三つ編みの包帯
見慣れた天井を私は見上げていた。すぐに、そこが自分の部屋であることが分かった。はっとして首を掴むと、そこには包帯がまかれ、一通りの治療が施されていることが分かった。傍には誰もいなかったが、外は騒がしかった。
「やはり、ゆ…が」
「殺す……残酷なのでは……」
「どうすれば……」
何を言っているのかはほとんど聞き取れなかったが、ただ一つはっきりと分かっていることがあった。私は、大切な儀式に失敗したのだ。しかも、親族全員が見守る中で。カルド直々に否定されたのだ。依り代となるには、血の適性が足りなかったのだ。何も考えられず、周囲の期待を裏切ってしまったことが、ただただ、悲しかった。そして、実の祖母に殺されかけたということもまた、私を苦しめた。
「っう……」
首の傷がずきずきと痛んだ。しかし、心の傷の方がずっとずっと痛いように私には感じられた。
「浮かない顔だなァ?」
「……カルド」
いつものように現れたカルドに目を合わせようとした途端。
「っな、うぇ…あ……うぇえええええ……」
びちゃびちゃと音を立てて、吐瀉物が床に零れ落ちる。なんだこれは。どうして。
「おおっとぉ!今回は吐き気かぁ、やるねぇ!」
ニタニタと笑いながら飛び回る姿は禍々しい蛇そのものだ。コイツが何かしたのか。こみ上げる吐き気を堪えながら、キッと涙目でカルドを睨むと、カルドはまた嬉しそうな声をあげる。
「ケケケケケッ!!俺との適性の儀に失敗した奴はなぁ!アレルギーみたいなもんで、俺の傍に居れなくなるのよ!!!ちゃーんとおめぇのとーちゃんかーちゃんにも伝えといてやるから安心しなぁ!!ま、それでどうなるかは知らねえけどなァ!!!」
その言葉を残してカルドが外へと消えた後、急に辺りが静寂に包まれた。しばらくして母が扉を開いて部屋に入ってきた。私は期待に目を輝かせたが、母の表情は氷のように冷たかった。母は、私が吐いたものに目もくれず、私を外へと連れだした。その母は、今まで見たどんな母よりも冷淡で、視線がこちらを向くたびに、私はまるで蛇に睨まれた蛙のようになった。
どうして、母様はそんな目で私を見るの……?
悲しくて零れそうな雫を、私は唇をぐっとかみしめて堪えた。
濃い緑が外を流れていく。一体何時間車に揺られたことだろう……。車は、山奥の一軒の大きな家の前でやっと停止した。母に儀式の前に結んでもらった三つ編みの包帯が、やけに気になって、私はそれを握りしめて、少し乱暴に引かれる手に導かれるままにその門をくぐった。中は思ったよりも広く、小さな子どもたちがたくさん遊んでいた。その中には、自分より大きそうな子もたくさんいる。ここは一体どこだろう……。そんなことを思っていると、おもむろに母が口を開いた。
「自由に遊んでいらっしゃい」
有無を言わせぬ母の言葉に私はおずおずと頷き、木陰で母を待つことにした。母は、ここの大人たちと何か話し込んでいるようで、何度か頭を下げている様子が見えた。そして、30分ほどたって、母が戻ってきた。
「これから星はここで暮らします。いいですね。」
言葉の意味が分からず、ぽかんと口を開けると、それを窘められるように睨まれた。
「いいですね?」
「は、はい……お母様……」
どういうことなのか全くわからず、私は戸惑っていた。くるりと踵を返すと、母が行ってしまう。止めないと、止めないと。だが、どうしても手を伸ばす事が出来ない。三つ編みが揺れる。あの時の優しかった母は、頭を撫でてくれた母は、一体どこへ行ってしまったのだろう。軽快な車の発射音と共に、母は、とうとうこちらを一度も振り返ることなく去っていった。私の虚空を掴んだ手は、行き場を失って垂れるほかなかった。




