董編 ~平穏~
前回の投稿からだいぶ経ってしまい、申し訳ありませんっ
月「ふぅ~・・・」
城の清掃を終えた私は、汗で滲んだ額を拭う。
すると、遠くから私と同じ衣装を着る詠ちゃんがやってきた。
詠ちゃんも、自分の持ち場を終えたらしい。
月「あっ、詠ちゃんも報告しに行くところ?」
詠「まぁね。まったくあの変態、僕たちにこんな格好させて」
月「だめだよ、詠ちゃん。ご主人様は、私達を保護してくれたんだよ」
そう、ここはご主人様こと、北郷様と桃香様が治める徐州。
城で助けてくれた殿方と別れたあと、言われたとおり先の店に逃げた私達は、店主さんに匿ってもらった。
その後、"匂い"を追ってきた恋さんと、ご主人様達が鉢合わせ。一触即発のところ、間に入って見つかってしまった。
でも、自分たちの名前を捨てることを引き換えに、恋さんと音々ちゃんも一緒に保護してくれた。
ちなみに、あの店主さんは洛陽に残ったらしくて、そのあとのことは知らない。
詠「そうだけどさぁ・・・なんだっけ? めいど服? こういうヒラヒラしたの、なんか落ち着かない」
月「でも、まんざらじゃないよね、詠ちゃん」
詠「そ、そんなわけ───」
愛紗「ん? 月と詠、そんなところで何をしているんだ?」
ご主人様のいるであろう執務室に向かう手前、書類を片手にした愛紗さんと会った。
清掃の報告をしに来たと伝えると、愛紗さんが変わりに伝えてくれるとのこと。
月「そんな。それじゃあ、愛紗さんに負担が」
愛紗「報告するだけだから、気にしなくていい。それよりも、せっかくだから羽を伸ばしてきたらどうだ?」
詠「え? いいの?」
愛紗「私が言わなくとも、ご主人様ならそうなさるさ。優しいのか、甘いのか・・・」
そう優しく微笑む愛紗さん。
保護されてまだ日が浅いけど、ご主人様の信頼は絶大です。これは、"天の御使いの象徴"ではなく、彼自身の人柄が大きいのだろう。
報告は愛紗さんに委託して、私達はお言葉に甘えて城下町に出る。
鈴々「あっ、月に詠なのだ!」
桃花「二人ともお出かけ?」
すると、すぐに桃花様と鈴々ちゃんと会った。
どうやら二人で昼食をとって、その帰り道らしい。
桃花「あっ、桃まんじゅう二人とも食べる? 本当は、ご主人様と愛紗ちゃんに買ってきたんだけど、買いすぎちゃって」
詠「あっ、それ僕も食べたかったんだよね~」
月「え、詠ちゃん、ご主人様たちのものなんだから、わるいよぉ」
詠「いいじゃん。いる?って聞いてくるんだから。遠慮しなくても」
桃花「詠ちゃんの言う通り遠慮しなくていいんだよ。いつも、お城を綺麗にしてくれるお礼」
鈴々「食べないと、鈴々が全部もらうのだ!」
月「じゃ、じゃあ・・・いただきます」
桃花「うん! 召し上がれ! じゃあ、私達は戻るからー!」
鈴々「バイバイなのだー!」
ぶんぶん手を振って城に戻っていく鈴々ちゃんに、手を振り返した。
もぐもぐと桃饅頭を食べながら町に出る。
どこの屋台も飲食店も繁盛しているようで、ほぼ満席状態。
詠「月、ここは人が多いからあっちに行きましょ」
月「うん。あっちって書店とかあったよね?」
ご主人様たちの買出しでよく利用する書店がある。
そこに寄ることに決めた私たちは、店の前まで来たのだが。
朱里「むむむっ・・・」
雛里「あぅあぅ・・・」
詠「ここもやめよう! 月にはまだ早いわ!」
月「?」
結局、どこの店にも寄らずに、ぶらぶらすることに。
気づけば、小川が流れる街のはずれまで足を伸ばしていた。
恋「ぁ・・・」
音々音「月殿に詠殿ー!」
そこには、非番の恋さんと音々ちゃんが岩に腰掛けながら、まったりと過ごしていた。
恋「月たちも、お休み?」
月「先程いただいたんです。恋さんと音々ちゃんは、ずっとここに?」
恋「[フルフル]・・・これ」
詠「桃まんじゅうじゃん、───ってか多くない!?」
恋さんの食欲は知っていますが、桃まんじゅうが入っている紙袋の数を見ると、見てるだけでお腹が一杯になってしまう。
これだけの量を、どうやって運んできたんだろう・・・?
恋「ん・・・」
詠「え? くれるの?」
恋[コクコク]
音々音「お二人ならいいのです! 月殿も、はいなのです!」
月「ありがとうございます、音々ちゃん」
その後、陽が落ちるまで小川の音を聞きながら、もぐもぐと桃まんじゅうを食べていた。
とは言っても、私達は最初のほうでお腹いっぱいになって、ずっと食べている恋さんを眺めていただけなんですけど。
月「ふふふっ」
つくづく生きていてよかったと思う。
私だけじゃなく、詠ちゃんも恋さんも音々ちゃんも・・・そして曹操さんのところに行った霞さん、行方知らずだけど華雄さんも生きているはず。
月(今、あの方はどうしているのかしら・・・)
圭吾「おかわり」
店主「いい加減にしなっ!」
洛陽の店の中には、熱々のおたまで叩かれた圭吾だけ。
復興作業が順調に進み、活気が戻ってきたはずの洛陽なのに、圭吾だけはゲッソリとして飯を食べていた。
圭吾「ってぇ・・・!」
店主「まったく、仕事に失敗したからって毎日毎日タダ飯くいにきてんじゃないわよ」
圭吾「うっせぇ」
殴られるわ、捕まるわ、逃げ回るわ、と散々な目に遭ったというのに、玉露を落とすという失態をおかしてしまった圭吾には、減給+新たな労働が課せられた。
圭吾「はぁ・・・んじゃ、行くわ」
店主「警備隊の仕事、休みじゃなかった?」
圭吾「そっちじゃねぇ。生意気な生娘達のお守さ」
店主「? まっ、頑張りな」
毎度の事、お勘定を払わずに店を出た圭吾は、こことはまた違う定食屋さんに入る。
奥のテーブル席、そこが待ち合わせ場所だ。
天和「あー! 遅いよぉ、圭吾!」
地和「ちー達をどんだけ待たせるきよ!」
人和「待たされた姉さん達が注文した分の料金、東さんに請求させてもらいます」
圭吾「・・・はぁ」
本当に、ついてねぇなぁ・・・。
コンコンッ
愛紗「ご主人様、愛紗です」
一刀『ん、入ってどうぞー』
愛紗は、報告書を手に部屋へ入室した。
新たな土地で執務をこなす一刀は、笑みは浮かべているものの、疲れからか覇気がない。
洛陽の一件以来、一刀は部屋でこもることが多くなっていた。
愛紗「ご主人様、執務に没頭するのはよいですが、あまり無理をされてはいけません」
一刀「これぐらい何でもないって! それに、みんなのほうが俺より頑張ってるんだ。サボるわけにはいかないよ」
愛紗「しかし・・・」
愛紗としては嬉しい傾向ではあるものの、皆と交流が減ってしまうのも果たしてよいものかと感じている。
先日も、一刀に相手にされず、鈴々が駄々をこねていたことを愛紗は思い出した。
愛紗「ご主人様。お言葉ですが、ご主人様は私達の主です。家臣たちとの交流を疎かにしてはならない、と私は思います」
一刀「・・・」
愛紗「執務も大事ですが、ご主人様の役割というものを、今一度考え直していただきたい。本日の報告書です」
丁寧に報告書を置いた愛紗は、部屋を後にする。
堂々と廊下を歩き、一刀の部屋からだいぶ離れたら───
愛紗「あぁあ! ご主人様に何て言いかたをっ!」
うずくまって、盛大に後悔していた。
一刀「・・・そうだよな。愛紗の言う通りだ」
"今の俺は、桃花たちの主。
リーダーが、引きこもりになってちゃいけないよな。"
そう思い返した一刀は、机の影に隠していた"服"を机の上に広げる。
そして、それを畳んで机の引き出しにしまった・・・。
刺繍された部分を隠すように。
誰もその字を読むことはできなかったが、一刀だけは読めていた。
金色の刺繍には、"ローマ字"ではっきりと書かれていた
───AZUMA KEIGO───と。
これで、董編は完結となります。
三つか四つ閑話を挟み、呉独立の話に進みます。




