お互いのチームが3層目で寄り道をしてしまう件
紗良と姫香&ハスキー達のミドルエリアの探索は、3層目に差し掛かって混迷を極めていた。そこはフィールド型と言うか、西洋のお城の城郭の迷路となっていたのだ。
石組の城壁の上の通路は、曲がりくねって延々と城の周りを巡って塔に繋がっていた。複雑な通路を形成していて、地面に降りるようにはなっていない。
それを眺めて、これはまた奇妙なエリアだねと呟く姫香。中央に見える西洋風の城は実務的で、一番てっぺんの階層は柱だけで壁のない空中リングのよう。
間違いなくアレが中ボスの間だねと、断定する姫香に長女も肯定する。つまり、あそこに辿り着けば3層目の探索も中ボス戦を経て終わる事が可能。
ハスキー達も、それを受けて石畳の城壁の上の通路を歩き始めた。取り敢えず最初は分岐も無いので、通路を進めば良いだけで何の問題も無し。
中央の城へのルートだが、途中に石畳の通路は塔に突き当たって複雑に立体迷路を形成していた。果たしてどの通路が正解の道か、辿って行くのはやや苦労しそう。
とは言え、このミドルチームの探索速度は、そこまで他より遅れてるって感じでも無い。護人のアダルトエリアが一番早いみたいだが、そちらも休息を取りながら時間を調整してるようだ。
そして末妹のキッズエリアも、進行速度はこちらとどっこい。競う訳では無いが、その辺は通信を密にしながらお互いに励まし合って進む3チームであった。
「えっ、青い鳥が飛んでるのを発見したの、香多奈ちゃん? えっと、寄り道は本来推奨されないんだけど、まぁ気になっちゃったら仕方が無いかなぁ。
気を付けてね、どんな仕掛けがあるか分からないエリアだからね」
「香多奈のアンポンタンチームは、指揮を執ってるのが香多奈って時点で既に破綻してる気がするよね。本当に大丈夫なのかな……萌やルルンバちゃんじゃ、アイツの暴走を止められないじゃん。
しかも、茶々丸にヒバリもいるんだよね?」
そう姫香に言われると、急に不安になって来る長女の紗良であった。確かにそのラインナップは、並べて行くほどに何故か不安感が増してしまう。
姫香の言う通り、萌とルルンバちゃんは自分の主張をほぼしない素直な子達である。言い換えれば香多奈の言う事は、素直に受け入れちゃうペット達なのだ。
そしてヤンチャ代表の茶々ヒバが、キッズチームに両方ともいると言うこの組み合わせ。最後に止めを刺すように、チームの指揮を末妹が握っているのだ。
よく護人も、この探索にオッケーを出したモノである……いやまぁ、香多奈の我が儘は今に始まった事では無いのだが。
それにしても、さすがに限度があるよねと紗良は思う次第。
思わずそう呟くと、今頃気付いたのと呆れ口調の姫香である。アイツは人の心を操る系のスキルも持ってるかもと、冗談ともつかない姫香の指摘は怖過ぎる。
それはともかく、前衛のハスキー達は現在敵のトランプ兵と交戦中。その奥にはストーンゴーレムも控えていて、このエリアも敵の数は程々に多いみたい。
幸いにも戦いはハスキー達が優勢で、姫香も全く慌てていない。瞬く間に切り刻まれるトランプ兵士に、コロ助のハンマーで叩き壊されるストーンゴーレム。
そんな感じで通路は安全になって、魔石を拾って再び進み始める一行である。そして数分も進まない内に、お次は空からの襲撃がやって来た。
「うわっ、まさかのワイバーンだっ……紗良姉さん、伏せて頭を低くしていてっ! 出来たら自分に《結界》張って、飛んで来る奴の尻尾は防いで頂戴っ!
すれ違いざまに飛んで来るアイツの尻尾の毒は、さすがに厄介だからねっ!」
「りょ、了解っ……姫香ちゃんも気を付けてねっ!」
そんなやり取りの間にも、背後を取られたハスキー達は反転しての戦闘態勢に。空中を飛ぶ3体の飛竜を睨み据え、ワレ降りて来いやと唸っている。
向こうも近接攻撃しか持っていないので、どこかでタッチダウン攻撃はやって来る筈。それを待てない姫香は、久々に武器を『旋回』させて《豪風》を呼び寄せる。
夕方の特訓では、これ系の派手なスキル練習は出来ずに練度は全く伸びていない。とは言え、特訓で培った基礎練習は姫香の全能力を底上げしていた。
結果、久々に使った《豪風》スキルも意外と練り込まれていて良い感じに。飛んで来たワイバーン目掛けて思い切り解き放つと、3体ともボーリングのピンのようにはじけ飛んで行った。
どうやら、勢い余って《燕返し》も発動してしまったらしい。ありゃって表情の姫香だが、取り敢えずスキル技の当たった飛竜は今の一撃でお陀仏に。
もう2匹は、ツグミの《アビスドーム》で強制的に飛行能力を奪われて城壁に激突。そこにレイジーとコロ助で、見事に止めを刺しての完璧な陣形である。
姫香が倒した奴のは回収不能だったが、ハスキー達の倒したドロップ品はツグミが回収完了。戦闘が終わって、ホッと安堵の表情の紗良が合流して来る。
お互いの奮闘を労いながら、エーテル回復の時間を少々挟みつつ。それから改めて出発して、いよいよ城壁の交差地点へと差し掛かった。
「えっと、一応この塔内にも入れるし、横の階段を登れば右手の通路に進める感じかな? 中央のお城に進むには、こっちの階段の先を進むので間違いなさそうだね。
ただしこの塔の奥も、秘密の抜け道っぽい感じじゃない、紗良姉さん?」
「本当だね、姫香ちゃん……多分だけど、寄り道的なルートなんだろうね。宝箱とかあるのなら、ちょっと寄ってもいいとは思うけど。
何しろここは、“鬼の報酬ダンジョン”だもんねぇ」
確かにそうだねと、嬉しそうに相槌を打つ姫香はそれじゃ寄り道してみようと同意の頷き。それからハスキー達に、こっちのルートを確認するよと指示を出す。
何故小声なのかは不明だが、他チームにバレたらマズいと内心で考えているせいかも。いけない事では無いだろうが、思わず紗良の足取りもコッソリしてしまう。
そんなの関係ないハスキー達は、ただ主の指示に従うのみ。そして秘密の小路みたいな塔から抜けたルートは、やがてどこかの館の屋上みたいな場所に出た。
そこは見事な花壇で囲われて、まるで空中庭園のような佇まい。
そして発見する大振りの宝箱と、それを守護する這いずり回るツルと巨大な花弁。まるでラフレシアのようなその植物は、甘い香りを漂わせてヤル気満々で侵入者に反応して来た。
そんな訳で、宝箱を賭けた戦いの始まり――。
そしてこちらも、ゲートの方向とは別ルートを進む寄り道キッズチームである。天井付近を飛翔する青い鳥は、ほのかに発光して幸いにも見失う心配は無さげ。
チビッ子組も、目敏い者が多くて障害物の多い工場エリアをスイスイ進んで行く。ただし、巨体のルルンバちゃんと2号ちゃんはついて行くだけで精一杯。
意外と広い工場エリアだが、出て来る敵もそれなりに多かった。ほとんどが雑魚で、ヒバリでも頑張れば倒せる連中は経験値稼ぎにはピッタリかも。
そんなマシュマロ風スライムや、クッキーゴーレムを倒して進んで行くと、敵の種類に変化が見え始めた。いつの間にやら、縫いぐるみ型モンスターがメインに出現し始めて来たのだ。
「あれっ、どっかでエリア変わったかな……何か、クマや犬や兎の縫いぐるみばっかり出て来始めたね。そんなに大きくないし、コイツ等もヒバリでも倒せるかな?
強いのがいたら、茶々萌でフォローしてあげてねっ」
そんな香多奈の言葉に、小さく頷いて前を進むチビッ子前衛陣。相変わらずのフォーメーションだが、迷路風の工場のコンベアや機械類の配置はちょっと厄介。
その上、箱コンテナが障害物として配置されていて、空を飛ぶ青い鳥をうっかり見失いそうに。ただし、その箱コンテナの中から、強化の巻物や薬品類が出て来るから侮れない。
慌てて回収する末妹は、青い鳥の追跡も楽じゃないねと嬉しい悲鳴を上げている。ちなみに、茶々萌の魔法の鞄はこのエリアで回収したお菓子類でパンパン。
ガメつさではチーム一番を誇る香多奈は、回収作業では容赦が無かった。そして少女の想像では、あの青い鳥もとびっきりの幸福を運んで来てくれる筈。
そんな思いで工場エリアの迷宮を何とかすり抜けて、いつしかチビッ子達は壁際へと到達した。そして肝心の青い鳥は、壁の中央の狭い小窓から更に奥のエリアへと飛び去って行く。
えっと驚く茶々萌コンビは、それは狡いよとその小窓を眺める。
「ええっ、あの青い鳥ってば工場を出ちゃったのっ!? うわっ、酷いなぁ……しかもあの小窓、ルルンバちゃんと2号ちゃんの大きさじゃ通れないよっ。
どうしようかな、しかも微妙に高い位置にあるし」
小窓の高さは2メートル半くらいだろうか、間違っても香多奈がジャンプした程度では届かない高さだ。茶々萌の身体能力なら可能かもだが、その後はどうすべき?
まぁ、最終目標は青い鳥からお宝を得るのだが、それがあるかどうかも分からない。確かめるにはあの小窓の奥に進むべきだが、魔導ゴーレム2体は体型的にムリ。
香多奈は少し考えて、ルルンバちゃんにここで待っててと告げた。そして土台になって貰って、自分たちだけでこの奥を調べて来るよと。
そう言われたAIロボは、少し考えてシュタッと手を挙げて了承のポーズ。そして少女が自分の上にあがれるように、壁際に進み寄って屈んでくれた。
それを見て、ありがとうと威勢の良い末妹の発言に従って。茶々丸や萌が、次々と魔導ゴーレムのボディを伝って小窓へと殺到して行く。
置いて行かないでと騒ぐヒバリは、ちゃんと萌がフォローしてくれていた。ムームーちゃんも、茶々丸の肩の上に乗っかってもちろん同行の構え。
そうして、数を減らしたチビッ子達だが何とか次のエリアへと到達完了。そこは樹々が生い茂って屋外かと思わせる景色だが、空を見上げると天井と照明が窺える。
樹々もどうやら紛い物らしく、プラスチック素材で造花染みた模造エリアみたい。ナニここと混乱する一行だが、次に目にしたのは望みのモノだった。
つまり、青い鳥がまさに宝箱へと変化して行くシーンそのもの。
ただし、その奥にはセットのように宝の番人が待ち構えていた。野太い唸り声が、模造品の樹々の向こうから聞こえて来てチビッ子達は臨戦態勢に。
幸せの青い鳥も、どうやら楽にお宝は与えていくれないみたい――。
その頃、第3層のアスレチックコースを挑み始めた護人は、信じられない分岐を目にして戸惑っていた。それはコースとは無関係な、宝箱を誘致しての完全なトラップだった。
それを回収に向かえば、時間制限アリのこのコースの思うつぼである。回収に行って元のコースに戻るだけで、恐らく数分は確実にロスするだろう。
しかもご丁寧に、宝箱のある浮き島には虎のマスクを被った番人までいる始末。ソイツは恐らくデーモンで、何故か柔道着姿だが肌の色は紫だった。
それを見た妖精ちゃんは、呑気に護人に回収しろとせっついて来る。確かにミケやチビ妖精では、宝箱を開けて中身を回収って作業は無理。
いやしかし、こんなあからさまな罠にわざわざ乗り込むべき?
――懊悩する護人だが、悩む時間も惜しいアスレコースであった。
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