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新しい朝が来た。なお希望に満ち溢れてるとは限らない。

ながながずるずる続きましたが、今回はこれで最終回です☆



 ――目が覚めると、そこはなんだかとても見覚えのある世界だった。




 ここは……?


 目を覚ました、というからには今まで意識がなかったということで。

 眠りに落ちた記憶も、気を失うようなことをした覚えもないのでござるが。

 一体、何が起きたでござるか……?

 意識を失う直前の記憶を拾い上げようと、思考の渦に没入しながらも。

 それでも日々の習慣に従って、身体は起床しようと身を起こす。

 覚えている限り、最後の記憶は玉座の間。

 最終奥義『猫パンチ』を発動したよっちゃん殿の抉り込むような一撃を、ギリギリ紙一重でサンバ殿が回避に成功。しかしてあまりに身体に負荷の大きい姿勢を取らざる得なかったことが仇となり、あわや転倒するか、というところでサンバ殿の背後へ忍び寄る巨大な猫のシルエットに、小夜殿と2人、「うしろ、うしろぉー!!」と叫んだ場面でござったはず……。

 ……はて? 一体どういう経緯でそんな状況になったのでござったか?


 鈍く痛む頭は、記憶も定かではなく。

 何が起きたのかとゆるく周囲を見回して……拙者の体は、動きを止めた。

 身を起こすためについた腕が、ふかりと馴染み深い綿布団の感触を伝えてくる。

 ここは。

 ここは……!

 今、拙者の目に映るのは……


 古式ゆかしい日本家屋の梁、天井。

 青空の光を透かす、木目の美しい欄間細工。

 何もかもが目に馴染み、何もかもが懐かしくって。

 拙者、不覚にも泣きそうになってしまったでござる。


「昭殿、小夜殿……拙者、せっしゃ………………かえってきたでござるよぅーーーー!!」


 感極まって、思わず叫んでしまったでござる。

 そんな拙者の声を聞きつけ、涙目で駆け込んできた母上に突撃(ダイレクトアタック)かまされるのは、この十秒後のことでござった。


「さっっっくぅーーーーん!! 起きたの!? 起きたのね!? 身体は!? 身体は大丈夫!? 体調は!? どこか気持ち悪いとか痛いとか、違和感あるとか、ない!? お医者様は大丈夫だろうって言ってたけど……どうする!? お医者様、呼ぶ!? 呼んじゃう!? 顔に縫合痕のある、モグリのお医者様呼んじゃう!!?」

「母上、母上、落ち着いてくだされ。首、首が極まってるでござるよぉー」


 しかし……なんで拙者、自分の家で目を覚ましたのでござろう? 

 空飛ぶ円盤に拉致られていたはずでは……


 目を覚ました拙者を抱きしめて、母上が嗚咽を漏らす。

 どうやら随分と心配させてしまったみたいでござる。

 この反応を見ても、拙者に尋常ならざるナニかが起きたのは確実だと思うのでござるが……


「あ、そうだ。昭殿と、小夜殿は……」

 何はともあれ、拙者は大丈夫そうでござる。

 だけど二人は?

 昭殿と、小夜殿は無事でござろうか。

 確認の為にも、ちょっと電話をしてみようかと思うんでござるが……

「母上、離しt……」

「さっくん……っ!! 母は、母はもう心配で心配でぇ」

「あ、泣かないで母上」

 ――この様子では、しばらく無理そうでござるなぁ。

 母上が落ち着くまで、拙者は大人しく抱っこされるに甘んじる羽目となったでござる。

 なんだかまるで激戦区の戦場から九死に一生を得て奇跡の生還を果たした、みたいな扱いを受けて、とてもとても居たたまれない気持ちになったでござる……。


 結局、母上の精神状態が落ち着くまで時間を要したため、昭殿や小夜殿に確認の電話をするのは日を改めることとなってしまい申した。

 日中、姿を見かけなかった父上も夜になると帰ってきたでござる。

 『仕事』に行っているのかと思っていたのでござるが、父上が帰ってきた方角は拙者たちの住まう隠れ里(※山)の裏手に続く道の方……。

 あちらは一族の習練場や滝しかないでござるよ?

 多くを語ってはくだされず、母上の言によると拙者が誘拐されたことでひどく動揺し、精神を落ち着けるために一日滝行に費やされていたとのこと。

 え? 父上が誘拐された拙者を連れ帰ってくだされたんでござるか?

 帰宅が連絡なく遅くなった拙者を探しに、方々駆けずり回ってくださった?

 どういった経緯によってかは詳しく語ってくれなかったでござるが、どうやら拙者が無事帰りつけたのは父上のお陰のようでござる。

 ありがとうでござるよ、父上!

 でもなんで、そんなに青い顔をしているでござるか?

 微かに手指の先が震えているようでござるが……滝に当たりすぎて、風邪でも引いたんじゃなかろうか。母上もそう思ったのか、いそいそとネギを取りに厨へ向かうのが見えたでござる。


「朔之烝(※さくま(仮名)君の本名)」

「はい、父上」

「なんだ、その、あー………………」

「?」

 なんだか常になく、歯切れの悪い父上の声。

 即断力のある父上には珍しいお姿でござる。

 これはもしや、叱責でござろうか。

 誘拐されるなんて忍者(見習い)にあるまじき、とそういうことでござるか。

 でもあれは不可抗力でござる!

 まさか相手が空からきて、しかも掃除機みたいに吸引されるなんて拙者にはどうにも成す術がなかったでござるよ! 口に出して言うのは憚られる非現実感満載な状況に、抗弁なんて出来るはずもないのでござるが!

 なんと叱られるのだろうか、と。

 拙者もついつい身を縮めてしまうでござる。

 でもそんな拙者に対して、父上は気まずそうな顔で目を逸らしながら、こう言ったのでござる。

「………………これからも、三倉君とは仲良く、な」

「……はい!」

 拙者の予想に反して、父上のお言葉は意外なもので。

 でも拒否する理由はかけらもないし、拙者としても望むところなので。

 父上の様子に違和感を持つこともなく、拙者は元気によゐこのお返事をしたのでござった!






 一夜明けて。

 目覚めたばかりの時なら、勢いに任せてありのまま聞くことも出来たのでござるが……

 なんだか時間を置いたことで、妙に冷静になってしまい申した。

 記憶もあやふやでござったし、目覚めた直後は確信を持っていたアレコレも急に自信がなくなってきたというか。

 具体的に言うと、アレでござる。

 UFOやらゲームやら、ちょっと現実感なさすぎでござろ?ってことでござる。

 冷静になってしまった頭では、自信満々に堂々「昨日はUFOに攫われて大変でござったなぁ!」なんて言えないでござるよ……。

 アレただの単なる長すぎる夢で、拙者の妄想か何かだったんじゃないか。

 そんな気すらしてきたでござる。

 でも父上と母上に確認したところ、どこに囚われていたかは何故か父上の口が異様に重くて答えてもらうことができなかったでござるが、拙者と昭殿、小夜殿が一つ所に誘拐されて囚われていたことは事実に間違いがないそうで。

 だったらそのことを踏まえても、安否を尋ねるために電話だけでもしてよかろうと。

 そんな気持ちで、拙者は受話器を取ったでござる。

 まずは昭殿に電話をかけてみるでござるよー。


「もしもし、」

『カメよ、カメさんよ』

「世界のうちでお前ほど♪――って、違うでござる!」

『違う? 何が違うのさ』

「昭殿、遊ばないでほしいでござる……もしもし、昭殿でござるよな?」

『おはよう、さくま(仮名)。新しい朝が来たね』

「希望の朝かどうかはさておき、確かに新しい朝がきたでござる。それで、その、昭殿……」

『空飛ぶ円盤なら町の北側、病院裏手にある山の中腹に墜落したらしいよ。円盤墜とすなんてすごいね、でも落ちた直後は確かに衆目の耳目を集めたらしいのに、1時間が経過する頃には何故か地域住民の記憶から「山に円盤が落ちた」っていう事実が綺麗に抜け落ちていたらしいよ。すごいね』

「いきなり本題直球勝負ーー!!?」

 っていうか、昭殿! 昭殿!

 そんないっぺんに、情報量過多でござるよぉー!?

 そんな一度にたくさん教えられても、拙者が混乱するだけでござるぅー!!



 チン!


 黒い電話の受話器を置いた時には、多すぎる情報量にすっかり拙者はくたびれ果てて居り申した。

 通話時間は15分くらいのものでござったのに、なんでござろうか。この途方もない疲労感。

 通話を切る直前、最後に昭殿が教えてくれた言葉が、力強く脳内をめぐっていた。

「朔之烝(※さくま(仮名)君の本名)」

「父上」

「どうしたんだ。まだ本調子じゃないんだろう……今日は一日、安静にしているといい」

 父上は拙者のことを心配しているのでござろう。

 昨日から、それを隠さず拙者をいたわってくれるでござる。

 その様子はなんとなく、困り果てているようにも見えるほどで。

 毎日欠かさない修行も、学校も今日はお休みするようにと朝餉の席で言われたばかりでござる。

 父上も今日は仕事をお休みして、一緒に過ごしてくださると。

 

 あ、そうでござる。


「父上」

「なんだ」

「拙者、お願いがあるのでござる……その、ゲームを買ってほしい、でござる」

「なんだ、珍しいな。お前がそういう頼みごとをするのは」

 確かに言われてみれば、自分でもおねだりなんて滅多にしない気がするでござる。

 特にゲーム関連は昭殿のお宅に参じれば充実してござるからなぁ……ゲーム買って、なんてお願いするのは初めてのようなきがするでござるよ。

 でも、このゲームは自分でほしい。

 なんだか知らない間に、とんでもないことをやらかしていたそうなので……実際にプレイして、拙者のやらかしとの齟齬やら何やらを検証してみたくなったから。


『そういえば言ったかな。僕達が閉じ込められていた、あのゲームの名前なんだけどね――』


 脳内で、昭殿の声がリフレイン。

「それで、なんというゲームが欲しいんだ」

 拙者は脳内に響く昭殿の声に重ねるように、その品名を口にした。


「『きゅんふわ学園ホワイトストロベリー物語 ~恋する乙女は世界の絶対正義!~』、でござる」


「朔之烝……!?」


 その後、滅茶苦茶正気を疑われたでござる。

 強制的に布団に寝かしつけられて、お医者を呼ばれた1時間後。

 拙者はぬくぬくの布団の中で、どうやって父上に正気だとわかってもらいつつゲームを買ってもらおうかと暫し考えるのでござった。

 ……が、布団のぬくもりに誘われて、5分と経たずに寝た。

 夢の中では玉座を背後に手を差招くどこかで見たような男たちに向かって、思わず手裏剣を投げつけ続けて、夢の中でまで疲れ果ててしまったでござるよ。








投稿の間隔が長く、ずるずる長くなってしまいましたが……

今回で最終回になります。

皆様、最後までご覧いただき有難うございました!




UFO墜落後の宇宙人たち

 →母星に帰れなくなったので、仕方なく地球に潜伏。

 通信機を修理して母星にSOSを発するのが先か、円盤直して自力で帰還するのが先か、それとも地球に馴染み過ぎてうっかり帰化しちゃうのが先かという瀬戸際にいる。

 ちなみに一番の問題は資金調達だという。


忍者父上

 忍者の隠れ里で生まれ育った由緒正しい現役忍者。

 里の外では素顔を見られてはならない、素顔を見られたら存在を消すか一族に取り込むべしという掟に後押し受けて結婚した。

 大学で一般人に紛れようとしてちょっとどころでなく無自覚に浮いた生活を送りながら、他の生徒達に一歩引かれてモロに遠巻きにされていた自分に屈託なく接してくれた嫁のことを、素顔を見られる以前から密かに狙っていたことは口が裂けても嫁には知られたくない。

 ちなみに形式上は一族(※忍者)経営の警備会社勤務、ということになっている。



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[良い点] はじめまして。  突っ込みどころ満載で、楽しく読ませて頂きました。 お父さんの言動で、今の複雑な心境がよくわかります。  乙女ゲームのタイトルで読ませてもらいましたが、他のシリーズも読んで…
[気になる点] え?龍は何も問題を起こさないんですか? [一言] えーっと証拠隠滅は隣の水島さん家の羽恒くんが頑張ったのかな? それともまだ年齢的に厳しいから星冴さんかな? どちらにせよお疲れ様でした…
[一言] 父上殿…見事にトラウマ抱えたご様子で…
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