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辺境の道具屋  作者: 丸亀四鶴
21/62

21.道具屋の黒い闇


魔道具とは使用者の魔力を使って魔法発動と同様の様々な事象を生み出す道具であり、少ない魔力でも発動させる事が出来る物もあり、一般人にも広く使われている。

それは魔導回路を組み込んだ道具と魔法効果を付与した道具、古代魔道具、迷宮産魔道具に分類されている。


魔導回路を持つ魔道具は、魔力を内包する石「魔核」を発動媒体として使う魔道具の事で、この世界で最も流通している一般的な物である。

魔獣の体内で生成される「魔核」は、大なり小なりこの世界の何所でも手に入れ易い物であり、道具に組み込み、少ない魔力を通すだけで魔法を発動する事が出来るのだ。

ただし、魔核に内包される魔力には限りがあり、魔力が無くなれば魔核を交換しなければならないし、着火棒や魔水筒のように属性を必要とする魔道具は、魔法士によって魔核の内包魔力を「属性変換」してやらなければならない。

要は安価で誰でも使える物だが、その性能は魔核の質と魔法士の力量に左右される道具である。


魔法付与は魔法陣を発動媒体に使った魔道具で、ここ「道具屋」で生産される魔道具の殆どがこの形態である。

ただし、魔法付与には言わずもがな魔法陣を描く知識と技術が必要であり、必然的に古代文字を熟知しなければならない。

魔法陣は「事象」を表わす図形と「命令」を表わす文字からなるものであり、これらが正確に組み合わされないと魔法は発動しないのだ。


古代魔道具はこの世界の歴史が書物として残される以前に作られた物「遺物」と呼ばれ、古代文字を組み込んだ魔法陣を発動媒体として使われている。

最も有名な魔道具は、探索者組合や魔道士組合が持つ、「鑑定水晶」であり、対象の体液で内包魔力と種族を見分け、魔法を行使した後の残留魔力でその者が持つ能力を見分ける道具である。

非常に複雑な魔法陣で付与されたこの鑑定能力は、創世期に多くの人族からサンプルを取り、それを記号化したと云われている。

その他、隷属魔法も古代魔法が発祥とされており、等しくあてはまるのは対象の体液、即ち血液を媒体と成す物といえるだろう。


迷宮産魔道具は迷宮や魔境で長期間または高濃度の魔素に曝された事によって魔道具化した物で、魔道具になるまでの過程や、魔法を発動回路がどうなっているのかは、長年研究され続けてきたが不明である。

最近発表された論文では、迷宮産魔道具は方向性を持たない魔力の塊であり、普段は魔力を使わない人族と等しい、という説が有力視されている。

人族も魔法を行使する場合、内包魔力に「詠唱」という方向性を持たせることで魔法を発動させるのと同じで、使用者の魔力を得て「動なる」魔力が発揮されるという説だ。


この世界、魔道具無しでは民の生活が成り立たない。

魔道具を作る職人達は、より性能が良くより便利な魔道具を作ろうと研鑽を積んでいるのである。



自由都市国家ラプトロイでは収穫期も中盤に差し掛かり、様々な荷を積んだ荷車と多くの人が行き交う街の大通りでは、露店商人の客寄せの声も相まって普段以上に活気づいていた。

収穫期はこの都市国家に住む者にとって「稼ぎ時」であり、少しでも多くの利を生もうと誰もが必死になって活動している。

利が生まれればそれを食や衣料、または娯楽へと、刹那に生きる辺境の民は街に落としていき、金が動く事で経済が回り始め、緩やかに生活の質が向上していくのだ。


そんな大通りの喧騒も届かない裏路地にある「道具屋」は、相も変わらず客が一人も訪れていなかった。


魔道具の灯りが照らす店内に店主はおらず、カウンターに座る銀色の人型スライムが店番をしていた。

店主のロウはというと、工房に籠って生産活動に精を出している。


今回の依頼者は迷宮探索を生業とする中堅探索者の男で、迷宮内での熱さ抵抗を高める魔道具を作って欲しいとの注文である。

ラプトロイの迷宮で熱および暑さ対策が必要なのは第十二階層と第十三階層。この階層は溶岩地帯で足場も狭く飛行型魔獣が跋扈しているので、上を目指す探索者にとってこの階層を突破することは一つの試金石となっているのだ。


巷に出回っている熱対策の魔道具といえば、殆どが鎧兜やマントの類で、稀にアクセサリー系の小物もあるのだが非常に高価であり、なかなか手にする事が出来ない代物だ。

それ故前者の需要が多いのだが、この階層で魔獣と戦闘になった場合、狭い足場に加えて素早い動きの魔獣に対応しなければならず、出回っている魔道具では逆に動きが拘束されて苦戦を強いられる事もある。


この階層まで到達できる探索者はセンター上級に数えられ、それなりの蓄えは出来ているのであれば、こうしたオーダーメイドの魔道具を注文する者も少なくない。


さて、店主のロウは工房で無心に制作を続けている。


依頼主は己の内包魔力が小さい事を自覚しており、常時発動で少量の魔力を吸い続けるような魔道具ではなく、必要な時に魔力を流して使用するタイプを望んでいる。出来るならば首飾り風の物が良いとも注文が付いていた。

依頼主が耳に穴を開けることを嫌がっていた、というのが第一の理由になるのだが。


魔道具の効果を考えると、アクセサリー系の魔道具ならば密着型の物の方がより効果が高くなる。


最も魔法効果が高い物は耳飾りである。耳に穴を開けて固定するので外れることも少ないし、使用者の魔力を直に取り込む事が出来るからだ。

難点は物自体が小さいので魔核を使うことは出来ず、魔法陣を描くのも難しいので高価になる事、男性探索者からは敬遠されがちである事などがある。


耳飾りと同等の効果が得られるのが腕輪であるが、形状によっては径を手首より大きく作らなければならないため、籠手や皮手袋の装着を阻害してしまう物もあったり、武器を振う時に腕輪が暴れて感覚がブレてしまうと言った弊害もあった。


一方、ネックレスや首飾りは使用者との密着度も低くなり、魔力感知効率も落ちるため期待通りの効果を得られない物が多い。しかし、魅了や支配などの精神攻撃や認識阻害などの持続効果を付与する場合は首飾り形状である方が効果的だ。


したがって、首飾り風の魔道具で必要な時にだけ発動させるとなると、特別な回路や魔法陣のような発動媒体が別途必要になるのだ。

この事を踏まえ、ロウは火属性の魔核と熱に対する抵抗を発動する魔法陣の二段構えにした魔道具を作ることにした。


宝石の替わりとなる魔核は、発火性の唾液を吐くゲーダという陸トカゲ型魔獣の魔核を【錬成】で圧縮、内包魔力を火属性の魔力に変換した。圧縮した魔核はそれなりの強度を持つので、魔核を宝石のようにカッティングし、アクセサリーとしての価値も高めた物だ。


そしてロウは今、作業台に向かって座り、彫金の作業をしている。魔核を収める台座部分に魔法陣を彫っているのだ。


金属を彫る場合、通常ならノミとハンマーが必要だが、ロウの場合は極細のノミ先に魔力を集中させて、銀板の圧縮率を変えて金属を彫る手法を取っていた。

もちろんこのような技術は誰にでも出来るという訳ではなく、錬金術の能力を持つ者や魔力具現化能力を持つ者に限られるのだが。


銀板は直径2cm程しかなく、その極小範囲に魔法陣を描くのは至難の業である。だが、ロウはこんな事など何とでもないとばかり、片目用の拡大鏡をつけて黙々と作業を続けていた。

やがて複雑な紋様の魔法陣が描き終わると、ロウは普通のランプに火を灯し、自分の魔力を通して銀板の魔法陣を起動させる。そのままランプの火に掌をあてても熱くない事を何度か確認し、ロウは少しだけ口角を上げた。


紅い魔核を銀板に乗せ、錬成能力で台座の四方に魔核を固定する爪を融合させる。

続いて首紐だが、デルスパグラーという蜘蛛型魔獣が吐き出した糸を織ったものを用意する。見た目は細い銀色の糸のように見えるのだが、実は伸縮性、破断耐性に優れた糸を数十本も束ねてあるので、刃物でも切ることは困難な代物だった。


やがて全て組み上がった首飾りをロウは【鑑定眼】で確認する。


名 称:レジストネックレス(火)

能 力:火属性魔法増幅/火属性抵抗増強/

状 態:良好

原 料:真銀/ゲーダの魔核/デルスパグラーの糸


作業工程は三日間。納得のいく品を作り上げたロウは満足そうに微笑み、作業灯を消して店の方へ移動していった。



出来上がった首飾りを依頼主に納品して七日も経った日の午後、路地裏の「道具屋」へふらりとリミテッド級探索者シモンが店を訪れた。


「いらっしゃいませ、ヴェ、シモン様。」

「やぁ、ロウ。先日の逢引き以来だな。息災かな?」

「・・・シモン様。逢引きではなく買物にお付き合い頂きましてありがとうございました。」

「ふふ、何と言おうと今や私達は相思の仲だと思われている。言が真を作れりとはよく言ったものだな。」


実際幾人かが二人が一緒である様子を目撃しており、探索者組合ではあのシモンが男を連れて歩いていた、恋人同士のようだった、と散々騒がれていた。

シモンは流れるような動作で椅子へ座ると、それまでの笑顔を一変させ表情を消してロウを見詰めた。


「今日は君に謝罪しに来たのだ。」

「え?シモン様から謝罪をお受けする様なことに思い当たりませんが・・・。」

「うむ、私がこの店に紹介した探索者ビエルの事だ。」

「あぁ、少し前に熱抵抗の首飾りを納めさせていただきましたが。」

「代金は受け取っていないのだろう?」

「いえ、半金だけ受け取っています。残りは今の探索が終了し、効果を確認できてから、と。」

「その半金は私が支払おう。」


彼女の申し出に状況が飲めないロウはジッとシモンを見詰めるが、その表情は至って真剣で冗談を言っている感は微塵もない。

しばらく見つめった二人であったが、先に視線を外したのはシモンで長い溜息の後、ロウに迷宮で起こった事件を告げた。


「ビエルが死んだ。十二階層の溶岩の川に落ちたそうだ。」

「理由は・・・御存知なのですか?」


シモンは軽く息を吸い、ビエルが死に至った報告書の内容をロウに語った。

彼を含めた五人の探索者パーティが十二階層を移動している時、殿を歩いていたビエルが突然苦しみだして暴れ、首飾りを引き千切って投げ捨てるとそのまま足を滑らせて溶岩の川へ落ちていったという。

その場所は溶岩の川に架かる石橋で、人がすれ違うのがギリギリという狭い場所だったそうだ。


「なぜ突然暴れ、何の理由があって耐熱魔道具を外したのか、誰も判らないそうだ。因みに組合の検証では首飾りの性能に不備は見つかっていない。」

「では、その証言そのものが疑わしい、と?」

「それを証明する術は我々には無い。ロウが作った魔道具はビエルの遺品として回収したパーティの物になった。」

「そういうことですか。仕方ありませんね。」


シモンもロウと同じ事を考えているのだろう。あの首飾りは一緒にいた仲間に奪われたのだろう、と。

探索者の間では、このような話は良く聞くモノだった。迷宮で起こった事は全て「自己責任」で片付けられ、傍で見ていた者の証言だけが「事実」として受け入れられる世界なのだから。



それからまた数日たったある日、ラプトロイの迷宮で再び悲劇が起こった。

ビエルが迷宮で死んだ時に一緒だったパーティのリーダーである探索者ゼラールが、彼が死んだ場所と同じ十二階層にある溶岩川へ転落死したのだ。


その時、ゼラールが石橋の半分ほどに到達した時に対熱魔道具の効果が切れたのだ、と仲間達が証言している。

灼熱地獄の階層で、忽ちゼラールの体中に熱が襲い掛かり、肌の露出部分は焼け爛れ、ゼラールは両腕で全身を掻き毟りながら暴れ回り、遂には足を踏み外して溶岩の川へと落ちていったらしい。


この時、ゼラールはビエルの遺品である熱耐魔道具の首飾りを身に着けていたという。


しかし、一緒にいた彼らは気付いていなかった。ゼラールが橋を渡る時、彼の足元で一瞬白い光が輝いた事を。

見る者が見ればそれが魔法陣であることに気が付いたのだろうだが、魔法陣の光は一瞬で消えてしまったため、仲間の誰もが認識していなかったのである。


そして、迷宮で魔法陣が輝いたその瞬間、街の一角にある、とある店のカウンターでこんなことを呟いた男がいた。


「私はそれほど寛容じゃないのですよ。」


その者はゼラール達に先行して十二階層まで潜り、必ず足を置かなければならない狭い石橋に魔法効果消滅の魔法陣を仕込んで置いたのである。


妖人族とは、賢く、狡く、戦いに長け、弱者を喰らう。長く生き、多く魔素を吸った個体は、人族に括る事が出来ないほどの強大な力を持ち、時に人族にその牙を向けてくる。


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