セルダイナー

能 力:身体再生/身体修復/異常状態浄化

状 態:良好

原 料:不明


こちらも見事に所有者が固定されていた。

おそらく「試練」に打ち勝った報酬は、ロウ達が受け取った三種の武器防具以外となると、その時その場にいた者が必要とするモノが与えられる仕組みであるようだ。現に右腕を欠損したセルダイナーには再生薬が与えられている。


「うわぁ・・・なんか、誰かの作意を感じちゃう。」

「所有者固定なんて呪い以外の何物でもないな。しかもロウはあの死霊兵達の主ということかい?」

「ここに置いて逃げましょう!誰も見ていません!」

「ロウ、現実逃避は止そう。この魔剣達、何処までも追ってきそうだ。」

「・・・」

「こ、こら!ハクちゃん!それ、食べるのダメ!」


ディルが気付いて止めようとしたが時既に遅し。白金の魔鋼が自分のものだと知ると、ハクは早速触手を伸ばして取り上げ、そのまま体内に取り込んでしまった。

すると魔鋼アダマスを飲み込んだハクが光に包まれ、全員が目を覆っている間に光が弱まっていく。


やがて視界が戻った三人が見たものは、大きさの変化はないが、元の銀色の身体から光沢のある白金の身体に変わってしまったハクであった。


名 前:ハク

種 族:スライムアダマススライム

状 態:弱興奮

能 力:変異種 使い魔


固有能力:【悪食】【変化】【分体】【融合】

特殊能力:【属性魔法(火)】【重力魔法】【物理魔法抵抗】【空間魔法】

通常能力:【感知】【索敵】【超硬化】


「・・・もうハクちゃんが最強なんじゃないかな?ディルも勝てる気がしない。」

「ディルさん、奇遇ですね。僕もそう思っていたところです。」

「まあ、使い魔なら主を襲うことなんてないから。良いんじゃないか。」


主の心配を余所に、ハクは早速人型に変化してから笛を取出して幾つかの音を出してみたが、少し首を傾げる仕草をしてまた笛を体の中に収納してしまった。

自分の能力が上がったので、笛も上手になったと勘違いでもしたのであろうか。


「まあ、報酬の事は後々考えることにして・・・ロウ、ここからどうやって脱出するつもりだ?」

「そうですね、取りあえず十五階層にあった魔法陣を探しましょう。死霊兵が消えたのでどこかに浮き出たかもしれません。」

「そうだな。それしかないだろう、探して見よう。」


ロウ達は四方向に分かれて時計回りに岩壁を調べていく。すると、予想通り祭壇の反対側の壁に小さな魔法陣が浮き出ているのをシモンが発見したのだが、魔法陣を調べていたロウの表は優れなかった。

不審に思ったシモンが訊ねてくる。


「どうしたのだ?ここを出る魔法陣ではないのか?」

「シモン様、これは確かに転移の魔法陣なのですが・・・行き先が【更なる深淵】となっているのです。」

「・・・つまり、この先に進まなければならない、という事か?」


この部屋に現れた魔法陣には、更なる深淵の他にも第二の試練とか、崇高なる竜、などといった物騒な文字が並んでいたのである。これらの文字を見てロウはある結論を出した。

この転移の魔法陣は、ラプトロイ迷宮の中で幾つかの階層を飛ばしてその先の深層にいくためのもので、このまま「飛ばし」で進んでいけば最終階層にいる迷宮主の部屋までいくるのではないか、という事である。


現在は最高到達第二十三階層が最前線なのだが、これまでは地道に降りていくしかなかった移動が、今後は転移装置で降りるような仕組みに変わっていくのかもしれないと。

未だ転移魔法が確立されていないこの世界で、この魔法陣を研究し古代文字と紋様の関連を解明していけば、実用に向けて一気に加速するかもしれない。


だが、それはロウにとってはあまり関係の無いことで、今は第十五階層に戻る算段をつけなければならない。この魔法陣が指定する【行き先】を書き替えるか、それとも新たな転移魔法陣を作るのか、二つの方法から確実に戻れる方法を選択しなければならないのだ。


「いや、戻るための魔法陣を新たに作ります。これを書き替えても上手くいくとは思えないのです。」

「それは・・・ロウが言っている「場所」の部分を書き替えるだけではだめなのか?」

「はい、第十五階層の魔法陣は、起動させる陣と実際現れた陣に異なる部分がありましたから。」

「君はあの一瞬で魔法陣を暗記したのか?いやはや・・・恐れ入ったよ。」


ロウは第十五階層で魔法陣の光に飲まれた時、壁にあった魔法陣とは異なる魔法陣が足元に出現したことを不審に思い、その紋様と古代文字を暗記すべくずっと観察していたのだ。

つまり、ロウがこれから作らなければならない魔法陣は、第十五階層で足元に現れた魔法陣を改ざんしたものでなければならないのである。


ロウは土魔法を【錬成】を使い、祭壇近くの地面を鏡面のように滑らかな状態に変化させた。そしてあの時必死に記憶しておいた十五階層の魔法陣を具現化すると、そのまま鏡面上に投影して地面に定着させる。続いて【錬成】を使い、場所を指定する必要な部分を書き替えて行ったのであった。



この空間から脱出するための魔法陣も完成し、魔力を流せば起動するだけの状態である。ロウはディルとハクに小さくなるように命じ、未だ意識が戻らないセルダイナーの元へ行った。

そして、ロウは魔法拡張鞄から上級回復薬を取出し、意識を失ったままのセルダイナーに飲ませると、途端にセルダイナーが低い呻き声をあげ、意識が覚醒したのかゆっくりと瞼を開けた。


「気が付いたか。」

「お、俺は・・・スケルトンにやられて・・・腹を抉られたのに・・・」


どうやら記憶が混乱しているセルダイナーに、シモンはこれまでの経緯を説明したのだが・・・。


説明の途中で自分の右腕が無くなったことに気が付いたセルダイナーは一瞬呆け、やがて無くなった右腕を抱えるように顔を伏せ、ロウとシモンに涙を見せないようにして泣き続けた。

しばらくして、やっと落ち着いたセルダイナーがシモンの前に来て頭を下げ、第十五階層での身勝手な行動とこの場での不甲斐なさを詫び、ロウにも死にかけた自分を救ってくれた礼を言った。


「あの黒剣は私のものとなった。不服か?」

「・・・いや、俺に受け取る資格なんてねぇ。みんなを巻き込んでしまったうえ、真先に死にかけた役立たずだ。」

「うむ、それを否定しようとは思わないが、これがお前の報酬だ。」

「だから俺にはそんな資格は・・・」

「強力な再生薬だ。腕の一本くらい直ぐに生えてくるらしいぞ。」

「えっ?」

「所有者が固定されていて、お前にしか使えないのだ。さっさと飲み干してその辛気臭い顔をひっこめてくれないか。」


呆けた顔で手渡された再生薬をじっと見つめていたセルダイナーは、誰も開ける事が出来なかった蓋を易々と開け、一気に中身を飲み干した。すると、蛍のような光が腕に集まってきて徐々に形を作り始め、その光が消えた時には彼の腕は完全な状態に再生されていたのである。


「さぁ、これで此処にはもう用はない。上に戻ろう。」


ロウが描いた魔法陣の上に全員が乗り、ロウが魔力を通すと魔法陣が輝き始める。それは第十五階層の魔法陣に匹敵する眩さで、その光が消えた時、深淵の空間には彼らの姿は無かったのであった。


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