第三話「反董卓連合・・・華麗に進軍」
一刀「───という訳で、先鋒を任されたわけなんだけど」
頭に大きなタンコブを作った一刀は、目の前にそびえ立つ汜水関を軍を展開させて眺めていた。
汜水関の前では、愛紗と鈴々が「臆病者っ!」などの罵声を浴びせている。
雛里「・・・敵、出てきませんね」
朱里「汜水関には神速と謳われた"張遼"さんと、猛将"華雄"さんがいることは分かっています。おそらく、張遼さんが華雄さんを抑えているんだと思います」
星「しかし、これでは埓があきませんな」
桃花「どうしよっか、ご主人様? こう、天の力で何とかならない?」
一刀「んなこと出来るわけないでしょ・・・案が無いわけじゃないけど」
桃花「え? なになに、教えてっ!」
一刀「・・・星、ちょっと」
星「?」
話の輪から離れた一刀と星は、顔を近づけてひそひそと話始めた。
桃花、朱里、雛里の三人は首を傾げて、その様子を見守る。
一刀「・・・・・・って考えてるんだけど」
星「確かに華雄は・・・・・・・なるほど・・・うむ。さすがは我が主。ゲスの極みでございますな」
一刀「おい、人聞きの悪いことを言うなっ! だから星、一肌脱いでくれよ」
星「何を言うのです。こんな大役、主以外に務まるはずありません」
一刀「いや、ただあんたは外野で面白がりたいだけでしょ。絶対嫌だよ、俺」
星「では桃花様に・・・・・・と叫ばせるのですか? それもまた、主の趣味というならば仕方ありませんが」
一刀「いや、男の俺がやった方が余計にヤバイと思うんだけどっ!?」
桃花「ご主人様、星ちゃん、私達も会話に入れてよっ!」
星「ご安心なされ。主の策は、桃花様が要でございます」
桃花「え? 私?」
愛紗「猛将華雄とは名ばかりかっ!?」
鈴々「悔しかったら降りて来いなのだー!」
二人だけじゃなく、兵達全員が悪口を汜水関に向けて言い放っている。
関の中では、今にでも飛び出したい華雄が張遼(霞)に押さえ付けられているだろう。
鈴々「全然出てこないのだ」
愛紗「兵達も叫び疲れてきたか・・・」
愛紗も少し息が上がってしまって、一度後退を考えていた。
そこに兵士が一人、報告にやってきた
愛紗「どうした、何かあったのか?」
兵士A「は、はい。それが北郷様と劉備様が来ておりまして」
愛紗「なに!?」
驚愕している束の間、桃花と一刀は二人のもとまでやってきた。
僅かに、二人の頬が赤い。
桃花「あはは~、来ちゃった」
愛紗「桃花様っ!?」
鈴々「お姉ちゃんとお兄ちゃん、どうして来たのだ?」
一刀「今のままじゃ埓があかないからな。秘策を・・・ね」
桃花「う、うん・・・」
かぁぁっとさらに二人の顔が赤くなった。
その様子に愛紗と鈴々は疑問符を浮かべた。
一刀「ふぅ・・・よし! じゃあ、ちょっと行ってくる」
愛紗「え? 行ってくるって───ご主人様、桃花様。危険です!」
桃花「大丈夫だよ、愛紗ちゃん。上手くいったら、すぐ下がるから・・・」
弱々しく語尾が小さくなるのは、恐怖からではない。
モジモジしているその様子は、恥じる初心な乙女そのものだ。
愛紗「しかしっ・・・分かりました。ならば、私も同行させていただきます
鈴々「なら鈴々も!」
愛紗「鈴々、お前は何かあった時、兵を動かせるよう待機していろ」
鈴々「むぅ。分かったのだ」
一刀「・・・じゃあ、行こうか」
桃花「う、うん・・・」
愛紗(なんなんだ、このふわふわとした雰囲気は・・・?)
三人は部隊より先行して、汜水関に近づく。
汜水関内では・・・
華雄「くぅっ、離せ張遼! 完全に我らを舐めているっ!」
霞「どあほっ! それこそ敵の思うツボやっ! 誰か華雄を抑えつけときっ!」
兵達「「「はっ!」」」
華雄を三名の部下に任せて、霞は関の上から三人を見下ろした。
霞は、後ろに控えている黒髪が有名な関雲長だと分かったが、その前を歩く二人はあまり見覚えがなかった。
霞「あいつら何する気なんや?」
汜水関の兵士達、そして仲間の兵士達が注目している中、一刀が緊張した面持ちで桃花の後ろに立った。
一刀「じゃあ、やるぞ」
桃花「はいっ!・・・すぅ・・・はぁ」
一刀「すぅ───」
一刀も深呼吸をすると、声高らかに叫んだ。
一刀「華雄の・・・貧乳ぅうううっ!!!!」
[もにゅ]
桃花「あんっ!」
愛紗「なっ!?」
霞「はぁっ!?」
全員「「「えっ!?」」」
一刀の両手に収まった大きなメロン二つ。
それを目撃した全員は目を丸くした・・・一人を除いて。
兵士A「ぐわぁっ!?」
兵士B「ぶへっ!?」
兵士C「か、華雄将軍、落ち着いて───ぐはっ!?」
霞「か、華雄っ! 落ち着くんやっ!」
華雄「うるさいっ! 張遼には私の気持ちなど分からないだろうっ! 何と言おうと私は出るっ!」
鬼の形相で駆け出した華雄を誰も止めることは出来なかった。
残された霞は、溜まっていたイライラが爆発し、荒い口調で兵に虎牢関まで撤退すると告げた。
兵士D「華雄将軍は!?」
霞「連れ戻すに決まってるやろっ! 張遼隊! 華雄の部隊を援護しつつ、撤退まで時間かせぐでぇっ!」
兵士「「「応っ!!!」」」
事態が動き出したのを、後方で見守っていた華琳は確認した。
華琳「始まったわね・・・桂花」
桂花「ここに」
華琳「あなたの意見を聞きたいわ。私はどうするべきかしら?」
桂花「ここは静観を通すべきだと。この後の虎牢関でこそ、華琳様の実力を発揮すべきです」
華琳「もし、劉備がここで破れた場合は?」
桂花「それならば、問題はありません。華雄が討って出た後、孫策が動き出し始めました。おそらく袁術の差金でしょう」
華琳「そう。このまま我らは、本隊と速度を合わせ進行する!」
魏兵「「「応っ!」」」
そして、袁術(美羽)の命令により、戦闘に参加した孫策は関羽達と合流した。
雪蓮「は~い、関羽」
愛紗「孫策?」
雪蓮「報告受けたわよ。あなたの主達、そういう関係だったんだ」
愛紗「うっ・・・」
ニヤニヤする雪蓮に何も言い返せない愛紗。
もう既に、一刀と桃花は顔を真っ赤にしながら下がっている。
[ズキッ]
愛紗(・・・なんだ、この胸の痛みは)
二人のことを思い出すと、心臓を鷲づかみされるような感覚に襲われる。
もし、桃花の役目が自分だったらと想像した愛紗は、ボンっと顔を赤くした。
愛紗(な、何を考えてるんだ、私はぁ!?)
雪蓮(へ、へぇ~、関羽をも手懐けてるのね、あの御使い)
戦場のど真ん中で頭をガシガシとかく愛紗を見て、雪蓮は苦笑いを浮かべた。
まだ言葉を交わしていない一刀を恐れた・・・ある意味で。
華雄「ハァアアアアアアアっ!!」
愛紗・雪蓮「っ!」
馬上で巨大な斧を振るって突っ込んでくる猪に、二人は馬を走らせた。
雪蓮「関羽。あいつは私に任せちゃっていいわよ。汜水関取りは、本懐の足掛かりにならないもの」
愛紗「いいのか?」
雪蓮「あいつは母様にボロ負けして逃げた負け犬よ。この私が遅れを取ると思う?」
愛紗「・・・では任せた!」
馬の尻を叩いて、愛紗が先行していく。
華雄「行かせるかぁっ!」
愛紗「ハッ!」
横を通り過ぎようとした愛紗に、大斧が横薙ぎに襲いかかったが、愛紗はいとも簡単に斧を青龍刀で弾き返した。
華雄は追いかけようとしたが、次にやってきた雪蓮がそれを邪魔をする。
華雄「貴様、孫策かっ!」
雪蓮「あら、私のことは知っているようね。じゃあ自己紹介無しでいいわね、貧乳さん」
華雄「───殺すっ!」
馬を降りた二人が戦い始めると、その横を桃花と雪蓮の兵が通り過ぎて華雄の部隊と衝突した。
二つの軍隊を指揮しているのは、鈴々と明命だ。
今は仲間同士、お互いの兵の動きを見て指示を飛ばしていた。
そして先行した愛紗は、華雄の兵を切り伏せて汜水関を目指す。
愛紗「むっ、別の部隊・・・張遼か!」
開門した関の向こうから、騎馬隊が並列をなして現れた。
その中央で先陣を切るのは張遼だ。
霞「あれは、関羽か!? 華雄のことがあるっちゅうのに・・・関羽はうちが足止めする! お前らは華雄とその部隊を援護せい!」
兵士「「「応っ!」」」
霞「ほんまは、周りを気にせず思いっきりやりたいんやけど、今は我慢や!」
愛紗「関雲長! 参るっ!」
青龍刀の一突きが放たれた。しかし、霞は槍の柄がそれを防ぐ。
すれ違った二人は、馬をUターンさせ再び槍を構える。
霞「うらぁっ!」
愛紗(は、速いっ!?)
神速の突きを何とか防いだ愛紗。
噂通りの槍さばきに驚く愛紗だったが、霞も今の一撃を防がれたことに驚きを隠せなかった。
霞(確実に取った自信があったんやけどなぁ・・・ええで、最高やで関羽っ!)
「っ! いかんいかん! 今は抑えへんと」
もう一度、打ち合おうとした時、部下の一人が大慌てで霞に走ってきた。
兵士E「張遼様! 後方から、連合の本隊が来ました。これ以上は戦線がもちません!」
霞「なんやて!? くっ、華雄・・・撤退や! 撤退ーっ!」
華雄を諦めることに胸を痛めながら、軍を引き上げていく。
愛紗は深追いせずに一旦、自分の部隊に戻ることにした。
鈴々「愛紗ー!」
愛紗「鈴々! 孫策の部隊は?」
鈴々「敵が逃げたから、向こうも兵を下げたのだ。華雄は逃げちゃったらしいけど、詳しくは分からないのだ」
愛紗「そうか。とりあえず、先に汜水関に入ろう。鈴々はご主人様のもとへ報告しに頼む」
鈴々「了解なのだ!」
ささぁーっと鈴々は一刀達がいる後方へ向かっていった。
愛紗は部隊を率いて汜水関に進行する。
愛紗「初戦は連合の勝利、か」
緊張が抜けて愛紗は、空を仰ぎ見ながら頬を緩ませた。
愛紗「さて、ご主人様」
一刀「え? 今ので終わりじゃないの?」
愛紗「何を言っているんですか。まだ、桃花様にしたことの説明がされていませんよ」
一刀「いや、あれは敵を引きずり出すためであって・・・あの、愛紗さん? お顔が怖いです」
愛紗「私は生まれつきこの顔付きです。桃花様も何故あんなことを受け入れたのですか?」
桃花「ふぇ!? え、えっと・・・えへへ~」
愛紗「・・・」
一刀「愛紗!? なにゆえ槍をこちらに向けるのでございましょうか!?」
怯えて尻餅をつく主を見て、家臣の星はくすくすと笑っていた。
星「ふふっ。予想通り過ぎる展開に、自分で自分を褒めたくなる・・・ん? どうしたのだ、三人共」
朱里「・・・いえ、何でも」
雛里「ない・・・ない・・・」
鈴々「鈴々だって、いつかバインバインに・・・」
星「ふむ。胸が無いのも無いなりに利点があるとは思うが」
朱里「星さんに、私達の気持ちなんて分かりませんよ」
星「・・・なるほど、闇は深いようだ」