第六話「終結へ・・・逃走」
華琳「桂花、現状報告を」
桂花「はっ! 今私達は、連合から突出して虎牢関に進行しています。汜水関から撤退した張遼を含め、陳宮、そして飛翔軍呂布が篭城しています」
春蘭「呂布か・・・」
華琳「ふむ。呂布に張遼に陳宮・・・欲しいわね」
秋蘭「華琳様、呂布は関羽、張飛、趙雲の三人がかりでも足止めすら叶わなかった強者です。呂布を捕らえるのであれば、姉者と私、そして季衣と流琉の命を引き換えになるでしょう」
春蘭「・・・」
いつも強気な春蘭でさえ押し黙る様子に、華琳は恋の捕縛は諦めることにした。
可愛い部下を犠牲にすることなど、彼女にはできない。
華琳「陳宮は呂布にべったりだから、残るは張遼だけれど」
春蘭「華琳様! 張遼は私にお任せ下さい!」
桂花「張遼は一騎打ちを好む武将です。ここは、春蘭一人に任せるのが一番かと」
華琳「分かったわ。頼むわよ、春蘭」
春雷「御意」
華琳「では、これより二刻に渡って攻撃を開始する。春蘭は張遼が出てきた時のために、控えていなさい」
全員「「「御意!」」」
虎牢関・・・。
霞「洛陽からの早馬が、十常侍の息のかかった奴やと!?」
音々音「恋殿が言うからには間違いないのです! 今、尋問にかけているのです!」
恋「・・・zzz」
霞「つまり、うちらは今まで嘘の情報を渡されてたってことかい!?」
音々音「それはまだ・・・。今、こちらから斥候を送って───」
霞「それじゃあ間に合わへん! うちが行く!」
兵A「張遼様、陳宮様! 連合の方から"曹"の旗が! その後方からも連合が進軍してきています!」
霞「ちぃっ! こないな時に限って面倒なのが・・・! しかも夜戦を仕掛けてくるんかい」
音々音「今、虎牢関を空けたら不味いのです!」
霞「わぁっとる! 恋は!?」
恋「・・・zzz」
霞「阿呆ぉ、起きろ! 緊急事態に床で寝てるんやない! 月と詠が危険なんや!」
恋[パチッ]
「・・・たすける」
霞「ああそうや! せやけど、ここで引けば背中を討たれてまう」
恋「なら・・・そっこう、じんそくに、倒す。そして、たすけにいく」
詠SIDE
日は昇り、洛陽城内・・・地下牢。
詠「きゃっ!? ゆ、月をどうする気よ!?」
やられた・・・。まだ敵がいたなんて。
こちらの兵は殺され、月も捕縛され、僕は牢に閉じ込められた。
兵士A「話すつもりはない。準備が整いしだい、ここで大人しくしてもらおう」
詠「待ちなさい! 月に指一本でも触れてみなさい! 僕が許さないわよっ!! 待ちなさいってば・・・!」
ズルズルと崩れ落ちる。
その頬に涙が流れる。地に置かれた指先は、ガリガリと土を抉る。
詠「月・・・ごめん。僕、僕・・・うぅ・・・うぅぅぅ!!」
城内にいる兵は、全て十常侍・・・張譲の息がかかった兵のみ。
始末した人数を足すと、大規模の兵を紛れ込まれていた。
たとえ気付くことは出来ても、霞達がいない状態では抵抗は不可能。
[ガチャッ]
詠「ぇ・・・?」
だが、開けてくれるはずもない扉が開いた。それは希望へ続く道が拓くのと同義だった。
目の前には、牢屋全ての錠前がつけられた輪を指で回す脱獄囚が立っていた。
圭吾「びーびー泣いてんじゃねぇよ。さっさと助けに行くぞ」
詠「あ、あんた・・・なんで・・・?」
圭吾「俺はあの子に借りがあんだ・・・ほら、置いてくぞ」
詠「ちょ、ちょっと!?」
何で昨日今日の奴に助けられたか理解できなかったが、今はそんなことで時間を取られるわけにはいかない。
瞬時に頭を切り替えた僕は、すぐに脱獄者に追いついて横に並ぶ。
詠「助けにって、具体的な作戦はあるの?」
圭吾「あるわけねぇだろ。だからお前を牢から出したんだ。さっさと案だせ」
詠「むちゃくちゃね、あんた!───まず月がいる場所が分からないと」
圭吾「それなら、王座の方かもな。あそこに人が集まっていくのを見ただけだから、根拠はないが」
詠「・・・そういう事なら手があるわ。付いてきて」
王座の床と、ある牢屋の壁を脱出路として繋げておいた。
まだコイツのことを信用できないけど、月を助けるためならどんな奴だって利用してやる。
圭吾「へぇー、こんなもんがあんのか。けど、穴ちっちゃ」
詠「しょうがないでしょ。月だけを逃がすために作ったんだから。作戦を決めるわよ」
圭吾「言わんでもわぁってるよ。俺が注意を逸らせってことだろ」
詠「っ・・・いいの? かなり危険よ」
圭吾「どうせ俺はこの穴に入れないだろ。んじゃ、タイミング合わせろよ」
詠「え、ええ・・・」
たいみんぐ?
初めて聞く単語に疑問を持ちながらも、雑念として処理して穴に入る。
坂になっていて登りにくい上に、パラパラと落ちてくる砂が目に入ったりしてきた。
詠「もう少し、もう少しで・・・月───」
月SIDE
[ゴンッ]
月「っ!?」
敵の指示に従い、王座に座っている私の足元の床が動いた。
詠[チラッ]
詠ちゃんだ・・・私はなるべく視線でばれない様に気を使う。
私の周りには敵の兵隊さんが20人近く。不振な動きをすれば、すぐに気付かれてしまう。
詠「───」
口パクで「大丈夫?」と聞かれ、私はほんの小さく首を縦に振る。
詠「───」
(今、助けるから待ってて!)
月「っ!?」
(それはダメッ!)
兵士B「ん? なにをしている?」
詠「っ・・・」
スっと床を戻して詠ちゃんは隠れる。
心臓が飛び出そうだったが、平静を装っておく。
兵士B「・・・ちっ」
月「───」
(ふぅ~)
心の中で安堵する。
助けてきてくれたのは嬉しい。でも、私にもこの状況を詠ちゃんといえど、一人だけで解決できない。
それに危険な目をしてほしくない。詠ちゃんは、小さい頃から一緒で大切な人だから。
月(詠ちゃんだけは・・・詠ちゃんだけは!)
手を合わせて祈る。
それしか出来ない・・・。そう、私には何の力もない。
武官のように腕っ節があるわけではなく、文官のように知略に秀でているわけじゃない。
月(お願い、します・・・!)
兵士C「・・・おい、何か変な臭いしないか?」
その願いが通じたのか、一人の兵士が扉付近からする異様な臭いに釣られていく。
そのあとを、もう一人の兵士がついていく。
兵士D「ん? そういえば、確かに───」
[カチッカチッカチッ・・・]
月「?」
臭いの次は、何やら音が・・・。
この音・・・確か霞さんに外へ連れてってもらった時に聞いた覚えが。
兵士E「おい! 廊下から何か染み出してきてるぞ!」
兵士F「これ・・・酒じゃないのか?」
そうだ。釣ったお魚を焼く時に、火起こしをするための───
月「っ!? 扉から離れてくださいっ!!」
[ブワァッ!]
兵士E「うわぁっ!?」
F「いぎゃっ!?」
突如、扉周辺の床が燃え上がる。
その中にいた二名の兵士は、膝まで引火した火に驚いて、転がって付着した酒で引火した籠手などを脱ぎだす。
それを見計らったように詠ちゃんが、再び床から顔を出して私を掴んだ。
詠「月、こっち!」
兵士B「っ!? おい、貴様───」
敵も私を捕まえようとしたが、それよりも先に私は詠ちゃんに手を引かれて、脱出路へ吸い込まれた。
整地されてない自然の滑り台を通過し、地下牢に一直線。
詠「いてっ!───ぐぇっ!?」
月「いたたっ・・・あっ、ごめんね、詠ちゃん!」
詠「だ、大丈夫。それより早く逃げるわよ!」
下敷きにされた詠ちゃんは気にすることなく、すぐに私の手を掴んで駆け出す。
今着ている衣装は、とても走りづらくて何度もつまずきそうになる。
詠「城下町まで逃げれば、何とかなるわ! それまで頑張って!」
騒ぎを聞き付けた兵士達が、玉座の間に向かっていくのを見送り、
隙を見て私たちは城門を目指す。
月「詠ちゃん、さっきの火打ち石って・・・」
詠「その説明も後でするわ!」
月「そ、そうじゃなくて、後ろの殿方なんですけど」
詠「は?」
圭吾「よう」
詠「あんた、何でいんのよ!?」
圭吾「あん? そりゃあ逃げてんだから、居て当たり前だろ」
後ろから走ってついて来た殿方は、昨日詠ちゃんが捕まえた人だった。
部屋で会った時も思ったけど、やっぱり悪い人には見えない。
詠「そうじゃなくて、今あんたが追われてるんじゃないの?」
圭吾「いんや。ちょっとやり過ぎてな・・・それどころじゃないようだ」
詠「やり過ぎって・・・あんた一体───「きゃっ!?」───月っ、大丈夫!?」
二人の会話に聞き耳たてていたら、足元がおぼついて盛大に転んだ。
床に顔を打ち付けて、鼻の奥から熱いもの感じる。
詠「は、鼻血!? 早く止血しないと!」
圭吾「おい、早くしろよ。急いでんのは、俺も同じなんだから」
詠「月は繊細なの! あんたには分からないでしょうねっ!」
月「え、詠ちゃん、私は大丈夫だから」
でも・・・!と食い下がる詠ちゃんを抑えて、床に座り込んだまま殿方を見上げる。
月「あなた様が助けていただいたのですよね? ありがとうございます、どうぞお先に逃げてください」
詠「ゆ、月・・・」
圭吾「・・・ああくそっ!」
[ガシッ]×2
月「えっ?」
詠「ちょっ!?」
頭をかいた殿方は、突然私達を持ち上げた。
私は脇に抱えられ、詠ちゃんは肩に担がれる。
圭吾「うっ、結構重い・・・特に眼鏡」
詠「なっ、ななな何てことを言うのよ、あんたはっ!?」
圭吾「運んでやるんだから、耳元で喚くな」
月「・・・」
圭吾「あんだよ?」
月「い、いえ・・・ありがとうございます」
圭吾「っ・・・ちっ」
あっ、少し照れました・・・。ふふっ、面白い方。
その頃、虎牢関では───
霞「なっ・・・!?」
連合軍が関に絶えない矢が降っている時、部下から伝達がきた。
───洛陽の城から煙があがっている───
圭吾がやり過ぎた結果による小火なのだが、状況を知らない霞達にとっては最悪の事態を想像させてしまう。
霞「くっ・・・全軍、撤退や。この戦場から離脱するで」
月と詠を見捨てたわけはない。
彼女は、兵を預かる上官として最良の選択をした。
何より二人に絶対的な信頼を置いている。
霞「ウチは敵を足止めする。恋と音々音は兵を連れて、月達を頼むわ」
恋「・・・ん。まかせて」
音々音「了解しましたぞ、霞殿」
恋と音々音は、準備のため周囲の兵達を連れて出て行く。
それでも残った兵は、霞の前で跪いた。
全員、死ぬ覚悟で霞についていくことを選んだのだ。
霞「っ・・・ははっ、ウチに付いてこようとするなんてお前さんらも馬鹿やな~」
先ほどまで絶え間なく続いていた矢の雨が止んだ。
次の軍は袁紹軍。
時の運は霞側に向いていた。
斗詩「麗羽様! 董卓軍が虎牢関から撤退していきます!」
麗羽「ふん。このわたくしに恐れをなして逃げ出すなんて・・・ふふふっ、おーほっほっほっほっ! 顔良さん! 文醜さん! 進軍ですわ!」
猪々子「アイアイサーッ!」
斗詩(んー、本当に大丈夫なのかな?)
華琳「撤退? どういう事?」
桂花「関から大量の積み荷が運ばれ始めたと袁紹軍が視認したそうです」
華琳「その信憑性は?」
桂花「孫策が放った諜報員も、撤収作業を確認しています。間違いないかと」
華琳「孫策、がね・・・」
秋蘭「華琳様、どうかなさいましたか?」
華琳「大したことではないわ。桂花、全軍に通達して。これより我が軍は、御使いの作戦を無視して先行。敵を殲滅して洛陽に入城する」
桂花「御意!」
華琳「張遼の相手は春蘭。信じてるわよ」
春蘭「ハッ! 必ずや華琳様のもとに、張遼を連れてきます!」
華琳「呂布が出てきた場合は、総力をもって対処して頂戴。その代わり、深追いは禁物よ」
秋蘭「御意!」
華琳「さぁ、ここからが本番よ!」




