5ー親の心子知らず
家庭教師にも、シリス殿下にはもうお教えすることがございません。と言わせるくらいだ。
しかしそれも悪い方へと出てしまう。天才だからなのか、噛み砕いて説明することができなかった。
相手が、何が分からないのか分からないのだ。いや、分からないことさえ気付いていない。
書類仕事はできる。だが、それだけで仕事は進まない。
各部署との連携や意思疎通が全く取れない。ほんの少しの気遣いが壊滅的にできない。相手の気持ちを慮ることが、全くといっていいほどできなかった。
おまけに王子なものだから、上から目線でズケズケと話す。そりゃ、嫌われるさ。
人は能力だけでは信頼を得ることはできない。それをフォローして回っていたのがお嬢だ。
第2王子は書類仕事はどんどん片づける。だが、それだけだ。卓上の理論や数字からしか検討しない。それがどういうことになるのか、分かっていない。
お嬢がそれを、現実に生きる人の生活を考えて落とし込む。そして第2王子だけでなく周りがスムーズに進められるように、影からフォローしていたからこそ回っていたんだ。
もう一つ、第2王子の評価を下げている原因がある。
初代国王から王家に受け継がれてきた無属性魔法の才や、聖女の直系子孫である王族たる所以とまで言われている魔力量の多さを受け継いでいない。
残念なことに、ごくごく人並みで王妃の持つ水属性魔法しか継がなかった。
それに比べてお嬢の家ホルハティ家は、過去に王族が降嫁していることもあり、魔力量が膨大で国一番の火属性魔法の使い手だとまで言われている。
お嬢もそれをしっかりと受け継いでいた。お嬢の二つ名にそれは表現されている。『蒼炎の乙女』と呼ばれ、それほど強大な炎を操る。
そんな二人が婚約したのは、お嬢が5歳の頃だ。第2王子を不憫に思った王妃が、無理矢理強引に結んだ婚約だった。王子の後ろ盾にはこれ以上ない家系だと考えたのだろう。
そこまで聞いて親父が大きなため息をつく。
「親の心子知らずとはこのことだな。お嬢様という公爵家の後ろ盾を、自ら放棄したか」
誰もが親父と同じことを思った。王子の足らない部分を補ってくれるのは、この令嬢しかいない。第2王子の力になるだろうと、王妃の親心だ。
それからお嬢は影に徹していた。今や、ネーネルヴァ嬢がいないと第2王子の執務は進まないと、王城に務める誰もが思っていた。なのに、ここにきてまさかの婚約破棄だよ。
あの時一番奥で見ていた王と王妃まで、すぐには理解できなかったみたいだ。それでも、王妃は前に出た。
怒りで真っ赤な顔をして、こめかみに血管が浮き出ている。頭から湯気でも出ていそうな状態で、第2王子に向かって叫んだ。
「シリス! 何を言っているの!? 笑えない冗談はやめなさい! 今日がどんな日なのか分かっているの!?」
「母上! 冗談ではありません! 私はここにいる聖女のアユティ・ミファリファと婚約します!」
「な、な、なにを言って……!?」
王と王妃だけでなく、周りの貴族さえも呆気にとられて言葉が出ないでいる。
そんな空気を読まずに、王子の傍らにピトッと寄り添うように立っていたのが、アユティ・ミファリファ。ミファリファ子爵家の令嬢だ。
ピンクブロンドのクリンとした癖毛に特大のリボンを結び、ベビーブルー色の瞳をキュルンとさせて、これでもかと王子に大きな胸を摺り寄せてくっついている。
王よりも早く、思考の麻痺から気を取り戻した王妃が王子を問い質した。
「どこの誰が聖女だと言うの!?」
「母上! このアユティに決まっているでしょう!」
あまりの予想外の出来事に王妃がふらつき、隣にいた王の腕を取った。ここでやっと王が叫ぶ。
「お前はそんなに馬鹿だったのか! その令嬢は聖女でも何でもない! 誰がそんなでたらめを、お前に吹き込んだんだ!?」
「父上! そんなはずはありません! アユティ本人が、自分は聖女だと言っているのです! 回復魔法だって使えます!」
「この大馬鹿者がッ!! 聖女の回復魔法は聖属性魔法だ! その令嬢は水属性だろうが! 目の色を見ろ、目を! たぶらかされよったか!」
どうやらその令嬢に、自分は聖女だと吹き込まれそれを信じてしまったらしい。
いくら勉学ができるといっても、そんな小娘に騙されるようじゃ、王子なんてやってらんねーぞと思った。
その時もうお嬢はキレていた。望まぬ婚約に、12年間必死で耐えていたのは俺もよく知っていた。見ているのが辛かったくらいに。なんでお嬢がここまでしなきゃいけないんだ? て、思ったのを覚えている。
それを全否定されたのと同じだ。いや、それどころか、婚約は破棄するが側室にしてやるから、執務は今まで通り手伝えと言われた。そんな理不尽なことはないだろう?
その頃にはもうお嬢の周りに風が巻き起こり、火花が散っていた。
「ネネ! 駄目よ!」
「落ち着くんだ! ネネ!」
そんな両親の声もお嬢には届いていない。
お嬢の両親が駆け寄ろうとしているが、風圧で近寄れないでいる。
「ネーネルヴァ嬢! 愚息がすまないことをした! どうか気を静めてくれ!」
これは拙いと悟った国王が慌てて仲裁に入る。
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