第四話「洛陽・・・城内の異変」
虎牢関・・・。
霞「そんで? この後はどうするんや?」
音々音「勿論、篭城するのです!」
霞「せやな。今回は華雄はおらんし・・・華雄」
霞は明るく振る舞っているつもりだったが、実際に華雄の名前を出してしまうと、引き戻せなかったことに顔が曇った。
音々音「華雄なら大丈夫なのです! 討ち取られた情報は入ってきていないですし、おそらく逃げ延びたかと」
霞「くははっ、そう簡単に死ぬたまやないからな!」
虎牢関の遠方に敷かれている連合の陣を眺めながら、霞は余裕そうに笑った。
恋「・・・ん」
霞「おっ、起きたか? 恋」
恋「・・・[コクッ]」
壁に寄りかかって寝ていた恋は、ゴシゴシと目をこすって立ち上がった。
まだ寝ぼけてフラフラと危なっかしい。
恋「・・・敵?」
霞「ああ、そうや。月と賈詡っちを狙う敵や」
恋「・・・敵、倒す。月、守る」
音々音「ねねもですぞ!」
霞「ウチもそうや。賈駆っちもな」
時間は、圭吾が華琳に洛陽侵入を命令する前の日に遡る。
あの日の圭吾は、警備隊の予算の見積書を大将である華琳に提出しようと玉座に趣いた。
玉座にいたのは華琳らいつもの四名。
圭吾「邪魔するぞ~」
春蘭「何を普通に入ってきている!? 華琳様の御前だぞ!」
相変わらずな失礼な態度に、春蘭と桂花は憤り、華琳と秋蘭はそんな二人を見て笑っている。
圭吾「へいへい、次からそうしますよ」
春蘭「分かればいいのだ!」
桂花「春蘭、あいつが素直に直すわけないでしょ。これだから、脳筋は」
圭吾「よく分ってるじゃねぇか、アホネコ」
桂花「アホネコ言うんじゃないわよ。豚のくせに」
春蘭「・・・ちょっと待て。桂花、私が脳筋とはどういうことだ?」
桂花「言葉通りの意味よ。いい加減、覚えなさいよ・・・あ~、覚える脳みそは全部筋肉だったわね」
春蘭「そんな事あるわけないだろっ!」
二人でピーピーギャーギャーと言い合いを始めて、その隙に圭吾は華琳に近づいて、手にある書簡を投げ渡した。
華琳は書簡を開いて、横から秋蘭が覗き見る。
華琳「・・・へ~」
秋蘭「ふむ。字がうまくなったな」
圭吾「まぁな。んで、それでいいか?」
華琳「そうね。問題があるとしたら、この工作費ってとこかしら」
圭吾「あぁ、それは真桜の希望だ。文句あんなら、本人に直接言え」
華琳「あら? 真桜とは真名を交換したのね?」
圭吾「誰かさんのせいでな。凪と沙和にも、預けられたよ」
※閑話三話参照
華琳「良い事じゃない。牢屋で引き篭ってたあなた、滑稽だったわよ」
圭吾「・・・もういいか、帰っても」
秋蘭「まぁ待て。華琳様からお話がある」
圭吾「あ? あんだよ?」
華琳「あなたにとっても悪い話じゃないわ。云わば、依頼よ。報酬も勿論あるわ」
春蘭と桂花の口喧嘩は続いていたが、圭吾は一言一句逃さず、華琳の話を聞いていた。
霊帝が死に、董卓が実権を握ったことに嫉妬した麗羽が、連合を組んで実権と洛陽を手に入れようとしていること・・・
その状況を聞かされて、最後に言い渡された依頼が・・・。
圭吾「玉璽を盗め?」
華琳「そうよ。それがあれば、私の覇道に一歩近づける」
秋蘭「確かに難しい仕事だ。しかし、連合との戦中ならば隙も出てくるはず」
華琳「これでも、私はあなたを評価しているわ。どう? 正直、この話に関しては無理強いしないわ」
圭吾「なら、断る」
華琳「流琉をアズマ専属の給仕にするって言ったら?」
圭吾「じゃあやる」
意外に食い意地が張ってる圭吾の新たな一面が発見され、護衛とともに洛陽に連れてきてもらい今に至る。
圭吾「まずは城に行くか」
堂々と道の真ん中を歩き、前方でそびえ立つ城を目指す。
城門まで来たのだが───
圭吾「兵もいない・・・?」
城門には門番の人が立っていない。
そして閑散とした街にも、警備兵の姿もなかった。
連合との戦闘による影響か、と圭吾は考えた。
圭吾「これを逃す手はないな」
全ては平和で豪勢な食卓のため。
出来れば夜中に忍び込もうと思い、圭吾は時間つぶしに街をぶらぶらすることに。
洛陽の民は、既に退去していてどこももぬけの殻だった。
しかし、路地裏に入ってみると、こじんまりとした屋台がそこにあった。
圭吾「ガラガラだな・・・」
入ってみると、もちろん客は誰もいない。
店主「いらっしゃい。旅の方かい?」
厨房から出てきたのは、50を超える女性だった。
圭吾は適当に返答して、席に座った。
圭吾「一人で店を回してんのか?」
店主「みんな都から引っ越したさ。客も来やしないし、この通りよ」
圭吾「あんたはいいのか? 巻き込まれたら店どころじゃないぞ」
店主「夫が遺してくれた店だからね。離れるわけにはいかないの・・・さっ、何にする? しっかりお代は頂戴するからね」
圭吾「んじゃ、おすすめを」
店主「はいよ」
店主は厨房に入っていくと、圭吾は出されたお冷をちびちび飲む。
圭吾(大将の言う通り、董卓の圧政は嘘っぽいな。まっ、俺には関係のない話なのだが)
今は玉璽を手に入れることだけを念頭に置いた圭吾は、手はじめに出されたラーメンにがっついた。
夜になるまで店主の手料理をノンストップで平らげた圭吾は、最後にお冷を一気飲みした。
店主「よ、よく食べたね」
圭吾「美味かったよ。まっ、知り合いの子の方が美味いがな」
店主「可愛くないわね・・・そういえば、どうしてこんな時期に都に来たのよ?」
圭吾「諸事情でな。悪いが、他人に話せるようなもんじゃねぇのよ・・・じゃあな」
圭吾は華琳から渡された通貨を、懐から机に置いた。
店主がお釣りを渡そうとするのを無視して、そそくさと店から出た圭吾は、まっすぐ城に向かう。
圭吾「・・・本当に誰の気配も感じねぇ」
城への門は内側からロックがかけられていて、簡単には開きそうにない。
なら、と圭吾は門ではなく、三メートルほどある城壁をよじ登った。
若干傾斜になっている壁に、踏ん張る両手と両足が吸い付く。
ざざっと時折、スニーカーが擦れる音が鳴るが、慎重に城壁を登り終えた。
圭吾「・・・」
上半身だけ乗り出して覗いても、そこに兵どころか人すらいない。
注意を払って敷地内に侵入すると、鼻に刺す臭いが漂っていた。
圭吾「うっ・・・」
嗅いだことのない臭いに顔をしかめながらも、圭吾は臭いのもとへ歩みを進めていく。
しばらく整備や剪定されていない庭にたどり着くと、臭いが一層に強く、腕で鼻を押さえた。
圭吾「・・・ゴクッ」
おそるおそる茂みの奥を覗き込むと、大きな麻布が何かを覆っている。
その麻布をめくると、そこには───
圭吾「っ・・・人、なのか?」
麻布の下には、人の部位がゴロゴロと転がっていた。
吐き気を堪えて布を被し直したその時───
[ゴンッ]
圭吾「ッ───」
何者かに後頭部を襲われ、圭吾は崩れ落ちる。
詠「終わった?」
兵士A「はっ! しかし、生かしたままでよろしいのでしょうか?」
詠「ええ。コイツ、十常侍の手下じゃないようだし・・・でも野放しにするつもりはないわ。牢に入れておいて」
兵士A・B「「御意っ!」」




