第3章 エルフとの出逢い
エルフ族が暮らす〔あかりの森〕へ行くため進み始めた4人は《しっとの川》を渡った後、〔にくしみの森〕を迂回して歩いていると、ずっと森を見つめいてたルピタが急に立ち止まり、
「プラシドさんは幼い時から平和主義者だったんですか?」
と不思議そうに首を傾げて尋ねると彼は遠くを眺めるような目つきで、
「そうだね、でも……私の両親は他の仲間と同じくトロール族を憎んでいて、私が10歳になって間もない時に父がトロール族との抗争で命を落としてしまって、その次の年に母が仇討ちにいって二度と帰る事は無かったよ、その日から私は誰かを憎むという行為への嫌悪感が芽生えたんだ……」
穏やか表情で言うと次に寂し気に微笑みながら、
「まぁ、今では村の人達になじめなくなってしまって放浪の旅に出ていたんだけどね」
そう締めくくると黙り込んだのでその日はずっと誰も言葉を交わさないまま夕方になり、夕食の支度をして食べ終わり休憩しているとなぜかルピタが落ち込んだ様子で胸元に下げたペンダントを眺めていて、気になったプラシドが近付いて横に座るとルピタは一瞬顔を上げてまた俯いたので彼は微笑みながら、
「ルピタちゃんどうしたんだい? 元気がないみたいだけど?」
と尋ねるとルピタは力なく微笑み今にも泣きそうな顔で、
「少し……お父さんとお母さんの事を思い出してしまって」
そう言ってプラシドに写真をみせるとそこには幼い頃のルピタが嬉しそうに笑いながら両親と手を繋いでいて、写真の中の両親と兄も幸せそうな顔で微笑んでいてそれを見ながらルピタが、
「私の両親は魔力がとても低くて、《けんじつの川》が黒くなっているなんて気付かずに飲み続け3年前に死んでしまって……それにケイケナおじいちゃんも同じように水を飲んでいておばあちゃんが気付いた時には身体が汚染されていて、どうすることも出来ないまま亡くなって……おじいちゃんもおばあちゃんもとても仲が良かったから、凄く落ち込んでたんです……今お兄ちゃんだけで寂しくないかなって思って」
と話しているうちにルピタの目には涙が溢れ止めようと拭うのだがまだ流れる涙を隠すため俯くと、それを見ていたプラシドは彼女の頭を撫でながら、
「じゃあ、早くこの旅を終わらせてカネリアさんに元気な顔を見せたあげよう!」
優しく微笑んで言うとルピタは力強く頷き、
「はい! 私、一生懸命頑張ります!」
そう元気な笑顔で言うとずっと見守ていたアーヴィンとモーゼズに、
「それじゃあおやすみなさい!」
と言って焚き火の近くで横になり眠りに着き安心した3人は笑顔でルピタの寝顔を見てからまたプラシドが見張りをして夜を明かした。
次の日の朝も4人は手早く支度を済ませると先へ進み昼頃になると《しゅうちの川》へ着き渡るとさらに歩き続け夕方近くに〔あかりの森〕へたどり着くと、森の中から一人の青年エルフが近付いて来ると浅く一礼して、
「ルピタ・ファームさまですね? お話はかねてより伺っております、どうぞこちらへ」
と言って振り返ると無言で歩き出し4人は急いでついて行くのだが、森の中を歩いていてもエルフは一言も話さず無表情で進み、ルピタは幼い頃にカネリアから聞いていた無表情なエルフは彼の事かと一人納得していて、そんな中エルフに続き森の中を歩いて行きしばらくすると白い大きな壁が現れエルフの青年は壁の窪みに手を当てると、音もなく壁が左右に開きさらに青年について歩くと巨大な建物が並ぶ街に入り中央部分で茫然と立ち尽くしていると横から上品な笑い声が聞こえ目を移すと、そこには淡いピンクのドレスを着た女性が近付いて来ていて彼女は小さな声で、
「やはりそのような反応になるのですね」
そう言った後笑顔で片手を上げると女性はしとやかな動きで、
「初めましてルピタさん、わたくしはこの国を統べる者です話は全てカネリアさんから伺っております、ここで話す事ではありませんのでどうぞわたくしの屋敷へ」
と言って歩き出しその後ろをルピタ達も慌ててついて行くと他の建物よりもさらに大きな屋敷の前で女王は止まると魔法でドアを開け中へと進み最上階の一番奥の部屋で止まるとノックをしてから、
「わたくしです、入りますね」
そう言うと中から男性の声で
「どうぞ」
と返事がしたので女王がドアを開けると部屋の中には短い金の髪で整った顔立ちに緑の眼をして微笑む青年と、外観からでも真面目さが分かる真っ黒な髪を三つ編みにして青い眼をした青年がいて、金髪のエルフは椅子に座っていたが黒髪のエルフは腕を腰のあたりで組んで立っていたので、ルピタはすぐにこの2人がカネリアとケイケナが共に旅をして悪魔を倒したユレイヤ・ケンナーとラウス・ラナーだと気づきルピタは緊張しながらも大きな声で、
「は、始めまして! カネリア・ファームとケイケナ・ファームの孫でルピタ・ファームと言います!よろしくお願いします‼」
そう言ってファーム族の伝統で右拳を背中に当て左拳を腹部に当てる挨拶をするとエルフも伝統的な仕草で挨拶を返し、モーゼズとプラシドもそれぞれの伝統的な挨拶をしてから椅子に座るとユレイヤは微笑みながら、
「それにしても本当にルピタさんはカネリアさんにそっくりですね、髪の色や顔立ちが特に」
と言うと少し悲し気な表情で微笑み、
「エルフは年を取るスピードがとてもゆっくりなので少し寂しいですね」
そう言って俯くと女王が彼の手を握りながら優しいが鋭い目線をしながら、
「前を向きなさい、あなたは王になる身なのですからそのような事を考え続けてもキリがありませんよ」
と言うとユレイヤは迷いがなくなったように微笑んで返事を返すとルピタ達に向き直り
「情けない事を言ってしまってすみません……話を戻しましょう、カネリアさんの話だと夢の中で生命の池に住む精霊に会い頼まれたみたいですが、旅に出る事はご両親は承知なのですか?」
真剣な表情で尋ねられたルピタは一度俯いた後すぐに顔を上げて昨晩プレシドに打ち明けた事を、ユレイヤ達にも話すと彼は悲し気な表情で、
「そのような事があったのですね……辛いことを僕達に話して下さりありがとうございます」
優しい笑顔で言って頭を下げるとルピタは顔を染め上げて両手を振りながら、
「わ、私は寂しくないですよ! 兄やおばあちゃん、それにアーヴィンがいてくれるから本当に寂しくないです‼」
そう言うとユレイヤは微笑んだまま、
「ルピタさんは強いんですね」
と不意に言われたルピタはなぜか涙が溢れ出し止められずに声を殺して泣いていると、横に座っていたアーヴィン頭に手を置きながら、
「他の奴の前では泣けなくても俺達の前では泣いてもいいんだぞ、誰も咎めないから」
そう言ってニッと笑ったあと急に恥ずかしくなったのか手を離し顔をそらせるアーヴィンにルピタが、
「ありがとう、アーヴィン」
と笑顔で言うと彼も微笑んでいると女王が手を二回ほど叩きその場の全員を見回すと、
「話が終わったところで本題へ移りましょう、我々エルフはこの戦いには全面協力させていただきます、この旅にはユレイヤとラウスが同行してください、それと人間の街である〔ラーナスの街〕へ手紙を送りますので何かの手助けをしてくれることでしょう、同様の手紙はフェアリー族にも送るつもりなのでなにかしら援助を受けられるはずです」
そう矢継ぎ早に伝えられたルピタ達が呆然としていると女王が瞳を光らせながら、
「さあ、今から支度を始めてください、とても辛い旅になりそうですからね、それから旅の前にあなた達に成し遂げて欲しい事があるのです、特にユレイヤが」
と最後には真剣な顔で言うとユレイヤはその言葉に驚て立ち上がると、
「母上……まさか、今試練の儀を行うんですか⁈」
そう言うと女王は彼を睨むような視線を向けると、
「ユレイヤ、わたくしが王位を退く意思を示している事は知っていますよね? 今、儀を行わなければ時期を失ってしまいます、支度が済めば速やかに出発してください……そして初代エルフ王にあなたが王に相応しいかを見定めてもらい、無事に戻れたなら旅が終わった後に戴冠式を行います」
と言ってユレイヤが真剣な表情で頷く様子をみて女王は満足気に頷くとユレイヤは意気込んで、
「それでは今すぐにでも行きます! 頼むぞ、ラウス‼」
そう言うなり部屋から出ようとして女王が止めると彼女は、
「説明が抜けてしまいましたが、この試練に従者は連れて行けません」
ひどく厳粛な顔つきで言われたユレイヤは驚愕の余り頬に汗を流しながら、
「え……?」
と言って固まると女王は次に悪戯っぽく微笑むと、
「ですがルピタさん達は仲間であって従者ではありませんので共に行くことは可能です、彼女達が良ければの話ですが」
ルピタに目をやりそう言うと彼女は少し考えたすえの答えは、
「私、行きます! ユレイヤさん達がいないと悪魔を倒せないかもしれないし、それに私達にしか出来ない事もあると思うから!」
と屈託のない笑顔で言うとアーヴィン達も頷き了承するとプラシドが右腕を上げるとルピタ達も上げて拳を合わせると決意を新たに固め支度をして街を出た。