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辺境の道具屋  作者: 丸亀四鶴
26/62

26.道具屋の迷宮乱舞


妖人アヤカシビトがこの世に存在してはいけないもの、と烙印を押された理由は何であったのか。

創造神の失敗作とも見放された種とも言われる彼らの歴史は、いつの時代でも理不尽な価値観で歪曲され、人族として認められた事はなかった。


人の世界から拒絶された彼らは、自分の居場所を人の手が入らぬ「魔境」に求め、そこで生き長らえる事にとって強大な力を得たが、それは果たして人としての営みであったのか、それとも人外としての生き方だったのか、知る者はいない。

そして人から外れた者達の中には、稀に「古の魔法」の記憶を持つ者が生まれるようになる。


それが「古き者」。彼らはいつも突然現れ、その存在を知られる事なく森羅に紛れて生きているのだった。



まるで逃げ場のない闘技場、そんな地下空間に死霊騎士が召喚した百体もの死霊兵が犇めき合っている。


これでもシモンとディルによって半数は無力化したのである。


二つ名【雷滅の黒蝶】シモンは向ってくる武装したスケルトン、「闇の使徒」の眷属死霊兵を撫で斬り、視界の隅に矢のように走る銀色の姿を見て笑みを浮かべていた。


「ふふふ、やっと、やっと会えたな。」


まだ弱かった自分を窮地から救ってくれた銀の狐人の、その美しい毛並みを忘れたことはなかった。だからこそ数年前、偶々街ですれ違った男が、あの銀色だという事は直ぐに判った。なぜなら彼と同じ黄金の瞳を持っていたからだ。


何度も何度もロウの店へ通い、お礼を言っても知らぬ顔をされてきた。

それどころか、剣を失った自分により強い、まさに自分能力にピッタリの剣を信じられない安価で調達してくれた。美味しい珈琲も勇者のレシピを再現したパスタやオムライスといった軽食もそうだ。いつも自分が望むものを与えてくれるのだ。


そして、あの時と同じ銀色が自分と同じ空間で、自分と共に戦っているのだ。シモンの胸内は熱く、歓喜に打ち震えていた。


「さぁ!とっとと終わらせようか!雑兵ども!私の邪魔をするなぁ!!」


シモンは魔剣を鞭化させると、気合と共に押し迫る死霊兵を薙ぎ倒した。

雷鞭が行き過ぎると黒い雷が縦横無尽に走り、死霊兵を次々に破壊していく。黒雷はどれ程の熱量を持っているのか不明だが、黒雷の直撃を受けた死霊兵は炭化し、砂山が崩れるように砕け散った。


「おおりゃあああ!!!」


思い切り振り被った雷鞭を振り下ろすと、洞窟全体を揺るがすような爆発が起き、十数体の死霊兵が砕け散った。

その時のシモンは、周囲が騒ぐような優雅な「黒蝶」などではなく、まさしく悪鬼羅刹の様相であった。事実、シモンの放った気合が聞こえた時、ロウの後ろ髪が逆立ったのは言うまでもない。


そのロウも、死霊兵達の間を掻い潜り、打ち倒し、死霊騎士に向かって疾走していた。一方の死霊騎士も、自分に向かってくるロウを身動きせず髑髏の窪んだ目の中に赤い光を灯して見詰めている。

やがて死霊兵ではロウを止められない事を悟ったのか、肩掛けにしていた大鎌を構え、あの黒い魔力を武器に纏わる。そしてもう一度【冥府の咆哮】を吐き出して百体の死霊兵を呼出し、シモンとディルに向かわせた。


ロウは構わず疾走を続ける。

あの二人の実力なら死霊兵などモノともせず殲滅することは分っている。だからこそロウの役目は連続して死霊騎士に攻撃を仕掛けて咆哮をあげさせないようにし、これ以上死霊兵を召喚出来ないようにする事なのだ。


ロウは走りながら赤と緑の魔法陣を発現させると、死霊騎士に向かって炎矢と風の刃を連続して放つ。

だが、死霊騎士は向かってくる炎矢と風刃を、まるで属性魔法そのものを吸収しているかのように大鎌の一振りで消滅させてしまった。


ロウもあの程度の魔法攻撃で死霊騎士に有効なダメージを与えられるとは思っていない。ロウは最後の死霊兵の壁を飛び越えると、そのままの勢いで短槍を背中に着くほど振り被り、死霊騎士に向けて思い切り振り下ろした。


「ガキイィィィン!!!」


振り下した槍を大鎌が受け止め、鈍い音と共に火花が散った。

ロウは衝撃の反動を利用して後方回転し、死霊騎士の背前に着地するとすかさず短槍を突き入れるが、死霊騎士はそのままの姿勢で大鎌を旋回させて側方から槍を弾き、そのまま身体ごと振り返って大鎌を持ち上げ、ロウ目掛けて振り下ろした。


ロウは左に飛んで大鎌の刃を避けたのだが、大鎌の鋭い刃先は地面を容易く割って深く食い込んだ。

真横に逃れたロウに、間を置かず鎌が追ってきてロウを襲う。死霊騎士は巨大な大鎌を易々と片手で持ち、まるで小枝を振るかのように大鎌を扱っている。筋肉を持たぬ身体なのに恐ろしい膂力である。


死霊騎士の大鎌は触れたモノを全て破壊するという。まともに斬られれば、ミスリルの剣でも斬る事が出来ないディルの鱗さえ切断してしまうほどの切れ味を持っている。

ロウの短槍もそこそこ優れた魔法槍だが、あの大鎌と刃を合せれば容易く破壊されることは目に見えていた。


名 称:ドラゴンテイルスピア(魔法槍)

能 力:伸縮(二倍)/貫通力上昇/障壁

状 態:良好

原 料:古代竜の尾骨/緋緋色金


だが、ロウの槍は大鎌の刃を数回なら弾き返すほどの強度を持つ、見えない【障壁】を展開させているので、早々に勝負がつくほどヤワな魔法槍ではないのだ。

それに武器というモノは必ず長所と短所を持ち合わせている。それはもちろん死霊騎士が易々と振ってる大鎌にもあるのだ。


「鎌という武器は変化自在の動きで敵を翻弄します。でもですね、柄の部分は存外単調な動きなんですよ。それが最大の弱点なのです。」


ロウは自分の短槍の柄と大鎌の刃を合せるのではなく、死霊騎士の懐に飛び込んで柄と柄をぶつけて弾き返した。注意すべきは相手が鎌を曳く時だけ。それすらも背中に張り付いたハクが触手を【硬化】させて弾き、起動をずらしてくれるのだ。


ロウと死霊騎士の鍔迫り合いである。力に勝る死霊騎士はグイグイとロウを押し込み、時に引き付けてロウを揺さぶって来るが、ロウも離れようとしない。

しばらく密着したままの打ち合いが続いて膠着状態になる。


死霊騎士の窪んだ眼窩に怪しく火が灯った。

それを見たロウが警戒していると、死霊騎士の大鎌の柄から黒い魔力が立ち昇り、大鎌の柄の下端、つまり石突き部が刃渡り50cm程の剣へと変形した。そして死霊騎士はロウの槍を軸に柄を引き気味に下から回転させ、石突きの剣でロウを下から斬り上げたのである。


戦いの最中に武器の変形などロウも予想しえない事象である。

前屈みになっていた上体を咄嗟に反らして避けようとしたが、ロウの回避行動もハクの部分硬化も間に合わず、死霊騎士の攻撃はロウの胸をハクごと斬り裂いた。


ロウは回避の勢いを殺し切れず、そのまま後ろ向きに転倒する。斬られたハクは何事も無かったように再生していったが、ロウの白いシャツには紅いしみが拡がっていた。

死霊騎士は好機とばかり、地に背を付けたロウに大鎌を振り下ろすが、ロウも横に転がってこれを避け、下半身のバネだけを使って起き上がると地面を蹴って再び接近戦に持ち込んだ。


しかし死霊騎士の大鎌が、鎌と剣の双刃の武器と化した事によって、ロウが大鎌の懐に入ってもあらゆる間合いから襲ってくる二つの刃が少しずつロウの身体を斬り裂いて行った。変形した死霊騎士の鎌はそれほど自在に動き、素早いロウ動きを捉え始めたのだ。

致命傷にはなっていないのだが、ロウの身体は何か所も切られて衣服の上まで血が滲んでいる。


このままでは徐々に体力を奪われ、ロウは完全に不利な状況へ追い込まれる。ロウは死霊騎士が振るう大鎌の死角で勝負する戦法の変更を余儀なくされた。

背後にいるシモン、ディルと死霊兵との戦いはまだ続いている。

だが、二人の戦闘力は死霊兵を圧倒し、二百以上いた死霊兵がすでに半分以下に減っていた。


ディルとシモンが死霊兵を掃討しこちらに参戦してくるまでもう少し時間が掛かりそうだが、ちまちました時間稼ぎの戦法が通用しなくなった以上、あとは持てる能力をすべて使った力押しで行くしかない。


「古代魔法 炎球召喚、氷矢召喚、風刃召喚、土槍召喚。」


ロウは一旦距離を取って自分の周りに赤青緑黄の魔法陣を展開し、炎球、氷矢、風刃、土槍を召喚して一斉に死霊騎士目掛けて放った。

対する死霊騎士は大鎌を盾の如く面前に突きだし、黒い靄を一層湧き立たせる。黒い靄は闇魔法なのか、他の属性魔法を容易く吸収し、ロウの攻撃は死霊騎士の体まで届くことはなかった。


「それだって織り込み済みですよっと!」


ロウは魔法陣を宙空に残したまま、魔法攻撃を継続したまま死霊騎士に向かって踏み込み、短槍を突き出すと同時に魔法槍の能力【伸縮】を発動させて槍を伸ばした。

防御のタイミングをずらされた死霊騎士は槍を弾く事が出来ず、ロウの槍は死霊騎士の脇腹付近を捕え、鎧を貫通して背中方飛び出した。


さらにロウは次の攻撃に移る。

短槍を元に戻して再び突き入れると同時に、九本の尾の先端を槍のように硬化させて伸ばし、短槍も含め計十本もの槍を自在に操って死霊騎士を攻撃した。

手数が十倍となっての波状攻撃「九尾の槍」である。数本の尾が死霊騎士を捉えて鎧を打ち抜き、勢いに押された死霊騎士がじりじりと後退していく。


だが、さすが厄災級の魔物死霊騎士といおうか。後方の魔法陣が消滅して魔法攻撃が無くなると、すぐさま黒い靄を回収して大鎌を高速で振り回し、「九尾の槍」を弾き始めた。

しかも、ただの防御ではない。手数に勝るロウの攻撃を弾き返す力が増していき、ロウの体勢が崩れた機会を狙って石突きの剣を突き入れてくる。攻撃の手を止められないロウは、何度か避けることに失敗し頬や脇腹を抉られ血塗れになっている。


「ハク!!横から突き入れるのです!」

「・・・」


ハクがロウから離れていき、旋回する大鎌を避けて側方に回り込むと、四本の触手を鞭のように撓らせて死霊騎士に攻撃していく。これには死霊騎士も対処しきれず、ハクの触手に打たれ黒い鎧が鈍い音を立てる。

ハクの強力な打撃を受けても死霊騎士は倒れない。


その時、ロウの背後での戦闘音が小さくなり、シモンかディルか、どちらか片方の戦いが終わった気配が伝わってきた。


その気配をどう受け取ったのか。

死霊騎士はハクの攻撃を左手一本を盾にして受けると、右手で持った大鎌を真横に振り被って渾身の力で横薙ぎし、連続攻撃してくるロウの短槍と九尾を全て吹き飛ばしてから、体勢を崩したロウ目掛けてそのまま大鎌を振り下ろした。


ロウは死霊騎士に対して横向きになっており、大鎌の位置が見えていない。見ている者がいれば死霊騎士の勝利を誰も疑わなかったその瞬間、大鎌を片手で振り上げた死霊騎士の手首をハクの触手が切断した。

力の固定点を失った大鎌があらぬ方向へ飛んで行く。


好機。


ロウは大鎌を飛ばされ、勢い余って踏鞴を踏んだ死霊騎士の背後に回り、腕を首に回し尻尾で両手足を拘束して羽交い絞めにすると、自分の方に高速で移動してきたディルに向って叫んだ。


「ディル!!このまま一緒に吹き飛ばせ!」


この主従は強い絆と堅い信頼で結ばれており、ディルはロウなら絶対大丈夫と遠慮なく尻尾を振った。


ディルの尻尾は死霊騎士の胸下を捉え、ロウと共に背後の壁へと吹き飛ばされていく。だが、ロウは壁に激突する直前に身体を捻り、死霊騎士を間にして岩壁打ち付けられると、衝突の痛みを堪え離した右手で死霊騎士の後頭部を壁に押し付けて【錬成】を発動し、死霊騎士の顔面を壁の岩と同化させた。

そして同じように両腕も岩壁と同化させ、完全に動きを封じたのである。


ロウはその場で膝を付くも、右手と頭を固定され動けない死霊騎士の魔核の位置を【鑑定眼】で探し、それが頭にあることを見つけると近付いてきたディルに言った。


「ディルさん、あ、頭。頭の中に魔核があります・・・」

「わかった!」


それだけ言ってロウが完全に座り込む。

ディルはもがいている死霊騎士に近付いて行き、抜き手を後頭部に突きたてて鎧と頭蓋を貫通させると、そのまま魔核を貫き、完全に破壊したのである。


死霊騎士の身体から力が抜けていくと同時に甲冑の中から黒い煙が立ち上り、中身を失った黒い鎧が音を立てて地面に転がった。

甲冑の中のスケルトンが消滅したのである。


「ロウ!やったな!」


いつの間にか死霊兵を全て殲滅したシモンがロウの傍に来て立っていた。流石にディルとハクは無傷だったが、ロウとシモンは血塗れの傷だらけで、武器も防具も壊れボロボロだった。


やがて床一面に転がっていた死霊兵の残骸も、湧き立つ黒い煙と共に消滅していく。


四人は「試練」を勝利で終える事が出来たのである。


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